
いくら下手くそでも、バカみたいに殴ってきたら、1発や2発は当たるさ

俺だって、まだそんなにうまいわけじゃないからな

だけど、当たらないだろう

おまえ、ガードもろくに固めてないじゃないか

わざと殴られてるようにしか思えないんだよ
」山崎先輩は真剣な顔をしていた

「だから、辞めろって言ったんだ

こっちだって、殴られに来てるような人間を殴りたくないからさ

俺だけじゃない

他の人も、トレーナーも、みんなそう思ってる

おまえはボクシングをしに来てるわけじゃないだろう

誰かに殴られに来てるんだろう

川嶋、お前、本当は誰に殴られたいんだよ
」まったく意地悪な人だった

山崎先輩は、僕と奈緒子のことを、奈緒子と加地のことを、加地と僕のことを、
全部知っている

なのに、そんなことを尋ねてくるのだ

僕は答えられないまま、立ち尽くしていた

いっそ全ての思いをぶちまけてしまえば楽だったのかもしれない

山崎先輩はちゃんと聞いてくれただろう

茶化したりする人じゃないんだ

何人かの通行人が僕たちの脇を過ぎていった

中には僕たちをじろじろ見ていく奴もいた

僕と先輩が喧嘩でもしてると思ったのかもしれない

つづく