企業や国のリーダーにとって、就任後の最初の100日はハネムーン(蜜月)期間と言われ、お手並み拝見とばかりに厳しくも温かい目で見守られるのはよく知られるところだ。事業や人を知り、目標を定め、行動計画を作成する、その後の1000日の成功を導くための言わば準備期間であり、企業で言えば転職が当たり前の欧米では当たり前の習慣だが、日本にもないわけではない。ある中堅企業に幹部社員として転職した知人によれば、100日レポートと称して、前職企業との違い、現職企業の強みと弱み、課題の抽出と今後の抱負を、会長・社長の前でプレゼンさせられたそうだ。社員の半分を中途採用し、社外取締役も積極的に活用する、オーナー企業だからであろうか、外の声にも積極的に耳を傾けようとする柔軟さが面白い。
トランプ氏も4月29日に大統領就任100日を迎えた。しかし彼の場合は二度目なので手慣れたもので、周囲を忠誠心ある太鼓持ちで固めたこともあって、さしたる混乱もなく、問題含みの大統領令を矢継ぎ早に発出し、世間の耳目を集めるだけではなく、相互関税をぶち上げるなど、世界中を混乱の渦に巻き込んだ。敵を敵対視するのはともかく、同盟国にも手加減しないマイペースの自国第一主義と、専門家の声に耳を貸さない「常識革命」で、早くも世間の厳しい目に晒されている。関税は大統領ではなく議会の権限なので訴訟が提起されており、予断を許さないのだが、そんなことは歯牙にもかけない猪突猛進ぶり(間違いと判断したらあっさり軌道修正する率直さも含めて)が彼らしさと言えるのだろう(本当は、前回ブログに書いたように、市場の動きや世論を気にしているはずだが)。トランプ劇場第二幕に世界中が翻弄されている。
第一期(1.0)では閣僚の更迭が相次いで政権のドタバタ振りを晒したが、第二期(2.0)では比較的スムーズで、唯一、マイク・ウォルツ国家安全保障担当大統領補佐官が、100日を過ぎて国連大使に転出することになった。表向きは、3月中旬に起きた民間の通信アプリ「シグナル」に絡む杜撰な情報管理、かつてニクソン大統領が辞任に追い込まれた「ウォーターゲート事件」に因んで「シグナルゲート」と呼ばれる情報漏洩問題だが、ウォルツ氏は「グローバルホーク派」として中国やロシアやイランに対して厳しい姿勢で知られ、和平交渉に後ろ向きの姿勢を崩さないロシアに対して制裁強化の必要性をトランプ氏に訴えられる数少ない人物だったようで、惜しい。斯くしてトランプ氏の「常識革命」は「トランプ流の常識」革命であって、甚だ危うい。
まあ、こうなることはほぼ分かっていたのに、何故、アメリカ国民は二度にわたってトランプ氏を選んだのか? と、今なお理解に苦しむのは、私たち日本人がアメリカ人のことを実はよく分かっていないせいだろう。少なくとも私は、マサチューセッツ州ボストンとカリフォルニア州サクラメントに5年暮らし、その後も付き合いがあるアメリカ人と言えば、西海岸シリコンバレーの企業人か、ニューヨークあたりの弁護士や会計士で、いずれもブルー・ステイト(民主党系)だったり、所謂(トランプ氏が嫌う)意識高い系(woke)の有識者だったりする。アメリカ中西部で、アメリカを(下手すれば州あるいはカウンティをも)一歩も出たことがなく、世界地図で日本がどこにあるか指差しできず、日本の首相が誰かも知らないようなアメリカ人とは、とんと付き合いがない。バイデン前政権は同盟重視でアメリカ的な理念(たとえば人権や民主主義)を重視し(見ようによっては重視し過ぎ)、安心して(やや退屈に)眺めていられた一方、口先ばかり恰好つけて行動力に劣るところが飽きられていたとは言え、一期四年だけでトランプ政権に舞戻るのは、極端に走り過ぎだろうと、ついぼやきたくなるが、後の祭りだ。