俺の面白いッ書 第766回

文庫本3冊購入。 金子ユミ「笑う四姉妹」(書き下ろし)、上田春雨「飛び込め地獄」(書き下ろし)、浅倉秋成「俺ではない炎上」(単行本は2022年)、三人とも初めての作家である。

 

日本男子は大阪で。 道産子は片岡と植竹。 ・・・片岡尚之が予選通過。 ・・・29才・勝俣陵が初優勝、苦節9年目の快挙である。 天晴れ! 片岡は4位タイだった。

女子は宮城で。 道産子は4人。 ・・・吉本ここね、阿部未悠、政田夢乃が予選通過。 内田が予選落ちした。 ・・・吉本は首位タイで最終日に臨んだが、一打しか伸ばせず、today-7と伸ばした、20才・菅楓華が逆転初優勝、ツアー2年目だから立派! また、スター誕生である。 ホントに女子は層が厚い。 吉本7位、政田15位、阿部49位だった。

 

 

本棚から引っ張り出して、山本甲士「ひかりの魔女」①②③を再読した。 スイスイと読みやすく、これも4日間で読了した。 

・・・真崎ひかり・85才のお婆ちゃんが、若くして離婚した長男・栄一郎が、その後、バイク事故で身体が不自由になった為、夫を亡くして自分名義になっていた家から、遠く離れた長男の家に移り住んで、25年が経った。 その長男も、今回、事故死した為に、今は11才年下の次男・要次郎一家が住んでいる自分の家に戻ってくる事になった。 要次郎は電気設備会社の課長、妻・奈津美は惣菜屋のパート、長男・光一は一浪中、妹・光来は中三の受験生、という一家であった。 婆ちゃんは中国拳法の鍛錬で、立禅(りつぜん)という苦しい姿勢を、毎日30分続けているから、毅然とした姿勢を保っている。 いつも作務衣の上に割烹着、アネサン被りの手拭いに地下足袋という格好である。 義母のその健常さを知らない母は、→出かける時に転んで怪我をして、寝たっきりになったら介護が大変、と一浪の光一に、外出には必ず付き添いなさい、と命令したのである。 ・・・この25年間、賀状のやり取りをしていたこの町の6人に、長男の訃報を知らせたら、香典を送って貰ったのでそのお礼に回りたい、という婆ちゃんに光一は同行した。 その内の5人は、主人を亡くしたひかりさんが、腕に覚えのある習字の資格を生かして、書道教室を開いた時の教え子であった。

 

・・・先ずは、ホームセンター「グッジョブ」の東尾店長、40才前後の太った男性が駆け寄って来て、→真崎先生! ごぶさたしております、栄一郎さんのこと、お悔やみ申し上げます、と婆ちゃんの手を握りしめた。 →こちらはお孫さんですか、すると要次郎さん一家とお住まいになるんですね、・・・私は真崎先生の一番の信者です、と光一にも自己紹介である。 次は、広い畑を耕している堤さん、60才位の白髪頭の痩せた男性、→真崎先生ッ!と走ってきて感激風だった。 20年も前に離婚して、以後、後添えも貰わずに、親戚付き合いの仲間と何とかやってます、と報告している。 次は江口さんという恰幅のイイおばさんだった。 「江口商店」の看板がかかった二階建ての家から、→あ~、真崎先生ッ!と大きなだみ声を出して階段を駆け下りて来た。 せんせ~い、と大きな雪だるまが婆ちゃんをハグしている。 夫と鮮魚の仲卸をやっている、という。

 

