トランプ大統領のおもてなしには、故・安倍元首相の威光があったとは言え、ホステスとしての高市首相がここまで出来るとは思っていなかった。お互いを「サナエ」「ドナルド」とファーストネームで呼び合ったことで、官邸幹部は「120点」と成果を誇示したそうだが、自己評価はともかく、気難しいと言うより気紛れと言うべきトランプ大統領があれほど上機嫌だったのを見れば、上出来だったのが分かる。
安倍元首相が2019年にトランプ氏をノーベル平和賞に推薦をしたことを高市首相自ら「踏襲する」と決めて推薦状を手渡したのが、どれほど本意だったかは知らない。彼女がゴルフをする話は聞かないが、故・安倍元首相のゴルフ・クラブや、2017年のラウンドで松山英樹選手が使用したキャリーバッグと、余り趣味がよいとは言えない金沢産金箔を施しトランプ氏の名前を入れたゴルフ・ボールのセットを贈った。自らの権力は誇示するが自らにない権威には滅法弱いトランプ氏のために、天皇陛下との会見をセットした。マブダチだったシンゾーの奥様・昭恵さんとの面会もセットした。昼食会メニューには、高市さんの地元・奈良の大和丸茄子と米国産コメのグラタンが供された。勿論、GDP比2%の防衛予算を前倒し実施することを表明して喜ばせ、石破政権で約束した対米投資5500億ドルの中身を詰める議論も行って、しっかり継承することを示した。
今朝の日経によると、第一次政権のトランプ大統領を2019年5月に国賓として招いた際に関わった職員を東京に集めて準備にあたったそうだ。FOIP(自由で開かれたインド太平洋)構想に携わった市川恵一国家安全保障局長が会議の裏方を仕切り、故・安倍首相の通訳だった外務省の高尾直日米地位協定室長が通訳に入ったという。
しかし何より高市首相が大舞台に臆することなく堂々と、しかし明るくチャーミングに振る舞う姿は、何ものにも代え難かったのではないだろうか。ヘビメタ好きでバイクを乗り回すノリの良さ・イキの良さがあったし、女性らしいファッション・センスが光ったし、動きが機敏で小気味よく、久しく誰が首相になっても変わらないと言われてきた日本で、なかなかどうして、これほど日本人を明るい気持ちにさせることは想像できなかったのではないだろうか。そして予定より会談開始が遅れたことを詫びて、「今、トランプ大統領の部屋で野球(ワールドシリーズ)を見ていた」と笑わせた。なお、トランプ大統領との首脳会談に先立って出席したASEAN関連会議では、こう言っちゃあなんだが東南アジアのおじさんたちに囲まれて華があり、記念撮影ではど真ん中に陣取って、左右の握手の輪の結節点になっていた。女性だから配慮される側面はあるにせよ、恐るべき大胆さである。故・松下幸之助さんは面接で人のどこを見るのか問われて、「運と愛嬌」と答えたそうだ。政治家や経営者は人の輪を作らないと成り立たない。人に好かれる何かがないといけない。「君(高市氏)にはそれがあったから入塾させたんだ」と言われたそうだ。幸之助さんは高市首相の人となりを見事に見抜いていた。故・安倍元首相にも劣らない天性の「人たらし」かもしれない。そしてそれは一国の首脳にとっては大事な素養である。
シンゾーに続くサナエとトランプ大統領の新たな物語が楽しみになる。