車が3台やっと駐まれる程度の我が家の小庭。そこで毎日,小一時間ほど,庭木や草花の手入れをしています。今年も春を迎えアンズ、ツバキ,サザンカといった花木に続いてフリージアの花が咲きました。
▼4月05日 フリージアが咲きました。
私は、フリージアの花を見るたびに鶴田浩二さんと岸惠子さんの悲恋、そして鶴田さんの粋なはからいが頭をよぎります。
●フリージア(英名=freesia)
すいせんのような線状の美しい葉を伸ばし、細めの茎の先に、連なるようにたくさんの花をつけます。ほのぼのとした温かみのある花姿や明るい花色、さわやかな香気など、純真無垢な印象があるので、これから「無邪気」「あどけなさ」といった花言葉が生まれました。
花言葉(黄)純潔、(赤)愛想のよさ、(白)あどけなさ
岸惠子さんは、『岸惠子自伝』で鶴田浩二さんとの悲恋の思い出を、フランス出発時に羽田空港で鶴田さんの運転手さんから手渡れたフリージアの花束によせて、次のように書いています。
▼66ページ
鶴田浩二さんは壊れ物を扱うようにわたしを大事にしてくれた。
「今のままでいなさい。この世界のあくに染まって、女優臭くなっちゃダメだ」
(わたしはそれほど素直で簡単な女の子ではないのよ)と言いたかったが、胸の中で呟くだけにした。
(中略)
▼122ページ
一九五七年の四月二十九日、二十四歳のわたしは身一つで祖国日本を去ったのだった。その日、羽田空港でわたしは 共演した大勢の人たちに囲まれていた。
「ありがとう。みんな……ありがとう」
歩きだしたわたしにつれて、みんなはそのころあった見送り台のほうへ移っていった。そのとき、駆け寄ってきた顔見知りの男性がいた。
「預かってきました」
とだけ言って掌に入りそうな小さな花束を差し出してくれた。薄い黄色のフリージアの花束をくれた人は、鶴田浩二さんの運転手さんだった。
(中略)
小さな花束には、何のメッセージも、言葉もなく、運転手さんは愛橋のいい顔をほころばせてペコンとお辞儀をして去っていった。
(後略)
出典:『岸惠子自伝』岸惠子著 2021年6月4日岩波書店発行
1