自民党のある重鎮が、次の総裁になる人の条件を二つ挙げたそうだ。一つは選挙で勝てること、もう一つは野党と組めること。実にシンプルで分かり易い。重鎮と言っても、自民党にはもはやそれほど多く残っていない稀少生物で、麻生太郎氏だったと記憶する。確かに自民党にとっては重要なことだろう。
しかし、これを聞いて落胆しない日本人はいないだろう。外野、時に庶民にとって、組織の論理など二の次なのに、所詮は自民党というコップの中の争い、あるいは更に政治というコップの中の、世間のことにはお構いなしの腑抜けた平和であって、庶民の切実な憂いは届かないようだ。これじゃあ自民党は地盤沈下するばかりだろう。私たちの願いは、自民党総裁になる以上、自民党をどう変えるか、そしてより重要なことは、事実上、日本国の総理大臣になる以上、日本をどんな国にしたいか、ビジョンを語って貰うことなのだが、聞こえて来るのは耳障りの良い言葉ばかりで、どうも本気度が感じられない。
麻生氏の名誉のために付言すると、今なお政局の風を読む鼻だけは確かだと思う。小泉氏が18日に麻生氏に出馬を報告した際、「俺だったらこの歳でこんな火中の栗は拾わねえな」と呟いたとされるが(スポニチによる)、私もそう思う。
五人の候補者はいずれも小粒で、誰か一人が代表するのを想像するのは私には難しい。そもそもこのご時世に「火中の栗を拾」おうとするのだから、心掛けだけは立派なのか、ただの無謀なのか、大局が見えていない愚図なのか、まあそのあたりは措くとして・・・アメリカと交渉するなら茂木氏がタフそうだし、中国と仲良くするなら林氏がソフトで良さそうだ。おばさま方を前に辻説法するなら小泉氏が映えそうだし、右寄りの人たちを前に檄を飛ばすなら高市氏が力強い。他方、若さでは小泉氏に、保守の度合いでは高市氏に及ばず、優秀そうだが目立つことなく、欠点がないのが欠点と言われるコバホークは何が得意なのだろう。経済安保の念仏でも唱えてもらうか・・・・・・などと、茶化すのはご愛嬌。三日前、日本記者クラブで行われた公開討論会を報じた日経は一面で、「・・・トランプ米大統領が日本を含む同盟国との関係や国際秩序を揺るがす。論戦は安全保障や自由貿易体制を守る『世界』の視点に欠けた」と手厳しく総括した。私の関心はこちらである。ところが彼らの目線は飽くまで目の前の景気対策で、「各候補とも家計支援が目立った」「家計支援に関する発言は野党との協力をにらむ」(日経による)となる。それはそれで大事なことで否定しないが、それだけでは困る。何かと与党の足を引っ張るだけの野党はなかなか手を出さない「世界」の視点は、票にならないからこそ、政権与党にしか担えない自民党に期待したいことである。
事実上、今の日本で政権を担えるのは自民党しかいないのだから、しっかりして欲しいが、この体たらくは何だろう。一度、落ちるところまで落ちるしかないのだろうか。一人の庶民としては、2009年のような政権交代は真っ平ごめんだが、だからと言って、個別政策毎に、国民の歓心を買うばかりの国民民主や維新や参政党と組んで、政治の安定くらいしか取り柄がなかった日本が、放漫財政に陥って政治が不安定化して、良いはずはない。