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  • コーナー名の元ネタは「冒険野郎マクガイバー」。鬼塚扮する、アメリカのフェニックス財団に所属し、日常の悪と戦うニューヒーロー「アンガス・鬼ガイバー」が、財団に加わるエージェントを募集するためのミッション (お題) をリスナーに出題し、最もよい回答をした者をエージェントに選ぶ。
  • ミッションのメインテーマは「日常のささいなピンチをどう乗り切るか?」である。(例えば、2021年10月16日の回は「正座をしていたら足がしびれて動けない。さぁ、どうする!?」)

この回のお題は

お菓子の袋の切り口が、全然 開けられない!さぁ、どうする?

でした。以下投稿内容。

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彼は焦っていた。
お菓子の袋が、全然開かない…!
指の無い丸い手。うまく切り口をとらえることができず、苦戦していた。
あと5分もすると、ジェムおじさんが帰ってきてしまう…
焦れば焦るほど、袋はしわくちゃになるばかりで、言うことを聞かないのだった。

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彼の名前は、アソパソマソ。言わずと知れた、国民的ヒーローである。
彼の仕事は、皆も知っている通り。お腹をすかせた街の人々に自分の顔を分け与え、元気にすることだ。

しかし、ご存知だろうか。彼自身は何も食べないのである。
ジェムおじさんが配ったおいしいパンを街の人々が頬張っている時も、カレーまんマンが自慢のカレーを振る舞っている時も、アソパソマソはにこにこ笑って見ているだけ。
食事を一切必要としない身体を持っているのだ。

「いいかい、アソパソマソ。君は、人々の空腹を満たし、困っている人々を助けるために生まれてきた。それ以外の余計なことを考えてはいけないよ。」

「余計なこと…?」

「そう。世の中は雑念に満ち溢れている。例えば、君は美味しい食べ物と巡り合う機会がとても多いだろう。しかし、それを食べてみたいなどと思ってはいけない。毎度美味しいものに手を伸ばしていたら、君は人々の空腹を満たすという肝心な仕事を忘れてしまうだろう。
君は、その顔のあんこのエネルギーがあれば生きられる。ものを食べる必要はないのだよ。」

こうして、アソパソマソの欲求は封じ込められた。
それはジェムおじさんが、自らの作る顔だけをエネルギー源とさせることで、唯一無二の絆を保ちたいというエゴだったのかもしれない。

しかし、封じ込められたことでかえって、水面下のアソパソマソの欲求は膨れ上がっていった。

あのパンはどんな味がするんだろう?
みんな笑顔で食べているあのお菓子は?
「美味しい」ってどんな感じだろう…?

皆が食べる様子をニコニコ眺めながら、そんな疑問を1つ1つ溜め込んでいった。

そしてある日、決定的な瞬間が訪れる。

いつも通り、街の人々を困らせるバイキン野郎をアソパンチで吹っ飛ばすと、奴が落とし物をしていった。

お菓子だ。UFOに積んであったらしい。

手に取ると、思わず唾を飲んだ。

「お、落とし物は、持ち主に届けなきゃ…」

自分に言い訳をして、つい持ち帰ってきてしまった。

今、パン工場には誰もいない。
ジェムおじさんとパタ子さんは配達に行っている。
他のみんなはどこぞの国のパーティーに出掛けているらしい。
食べるなら、今しかない。意を決して、袋に手をかけた。
しかし…うまく開かない。
彼は焦っていた。

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何とかして、この袋を自力で開ける方法は無いか…?
考えを巡らせた結果、ある方法を思いついた。
まずペンを執り、お菓子の袋にバイキン野郎の絵を描いた。
そしてその袋を壁に貼りつけ…

「アソパーンチ!!」


袋は開いた。

しかし、砕けたお菓子はそこら中に飛び散り、壁には穴があき、凄惨な事件現場となった。

少しの間、彼は呆然と立ち尽くしていた。

「アソパソマソ?何があったの?」

そこへ、パタ子さんが青い顔をして戻ってきた。

ジェムおじさんもそれに続き、屋内を見回した。
そして、アソパソマソの顔を覗く。

「ジェムおじさん…僕…」

その瞬間、すべてを悟ったジェムおじさんは、

「いいんだよ、アソパソマソ。何も言わなくていい。そんな日もある。」

その言葉に、パタ子さんもはっと息を呑む。
「片付けましょう?3人でやれば、あっという間ね。」

♪そうだ うれしいんだ 生きるよろこび

パタ子さんは歌いながら片付け始めた。

♪愛と勇気だけがともだちさ

ポロポロと涙をこぼして歌詞の内容を噛みしめながら、アソパソマソたちは片付けを進めたのダ。