不自然な車と帰路。 | 届かない手紙〜自死遺族〜

届かない手紙〜自死遺族〜

最愛の夫を失った妻の記録。
二度と戻らない日々…
失った未来…
行き場の無い気持ち…
もう二度と届くことのない夫への想いを綴る。

 

 

レッカーして預かっていてもらっていた車の受け取りをした。

 

警察署の駐車場で車内の確認をした。

貴重品以外の荷物はそのまま車に残されていた。

 

行方がわからなくなってから1日半、車内で過ごした夫。

 

その形跡がそのまま残されていた。

 

 

綺麗好きで物を大切に扱う夫だった。

 

車内は禁煙で絶対に吸わなかった夫が煙草を吸っていた形跡。

沢山の吸い殻と飛び散った灰。

 

後部座席には乱雑になったクッションやブランケット。

 

あちこちに転がっている空になったペットボトル。

 

普段の夫なら絶対にありえない光景。

 

 

そして旅行用の鞄。

出張や旅行の際の荷物は基本、私が用意していた。

鞄の中を確認したら用意したはずのないものが出てきた。

 

筆記用具

 

ノート

 

ハサミ

 

懐中電灯

 

用意していた服とは違う服

 

 

着て行った服、用意した服、用意してない服。

服の枚数が合わない。

 

もう一度刑事さんに連絡し、確認した。

すぐに刑事さんは駐車場に戻ってきて話を聞いてくれた。

 

発見当時着用していた服装を教えてもらった。

 

すると…

「そうなんです、不自然なことに服を重ねて着ていました」と写真を見せてくれた。

 

脱がせる際にハサミを入れて切ってしまったのですが…

と着用してた服が一枚一枚写真に収められていた。

 

暑がりで、服を重ねて着るのは嫌いだったのに。

不自然なくらい厚着をしていた。

 

そして最後にもう一度亡くなった場所での状況を確認した。

どういう事だろう…そう思っていた不思議な点が理解できた。

生々しい写真、そしてその時の状況。

 

実際に見たわけではないのに鮮明に脳内に浮かび上がる。

 

 

私の様子を見て全員が車を運転して帰ることを反対した。

 

それでも

 

最後に夫が過ごしたこの車で

 

夫が残した形跡をそのままに

 

1人夫が辿ったこの道を

 

自分で運転して帰りたかった

 

 

いい天気だった往路も

 

なぜか復路は大荒れで

 

警察署で説明されたことを何度も思い出し

 

焼き付いて離れない夫の姿を思い出し

 

苦手な運転をしながら

 

何度も何度も涙を流しながら

 

もう夫が帰ってくることはない家へ戻った。

 

 

全ての検視が終わり、連絡が来るまで待つしかなかった。