昨日のブログ(2017.1.12「ヨーガ療法研究」)でも触れたケント・M・キースの著書『それでもなお、人を愛しなさい』を再読しました。表紙に、サブタイトル的に「人生の意味を見つけるための逆説の10ヶ条」とあるように、世界中に多くのファンを持つ「逆説の10ヶ条」についての本です。提唱者である著者が、この10ヶ条が生まれるに至った背後にはどのような考えや物語があるのか、1ヶ条ごとに章立てし、わかりやすく解説しています。 


 
「逆説の10ヶ条」は、過去に一度ブログで紹介しましたが(2015.8.6「逆説の10ヶ条」)、初めて知ったのは、ヨーガ療法士養成課程の講義で取上げられたのがきっかけ。“真の幸福”とは何か?に対する考え方が伝統的なヨーガの教えと合致しているという観点から。
 
その頃(数年前)に、知人に借りて単行本(『それでもなお、人を愛しなさい』)を読んだのですが、昨日近所の図書館に行ってみたら、文庫版(上の写真)がありました。文庫版は、2010年8月に早川書房より単行本として刊行された作品を文庫化したもの(初版は2016年9月15日)です。さっそく借りて、一気読みしました本  
 
*以下、下線部は引用箇所です。
 
「逆説の10ヶ条」とは、以下の通りです(『それでもなお、人を愛しなさい』より)。 

逆説的な人生を送る中で、人を愛し、人に援助の手を差し伸べることによって、大いなる人生の意味を見いだすことになります」と著者はいいます。

「逆説の10ヶ条」を、1949年生まれの著者は、ハーバード大学2年、19歳の時に書いたそうです。それは、高校の自治活動で活躍しているリーダーたちのために書いた『静かなる変革--生徒会におけるダイナミックなリーダーシップ』という小冊子の一部で、「リーダーシップのための逆説の10ヶ条」と題されたもの。自身の体験と観察から生まれたものだといいます。50年近く前の話です、ね。
 
具体的なエピソードの一つとして、高校時代の生徒会活動で、リーダー格の上級生や校内の主流派的なグループに対して、屈することなく自身が正しい思う意見を提案するも嘲笑や攻撃的な言動を受けた苦い体験があります。
 
高校2年生になってまだ2ヶ月しかたっていなかった私が、校内のリーダーを相手にして戦うのは勇気のいることでした。私だけが反対の声を上げていた最初の数週間は非常に孤独でした。(P45)
 
それでも、自身の損得ではなく、自分がいる環境(ここでは高校)を少しでもよくしたいという思いが、周囲の生徒たちの心を動かしていきます。
 
そして、高校3年の終わりに行われた生徒の表彰式に出席するために体育館に足を踏み入れたときに、こんな洞察がひらめいたといいます。
 
その瞬間、3年生として達成したことや学んださまざまな事柄、そして、私が力を貸すことができた人たちのことを思って非常な満足感を覚え、表彰してもらう必要などないと感じたのです。私はすでに報われていました。立派に仕事をやってのけたことから生まれる充実感と満足感をすでに体験していたのです。表彰されようとされまいと、充実感と満足感がありました。この思いは私にとって大きな転機となるものでした。完璧な解放感、そして、完璧なやすらぎを感じました。正しいこと、良いこと、真実であることを実践すれば、その行動自体に価値がある。そのことに意味がある。栄光など必要ではないと悟ったのです。(P15-16)
 

なんと賢い高校生でしょう...。私自身の高校時代を振り返り、あまりの違いに愕然としてしまいます(苦笑)。
 
人生において、真の満足をもたらしてくれるものは何か? 
本当に大切なことは何か?
人生を豊かにしてくれるものは何か?
 
といった、誰もが根源的に求めているもの、いわば「真の幸福」を得るためのヒントがここに集約されていると思います。この点は、ヨーガの教えと通じるところ。
 
その後、社会に出て、仕事を続け、講演や著述活動を行うなかで、「逆説の10ヶ条」について耳にすることはなかったそうです。ところが25年経った頃から、さまざまなところで「逆説の10ヶ条」が流布していたことを知ることになります。
 
ある日ホノルル警察署の署長から電話がかかってきて、「会議に出た時に講演者の一人がケント・キースの“リーダーシップのための逆説の10ヶ条”というのを読んだのだが、あなたがケント・キースさんですか」と尋ねられたり、大学の図書館司書がインターネットで見つけた「逆説の10ヶ条」をプリントアウトして見せてくれたり、と。
 
マザー・テレサもインドのカルカッタにある孤児の家で、それを目にしていたというのです。マザー・テレサが亡くなってまもなく、ある会合に出席した著者は、知人から、マザー・テレサが生前に書いた詩を紹介されるのですが、それは聞き覚えのある言葉(!)だったといいます。その時のエピソードが、本書ではこう記されています。
 
翌日の夜、書店に行き、マザー・テレサの一生や活動について書かれた本の棚を探してみると、ありました。ルシンダ・ヴァーディが編纂した『マザー・テレサ語る』という本の最後のページに載っていました。詩のタイトルは「それでも」というもので、私が1968年に出版した10ヶ条のうちの8つがありました。言葉は詩らしくするためにフォーマットが変わっていましたが、まったく同じものです。作者の名前は掲載されていませんでしたが、ページの一番下に、「カルカッタの<孤児の家>の壁に書かれた言葉」と記されていました。(P17-18)
 

「逆説の10ヶ条」が世界に広まって、25年後にさまざまな形で著者のところに戻ってき始めたことで、「人々はいま、これまでもそうであったように、生きることの意味とスピリチュアルな真実に飢えているということを暗示している」と感じたようです。
 
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(裏表紙より)
 
もともとは高校生に向けて書かれたものですが、ビジネスリーダーからロックスターまで、世界中の人々を励まし続けているという珠玉の人生訓。幅広い年代層に一読をおすすめしたいです乙女のトキメキ
 
 
【逆説の10ヶ条】
 
1 人は不合理で、わからず屋で、わがままな存在だ。それでもなお、人を愛しなさい。
 
2 何か良いことをすれば、隠された利己的な動機があるはずだと人に責められるだろう。それでもなお、良いことをしなさい。
 
3 成功すれば、うその友だちと本物の敵を得ることになる。それでもなお、成功しなさい。
 
4 今日の善行は明日になれば忘れられてしまうだろう。それでもなお、良いことをしなさい。
 
5 正直で率直なあり方はあなたを無防備にするだろう。それでもなお、正直で率直なあなたでいなさい。
 
6 もっとも大きな考えをもったもっとも大きな男女は、もっとも小さな心をもったもっとも小さな男女によって撃ち落とされるかもしれない。それでもなお、大きな考えをもちなさい。
 
7 人は弱者をひいきにはするが、勝者のあとにしかついていかない。それでもなお、弱者のために戦いなさい。
 
8 何年もかけて築いたものが一夜にして崩れ去るかもしれない。それでもなお、築きあげなさい。
 
9 人が本当に助けの手を差し伸べると攻撃されるかもしれない。それでもなお、人を助けなさい。
 
10 世界のために最善を尽くしても、その見返りにひどい仕打ちを受けるかもしれない。それでもなお、世界のために最善を尽くしなさい。
 
(『それでもなお、人を愛しなさい』早川書房/ケント・M・キース=著/大内博=訳)