ずっと思い出していなかったのに | 聞き捨てならん!!

聞き捨てならん!!

物で溢れている。
もう何もいらない。
捨てたい。捨てさせてくれぃ!

ずっと思い出していなかったのに
なんでだか最近このことをよく思い出します。
以下、私は田中花子、もう1人を下田君とします。


下田君は小学六年の頃に転校してきた。
お父さんがお医者さん。
私のクラスは当時としては少なめで30人くらい。
そのうち5人くらいのお父さんが医者とか大学教授とかだった。
頭の良い子女がたくさんいるクラスでした。
帰国子女の人も数人いた。

下田君はちょっと雰囲気が違う子だった。
おっとりしているというか。

学校では絵の具は12色セットのみが許されていた。
18色とか24色セットを持ってくる児童がいると
教師は見つけ次第それを没収していた。
ところが下田君は36色セットを持ってきていたが
先生は下田君には何も言わず、没収もしなかった。
「先生は下田君の36色は許すんだ。えこひいきだ」
とクラスのみんなは思っただろう。
私もそう思った。



ある日の図工の時間。
外で風景の写生だった。
下田君は私の横に座った。
いつもは優秀な児童同士で仲良くしているのに
なんで今日はよりによって私の横に下田君が?と思った。
私は絵が苦手だったので何を描いていいのかわからなくて
早く図工の時間おわんないかなぁーなんて思ってだらけていた。

写生も佳境に入りあと20分くらいで終わる、という頃
下田君が急に話しかけてきた。

下田「おい田中、あの木の幹の色はこんな感じか?」
田中「え?あー、うん、そうじゃない?」
下田「じゃあ右の方の色と左の方の色はすごく違う?」
田中「(え?違い?下田君はなにを言ってるんだ?
    木の幹といったらこげ茶だろうふつー)
    うん、そうじゃない?(知らんけど)」
下田「(パレットを私に見せながら)右の方はこういう色?」
田中「・・・・・・・・・。うん」

正直、なに?と思った。
なんで私に聞くんだろうとも思った。
(よりによって絵が苦手な私になんで?)
今思うと下田君はこんもりした木の
光の当たっている部分と影や陰ってる部分を描き分けようとしていた。
だから幹以外にも葉っぱも何度も詳しく詳しく細かく聞かれた。
なんで聞くんだよ、見りゃわかるだろ、と思ったことは書くまでもない。



小学校卒業以来、ずっとクラス会もなかったが
中学校の恩師の退職祝賀会で同級生たちと再開した。
そのときに下田君の話になり、
当時は誰も知らかなかったが、実は彼は色盲だとそのとき聞いた。

20年越しに襲われる後悔の念。
色を、ちゃんと教えられたら良かったのに!
おそらく下田君はプライドがあって
他の人には聞けなかったんだと思う。
おちゃらけキャラでお笑い担当だった田中花子には聞けたんだ。
色盲だと知ってたらもっとちゃんと色を教えられたのか?と言えば
それはまったく違うんだけど
36色セットの絵の具を先生が没収しなかったこともそのときに納得できた。



ずっとずっと思い出すこともなかったのに
どうしてだか写生会の下田君と、そのとき座った芝生の周辺の光景を毎日のように思い出す。