令和7年8月22日(金)
俺の本棚~面白いッ書 第758回
文庫本3冊購入。 南杏子「アルツ村」(単行本は2022年)、西澤保彦「異分子の彼女 腕貫探偵オンライン」(単行本は2023年)、楡周平「限界国家」(単行本は2023年)である。
お盆明けの月曜日、近くの形成外科の一軒は電話に出ない。 まだ、お盆休みなのか、と呆れる。 車で20分の病院は、今日は予約で満員と断られ、明日の11時にやっと予約出来た。 何と、怪我した12日後の初診療である。 ・・・CTの結果、顔面の骨折はどこにも無し、と一安心である。 今後は、一日、二回の塗り薬で早くて2週間、かかっても3週間で、残っている痣は消えます、と頼もしく診察されてご機嫌に帰宅した。 ・・・反省、大である。 曲がったメガネのツルは無償で修理してもらったモノの、もし、レンズが割れて眼球が損傷したりすれば、失明の危機もあったかも知れないし、レンズの交換も高価である。 それ程の酷さであれば、充分、顔面骨折も考えられる。 とすれば、わが身のこの老体振りをしっかり頭に刻み込んで、今後は慎重に身を守らねばならない。 もう、呑み過ぎない、泥酔は絶対避けよう。
PGAはいよいよプレーオフ戦の最終戦。 これで年間王者が決まる。
LPGAはカナダで。 日本人11人。 ・・・初日、またしても岩井明愛がトップに立った。
欧州ツアーはイギリスで。 桂川、中島が参戦。
日本男子は苫小牧で。 道産子は片岡、植竹、鳥海が参戦。
日本女子は箱根で。 道産子は3人。
雫井脩介「クロコダイル・ティアーズ」(単行本は2022年)
クロコダイル・ティアーズ(鰐の涙)→ ワニは獲物を捕食するとき、相手の悲劇を悲しんでみせるような、偽りの涙を流すという。 英語で、嘘泣き、の意。
・・・陶磁器の老舗「土岐屋吉平(ときやきっぺい)」の店主・久野貞彦(62才)は、美濃の本家「土岐屋商店」の店主・久野順三と今度の作家企画展に出品する陶磁器の打合せ中である。 美濃が本家筋、「吉平」は次男が継いでいた。 上階の倉庫から下りてきた貞彦の妻・暁美(あきみ)と、息子の康平(4年前に、想代子「そよこ」と結婚、3才の那由太「なゆた」とマンションで3人暮らし)とも親しく挨拶を交わす。 吉平ビルの三階では暁美の実姉・塚田東子(はるこ)が夫の辰也とキッチン雑貨店を営んでいる。 東子は、鎌倉で繁盛しているサンドウィッチ店の本業があるが、賭け事好きの夫の辰也を縛り付けて置く為に、お飾り的にキッチン雑貨店の店主をさせていた。 ・・・順三をもてなす為に小料理屋で貞彦夫婦、康平一家と会食を共にしたが、順三は想代子の腕に隠れていた青痣が気になっていた。 ・・・順三が帰ってから数日後、想代子が那由太を連れて、→明日から祖母の七回忌で、佐賀の実家に4日間程、留守に致します、企画展でお忙しいのに済みません、と挨拶に来た。 ・・・翌日の作家企画展の初日から陶磁器が良く売れた。 貞彦は上機嫌である。 今日は嫁がいないんだから、こっちで父親と楽しく呑んだら?と、暁美は康平を誘ったが、逆に、たまの一人だから、どっかでゆっくりして、羽を伸ばしてくるサ、と断られてしまった。 ・・・深夜、日付が変わる頃、電話が鳴った。 →東鎌倉警察署ですが、久野康平さんが刺されて市立病院に緊急搬送されました、至急、お出で願えませんか? 受けた暁美は仰天した。 隣で目を覚ました貞彦も目を丸くしている。 病院に駆けつけると、救急隊員が聞き取ったのは、マンションで待ち伏せされて刺された、と康平がキレギレに言ったそうナ。 居合わせた刑事からいろいろ質問を受けている最中、白衣の医師が現れて、残念ですが、手術前に血圧が急激に下がって、心肺停止となりました、お気の毒です、と沈痛な表情で告知された。 暁美は泣き崩れた。 ・・・朝、6時、佐賀の想代子に康平の死を連絡して、早急に帰って来るよう指示したが、その時の戸惑った返事が、妙に頭に残った暁美であった。 