ブログネタ:恋するキモチを5・7・5で教えて!
参加中・・・もしもし・・・
時計は、午前四時を指していた。疲れ果てて眠りに落ちたボクは、約10分コール音を出し続けていた電話にようやく気がついた。張り詰めていた神経は限界を超え、音も無く・・・・ぷつんと切れていたようだ。
・・・奥様が、危篤状態に入りました。もう戻ってくる事は無いかもしれません・・・
戻ってくる事は無い。そう伝えられ急いで支度をする。頭はまだぼんやりと、正常な判断を的確に出す事は出来なかった。車のキーを握り締め、車庫へ。ドアを開け、両頬を一発ビシッと叩く。まだ、眼が醒め切っては居なかった。
エンジンを掛け、一般道へと車を走らせる。世が開けきらぬ薄暗さの中で道は空いていた。心はすでに病院に飛んでいたが、体はまだ10km手前を彷徨っていた。急がなくてはと急く気持ちと、事故らないように安全を確認する冷静に接点は無く、ただ淡々と前に進んでいく。
病院の駐車場に車を止め、闇にうっすらと浮かぶその建物を前にして、ボクの心は重く沈んだ。もう、二度と生きては会えない現実だけが、ボクの心に重く圧し掛かってきた。行かなくちゃ・・・・。でも、行きたくない。行ったら現実が待っている。現実なんかと向き合いたくない。逃げ出したい気持ちをぐっと抑え、病院の玄関ドアをくぐり、病室へ。
・・・遅かったんですね・・・さっきまで頑張っていたのですが・・・
心拍数はゼロを示していた。間に合わなかった。愛しき妻の体からは、温もりがどんどん抜けていく、そんな感じがした。酸素吸入器をはずされ、苦しそうだった表情を残したまま旅立った姿を見詰め、ふと、彼女は楽になったんだ・・・そう思いたかった。
・・・今、きれいに整えますから・・・
病室を出て、呆然とする。ああ、これが永遠の別れなんだ。いつかは来るかと思っていたが、こんなにあっけなくくるとは思わなかった。喪失感に呆然としながらも、もっと劇的な別れのドラマがあることをイメージしていた予想を大きく裏切って、現実の別れは淡々と、あっけなく始まりを告げる間もなく終わっていた。
・・・終わりました、お会いになりますか?・・・
看護師さんに整えられた、妻の死顔は、とても安らかそうな感じがした。彼女のこんな穏やかな表情を最後に見たのはいったい何時の事だろう。そんなことを思ってしまった。
・・・奥様が、握り締めておられましたよ・・・
看護師さんに手渡された一枚の短冊は、力いっぱい握っていたのだろう。中央部が千切れかけ、ボロボロになっていた。ボクは、妻の病状が悪化した昨日の夕方に、一枚の短冊に、5・7・5の短い言葉に妻への思いを込めて、書き込んだものを妻の枕の下に隠しておいた。
きっと、無意識のうちに握り締めたであろう短冊、ボクの、彼女への思いを込めた短冊は、彼女と共に永の旅路に就いたのであろうか?そんな思いを抱きながら、皺くちゃでボロボロになったそれをそっと開いてみた。
・君だけを、ただ君だけを、愛してる
その下に、うっすらと、蚯蚓が張ったような読みにくい、そしてか細い文字で書き足されていた。
・さようなら、旅立つあたし、許してね
涙があふれでて止まらなかった。もう、彼女が居ない現実だけが、そこに重く圧し掛かってきた。


