昨日、岡崎市シビックセンターコロネットであったヤノシュ・オレイニチャクさんのリサイタルに行ってきました。

 

 

ポーランドを代表するピアニストであり、現代最高のショパン弾き。

ショパン国際ピアノコンクール審査員を常任され、ワルシャワ国立ショパン音楽院の教授もつとめている。

 

…と、プロフィールに書かれていますが、そのお名前を私は初めて知りました苦笑い

映画『戦場のピアニスト』ではすべてのピアノ演奏と、手のみの演技をされた方でもあるそうです。

 

とにかく、ポーランド人でショパン弾きの第一人者ということは、本物のショパンを聴けるんじゃないか…と、オレイニチャクさんのリサイタルをとても楽しみにしてました。

 

 

 

プログラムはオールショパン。

―――――――― 前半 ―――――――――
夜想曲 第20番 嬰ハ短調 「レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ」
ポロネーズ 第3番 イ長調 Op. 40-1 「軍隊」
夜想曲 第19番 ホ短調 Op. 72-1
マズルカ イ短調 Op. 17-4
2つのマズルカ 第14番 ト短調 Op. 24-1、第15番 ハ長調 Op. 24-2
マズルカ 第27番 ホ短調 Op. 41-2
マズルカ 第21番 嬰ハ短調 Op. 30-4
スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op. 31

―――――――― 後半 ―――――――――
ワルツ 第9番 変イ長調 Op. 69-1「告別」
ワルツ 第7番 嬰ハ短調 Op. 64-2
バラード 第1番 ト短調 Op. 23
前奏曲 第20番 ハ短調 Op. 28-20
前奏曲 第4番 ホ短調 Op. 28-4
ワルツ 第15番 ホ長調
マズルカ 第47番 イ短調 Op. 68-2
夜想曲 第13番 ハ短調 Op. 48-1
ポロネーズ 第6番 変イ長調 Op. 53「英雄」

 

―――――――― アンコール ―――――――――

ピアソラ:オブリビオン

ショパン:練習曲 第12番 ハ短調 Op. 10-12「革命」

イェジー・マクシミウク:ロマンス

 

 

 

白髪で物腰の柔らかいヤノシュさん。

もしショパンが長生きされたらこんな風に歳を取ったんじゃないか…と思わせる横顔でした。

 

ロマン・ポランスキー監督の映画でもショパン役を演じられ、「ショパンの化身」と評されたそう。

 

背は大きい方ではないけれど、厚みのある大きめの手。

その指が鍵盤上をヒラヒラとしなやかに動くのが、とても印象的でした。

 

早いパッセージを鍵盤を撫でているだけのように見えるのに、ミスタッチもなく音が粒々になって聴こえるのが不思議。

流れるように美しい音と、フォルテで決めるところなんかは力強いハッキリした音。

 

ヤノシュさんのような巨匠になってくると、若いピアニストと違って、タッチや歌い方どうこうじゃない、どんな弾き方をされても納得してしまう説得力があるなぁと思います。

 

 

スケルツォやバラード、ポロネーズも良かったけれど、一番印象に残ったのはマズルカ。

哀愁漂う、イ短調のマズルカop.17-4では…

映像でしか見たことのないポーランドの自然の情景や、ショパンが住んだ街並みなんかが目に浮かんできました。

 

ヤノシュさん、マズルカを3曲弾く予定が、ノッてきたのか5曲弾いてくれました。

そのマズルカは、やはりポーランド人の血というか、肌感覚からくる本物…という感じがしました。

日本の民謡のこぶしのような、独特の歌い回し。

その伝統が体に染み付いたポーランド人にしか、こんなふうには弾けないんだろうな。

 

 

第1部の最後に、文筆家で文化芸術プロデューサーの浦久俊彦さんとのステージトークがありました。

 

「ショパンを演奏する極意を教えてください」という、浦久さんの質問に…

 

「ショパンを弾く秘訣があれば、私もぜひ知りたい(笑)

100人いれば100通りのショパンの弾き方がある

そこに優劣や、どれが正しいということはない」

 

「ひとつ言えるのは、演奏のなかに一つ“まこと”があること、何か自分の真実があるなら、どういうやり方であっても素晴らしいのではないか」

 

と、そのようにヤノシュさんはお答えになりました。

 

なるほど…

私はショパンを弾くのにえらく苦労して、先生からとても厳しく事細かに指導されるんですけど、なかなかショパンの音に近づけない…

でも、自分がこう弾きたいという、心から湧き出る何か…

それが真実でさえあれば、私は私のショパンでいいのかな?

…なんて、勇気づけられる思いでした。

 

 

「ポーランド人にしかショパンを弾けないのか」という意地悪な質問には…

 

「音楽の中の普遍性を知ること、演奏することはポーランド人だけができるわけじゃない。

だから、ポーランド人でなければ弾けないということは、全然ない。

でなければ、ショパンの音楽をこんなに世界中の人が愛するはずはない。」

 

と仰っていました。

 

「ショパンはポーランド人にとってどんな存在か」という質問には…

 

「ショパンはポーランド人にとって魂。

民族性、精神性、含めてポーランド人の全てだ」と。

 

浦久さんとの対話はフランス語。

(最初ポーランド語で話されたんだけど、まったくわからない…ということで笑)

ユーモアも混じえて、ヤノシュさんの優しい人柄のわかる、とっても楽しい時間でした。

 

 

いただいたシビックセンターの情報誌にあった、浦久さんの文章の中に、ショパンの音楽の象徴的な語として「ZAL」というポーランド語について記述がありました。

 

『ショパン自身もよく用いたのですが、他国の言語に翻訳するのがとても難しい。

あえて訳せば「哀愁」「郷愁」という失われたものへの哀感と諦観、それとともに「葛藤」「激情」「憤怒」という強烈な感情も含んだ複雑な表現。

その全てを包み込んで、ひとつの結晶のように昇華された美しさこそがショパンの魅力。』

 

ZALという語は、ショパンの音楽全てを説明しているとも言えますね。

 

けれど、「哀愁」「葛藤」「激情」といったものは、どこの国のどんな人にもある普遍的な感情だから、ショパンの音楽は世界中の人の心に響くんだろうな、と思います。

 

トークの中でヤノシュさんは、こんなことも言われていました。

 

「ショパンの音楽は言語や解釈を介さずに、直接人の心に刺さってくる。

そこが世界中の人に愛されている理由。

ニュアンスや変化に富んでいて、ひとりひとり、それぞれ違う部分で人の心に刺さる。」

 

 

リサイタルでピアニストさんの肉声で、その思いを聞くことができるというのは、いいものだなあと思いました。

 

 

ヤノシュさんの演奏を聴いて、ショパンの精神を直接感じられ、ショパンの魅力をまた新たに発見したような、そんな素敵な時間を過ごせました音譜

 

 

映画「戦場のピアニスト」

ヤノシュ・オレイニチャクさんの演奏による、ノクターン第20番と手の演技。

 

 

ショパンバラード1番。