昼過ぎに帰宅した想代子は、那由太が風邪気味なので実家に預けてきた、と朝の躊躇いの返事に納得がいった。 貞彦は想代子と連れ立って、異常がないか、康平のマンションに行った。 小柳と名乗った刑事が、防犯カメラの写真を出し、見覚えがありますか?と聞かれた。 想代子は顔色を変えて、答えた。 隈本さんじゃないかと思います。 署でもう少しお話を聞かせて下さい、と言われて了承し、義父には、帰ってからお話します、と頭を下げた。 ・・・夜遅く帰って来た想代子は、康平さんには申し訳ないことをしました、隈本は康平さんと付き合う前の交際相手でした。 しつこい性格の人でしたし、別れる時も正直、揉めました。 多分、康平さんを逆恨みしてたんじゃないかと思います。 最近、どうやって調べたのか、また連絡してきて・・・、まさかこんな事になるとは。
隈本重邦は三日後に逮捕された。 三年前に女性相手に傷害事件を起こし、執行猶予中で、更に職場でもトラブルを起こし、解雇されていた。 想代子と別れてから隈本の人生は歯車が狂い、そうなった原因の康平夫婦の仲を羨み、逆恨みして犯行に及んだ、という背景があった。 ・・・解剖後の遺体を返されて慌ただしく葬儀が行われた。 佐賀の実家から、想代子の実母・岸川敏代が那由太を連れて駆け付けた。 悲嘆にくれてハンカチで眼を抑える想代子であるが、那由太はまだ、父親の死が理解していないようで、それでも神妙な顔付きだった。 貞彦は岸川敏代に気持ちを打ち明けた。 今のマンションは康平の思い出や禍々しい事件を思い出させる場所でしょうから、ここの2階の部屋に孫とともに住んでもらいたい。 敏代はあり難く了承した。 ただ、ず~っと別居していた暁美にとっては、親近感の薄い想代子母子と、息子を失った喪失感と併せて、心から納得できない気持ちが残っていたが、結局、同居することになった。
約一年間の裁判には貞彦夫婦と想代子の3人が、必ず傍聴席にあったし、遺族意見では貞彦も想代子も証言席から気持ちのあるがままに胸の内を吐き出していた。 そして判決の日、16年の判決が下された最後に、突然、隈本が叫んだのだった。 →この際、正直に言いますよ、俺は逆恨みとかそういう理由でやったんじゃない、想代子と会ったとき、彼女から頼まれたんですよ、旦那のDVがきつくて毎日が地獄だって。 別れたいと言ったら逆上するに決まってる、何とかしてくれないか、自由になったら俺とヨリを戻したいって。 けど、裁判になったら知らんぷりだ、唆された俺が悪いのは百も承知だが、俺だけがこんな罰を受けるのは納得がいかねェ、検事さんよォ、調べてくれよ! 裁判長は、発言を慎みなさい、と黙らせたが、暁美や傍聴席の記者が色めき立った。 記者は想代子に言葉を投げつけるが、そんなの、でまかせに決まってるでしょッ、と声を張り上げて否定した。 記者会見には貞彦が立ち合い、同じく、呆れましたネ、反省の色が全くありませんネ、と吐き捨てた。
その状態を姉の東子に告げると、そういえば、葬儀の時、ハンカチで涙を拭いていた仕草、あれ、嘘泣きよ、涙は出ていなかったわよ、と断言して、暁代はいよいよ不信感を募らせるのだった。 息子を殺したのは嫁なのか、疑ったら最後、もう家族には戻れないのに、夫の貞彦はこの店を任せるのは、想代子と孫の那由太以外にない、想代子にしっかり仕事を覚えてもらい、那由太が成人するまで何としても存続させる、と固く決意するのだった。 しかし、暁代は疑惑を深め、あろう事か、那由太は本当に康平の子か、まさか、隈本の子じゃないのかと、とうとうDNA鑑定まで言い出した。 (このアトも延々と疑惑の状態が続き、最後の最後まで、もしかして、隈本の言った通りなのか、と読者にも疑わせる内容であり、結構な読み応えだった)
(ここまで、約3,300字)
令和7年(2025)8月22日(金)