NATO首脳会議のためオランダ・ハーグを訪れていたトランプ大統領は、記者会見でBBCウクライナ語サービスのミロスラワ・ペツァ記者の質問を受けた際、記者や家族の状況について尋ねたそうだ(一昨日のBBCによる)。

 記者から、パトリオット・ミサイルをウクライナに売却する用意があるか尋ねられると、それに答える前に、記者が子供とともにワルシャワに避難し、夫は軍人としてウクライナに残っていることを確認した彼は、そりゃ大変だね(Wow, that's rough stuff, right?)と同情して優しく返答し、ミサイルはアメリカ自身も必要だし、イスラエルにも供給していて、入手するのは難しいが(非常に効果的で100%の命中率だと宣伝するのも忘れなかった)、検討する(We’re gonna see if we can make some available.)と静かに答え、最後に次のように結んだ。I wish you a lot of luck, I mean, I can see this is very upsetting to you and say hello to your husband, OK?

 これもトランプ氏なのだ。故・安倍総理とウマが合ったのは、こちらのトランプだったのではないだろうか。

 トランプ氏が登場し、アメリカ社会が分断されて収拾がつかなくなりつつある現象は、トランプ氏が「原因」ではなく、「結果」だと言われる。これは重要なポイントで、彼もそれは分かっていて、MAGA派のご機嫌取りに余念がないし、世論や株価・為替などの指標をやたら気にしている。だから私は時々、次のような妄想に取り憑かれる。トランプ氏は確かに好き勝手に踊っているが、実は同時に操り人形か道化師でもあって、確かに好き勝手なことを言い続けて、その通りにアメリカを動かしているアメリカ合衆国のリーダーなのは事実だが、別の「意図」も同時に働いていて、確かにトランプ氏のものに近いからトランプ氏自身も気が付かないが、実のところ同床異夢ではないか、と。異夢と言うより近い夢ではあるのだろう。というのは、トランプ氏のやり方は乱暴だが、やっていること自体は概ね間違っていないと思うからだ。方向性はほぼ間違っていないが、彼が主張することは必ずしもアメリカ合衆国の国家意思そのものとは言えず、微妙に異なる真意が隠れているのではないか。

 第一次政権で、トランプ氏は中国に対して貿易戦争を仕掛けて、その後、中国との間で技術覇権を争う闘争へとエスカレートしたと解説されるが、そんなリニアなものではなく、トランプ氏の意図は飽くまで貿易戦争まで、貿易赤字を毛嫌いしていただけで、技術覇権闘争は必ずしも彼の意図するところではなく、彼が乗せられただけではないか。第二次政権で、ハーバード大学などのアカデミアがリベラルに過ぎ、反ユダヤ主義の学生に対して適切な対応を取らなかったことを彼は気に入らないと言うが、外国人留学生を減らすのは、そのようにトランプ氏が好む政策をとらせつつ、裏でアカデミアにおける中国の影響力を排除することを意図しているのではないか。だから私たちはトランプ政権における真意は何かを見極めなければならない。それはトランプ氏個人のキャラをいくら分析してみても分かりっこないので、アメリカそのもの、アメリカという複雑系のある側面が問題なのだ、と。

 こんなことを思うのは、権力はそんなに薄っぺらなものではないだろうと思いたいからであり、現にそういうものだと思う。が、これも変種の陰謀論か!?