翌土曜日は、バス、JRを乗り継ぎ、二つ先の町だった。 敷地を塀で囲まれた豪邸だった。 「園部」という表札が掛かっている。 インターフォンを押すと、家政婦だと名乗った老女に、真崎ひかりが香典のお礼に訪れました、と目的を告げると、アポイント無しですか? と呆れてしまう声が、今はお留守なので、真崎様が来訪された事はお伝えしておきます、と冷ややかにインターフォンを切られてしまった。 次はまたバスに乗って、白壁会館だという。 光一は、→まさか、あの空手の白壁会館の館長? 婆ちゃん、何であんな有名人を知ってるの?と、恐ろし気に尋ねると、白壁君も書道教室の生徒だったの、と事も無げに言う。 光一が高校生の時に、空手部が白壁会館の中学生との試合で一人も勝てなかった事があって、その強さは町中に知れ渡っていたのである。 駅の券売機で切符を買おうとしていたら、→真崎先生ッ! と叫びながら60才位のおばさんが思い詰めたような顔で必死に走ってくる。 →先ほどは失礼があったようで申し訳ありません、と地面に両手をついて謝っている。 家政婦から真崎先生の来訪の連絡を受けて飛んできたのだという。 この奥さんが在宅だったなら冷たい仕打ちを受けなかったンだな、と光一は納得した。 主人に、絶対引き留めておきなさい、と命じられましたので、どうか、家にお戻り下さい、とプリウスに乗せられた。 家では家政婦さんが青い顔で畏まっていた。 園部さんは、ケヤキ製菓の経営の第一線から退いて、今は、監査役だという。 ケヤキ製菓は県内一の大メーカーである。 紅茶とケーキを頂いているうちに、初老の紳士が帰って来た。 →先生ッ、お越し頂きありがとうございます、本当に歳を取られない、仙人のようですね、と感嘆しきりだった。 更に光一を見て、要次郎さんのお子さんですね、口の辺りが似ていますね、と父を知ってる風で吃驚した。 →小三から中三まで、7年間、書道教室でお世話になりました、小四の時に両親が離婚して月謝が払えそうにもなかったので、好きだった書道を辞めようと思いましたが、それを察してくれた先生が先回りして、教室の事や幼い子達の面倒を見てげて、とお願いされ、母の帰宅が遅い事を知ると、おにぎりやイワシのヌカ味噌炊き等々の、絶品のお惣菜を随分御馳走になりました、あの味は今でも忘れらません、と昨日の3人と同じく、惣菜の旨さを繰り返していた。 そして、→栄一郎さんは私のひとつ上でしたから、余り、会話はありませんでしたが、要次郎さんの勉強はよ~く面倒を見ましたよ、算数も国語も飲み込みの早い子でしたね、と息子としてはこそばゆい言葉を頂いた。 光一は、→書道教室の生徒で、東尾さん、堤さん、江口さんという方はご存じですか? また空手の白壁さんも? と尋ねると、→いやあ、それなりに知っていますが、→真崎先生に一番可愛がられたのは私です、先生を思う気持ちも私が一番です、と胸を張って自信満々である。 これから何処へでも車で送る、という園部さんに固辞して、更に電車で白壁会館を訪ねた。 三階建てのビルに、「練習生募集 白壁会館」と大きな看板が掲げられている。 受付窓口で若い女性に訪問を告げると、イキナリ、ドアを開けて、→先生ッ、と白いジャージを着た坊主頭が出てきた。 全身プロテクターじゃないか、という分厚いゴツイ身体をしている。 応接室には、「用美道」と流麗に墨字で書かれた額があった。 これは婆ちゃんの字で白壁会館の開館にあたって、婆ちゃんがお祝いに贈ったものらしい。 機能性があり、それは美しさを備えており、正しい生き方に繋がって居なければならない、という意味で、例えば日本刀、切れ味が鋭くて、威力を発揮する戦いの道具ですが、同時に優れた刀匠による日本刀は美術品として大変な価値がある、これを扱うからには、哲学が無ければならない、むやみに抜いてはならない、剣術の腕を磨いて実力をあることを示して、実際に相手を切る事なく、争いを未然に防ぐ、これが用美道です、と自慢気に白地壁館長が説明した。 光一は意地悪く質問した。 誰が一番可愛がられた生徒でしたか? 白壁館長は、先生を慕っておられる教え子たちがたくさんいることは知っていますが、親以上の面倒を見てくれた先生に勝る事はありません、可愛がられたのは私が一番で、これだけは譲れません、と言い切った。誰もが自分が一番、と思い込んでいる妙な自信が、光一には眩しかった。 そして、立禅を教えてくれたのが白壁館長だった、と知らされた。

(さて、これで5人である。 もう一人は獄中囚人に書道を教えた時の、地元のヤクザだった。 ・・・ひかり婆ちゃんが優しい嘘を発揮して、真崎家の家庭を平和に立て直していく。 さらに、最初の5人の人脈が、ひかり婆ちゃんが仕掛けた魔法を、着実に実現させていく。 そして、イワシのヌカみそ炊き等々、ひかり婆ちゃんの美味しい料理が更に人脈を拡げていく。 三巻とも、ひかり婆ちゃんの魔法に助けられた人々ばかりである。 ワンダフルでスペシャルなひかりお婆ちゃん、最高である)

 

(ここまで3,400字超え)

 

令和7年(2025)9月29日(月)