令和7年1月18日

俺の本棚~面白いッ書 第721回

元大関・貴景勝が28才で引退して湊川親方となった。 相撲解説で先場所に続き、今場所で2回目の登場であるが、声も良く、年輩力士は勿論、自分より格下や若輩の力士にも○○関と、敬称を付けて呼んでいるのは好感が持てるし、各力士の得意技を的確に見抜く慧眼に恐れ入った。 何回も横綱に挑戦して怪我で挫折した己れを見詰め、後輩の胸中を思いやる言葉の端々に、経験した者にしか口に出来ない真実が溢れ出る。 若いのに立派である。 見直した事を正直にここに訴えたい。

 

今場所で定年退職する立呼び出し・次郎のインタビューがあった。 呼び出しの他に上手な筆で書き込む取り組み表とか、いろいろな業務が課されているが、次郎は「土俵づくりの名人」と尊敬されていたらしい。 正に陰の主役であった。 顔は高校同級生のTと瓜二つだったが、受け応えの口の形が違っていた。 ちょっと悲しい。

 

砂被り席は30,000円だという。 その席は4時頃から満員になるが、それだけ高額な席を買われる相撲好きならば、ぜひ、2時半頃から始まる幕下上位5番と十両の取り組みを見て欲しいと思う。 幕内優勝の期待感もあろうが、大相撲の醍醐味はむしろ、こっちかナ、と思っている我が身の勝手な言い分であるが・・・。 昨年9月の東京場所迄、年3回の東京場所の砂被り席の西側通路に陣取っていた常連男性客が見えない。 この4ヶ月間、彼の身に何があったのか? 15日間を半分コしていたようなもう一人の常連男性が、向こう正面や東側砂被り席に毎日席を変えて姿を見せている理由も知りたいが・・・。 

 

横綱・照ノ富士が引退した。 大関で大怪我をしてから序二段まで落ちて、そこから奮起して横綱迄登り詰めた凄い力士である。 最近は休場が多かったが、ここ迄の奮闘に絶大なる拍手を贈ろうではないか、天晴れ!

 

大力士・大鵬の孫、王鵬が一皮向けたように覚醒して6連勝である。 当初は、随分傲慢な四股名だと思っていたが、この儘、勝ち進めばそんな罵声も声を顰めるだろう。 我が一山本は42敗と先ず先ずである。 大相撲はやはり面白い。  

 

 

PGAには、久常涼、金谷拓実、星野陸也、大西魁斗が出場。

欧州ツアーはアラブ首長国連邦で、中島敬太、桂川有人が出場。 ・・・中島が予選通過。

 

 

図書館から借用した文庫本、西條奈加「婿どの 相逢席(あいあいぜき)」(単行本は2021年)は結構な読み応えだった。 流石の北海道出身の直木賞作家である。 ・・・小さな楊枝屋の四男坊・鈴之助は、大店の仕出し屋「逢見屋」の跡取り娘・千瀬と恋仲になり、晴れて婿入りするが、祝言の翌日、大女将・お喜根から思いもよらない話を聞かされる。 それは、→「逢見屋」は代々、女が跡を継ぎ、女将として店を差配する、私が大女将、女将が千瀬の母親・お寿佐、そして、若女将が千瀬、この三人がこの家の主人です、父親の安房蔵も婿養子です、よ~く弁えて置きなさい、との命令だった。 堪らず鈴之助が問うた、婿の役目は? 冷然と答えが返ってくる。 子を生すこと、それも玉のような女の子を! 安房蔵が良き手本です、しっかり見習いなさい!

 

まるで種馬の買い殺しである。 月に二分(半両)の小遣いで、店には一切拘わらず、ゴロゴロしていればイイ、とは、傍目からは極楽のようであるが、とんでもない。 千瀬が涙ながらに言う。 →私はどうしても鈴之助さんと一緒になりたかった。 だから、婿養子として最適な人だと大女将が認めて、厳重に口止めされていたの、これが先に知れたら誰も婿さんになってくれないから・・・と、謝る妻は心から好いた娘だったから、鈴之助の心は明るい。

 

千瀬の妹の17才のお丹、11才のお桃、家事一切を任されている婆やのおすが、等々、或る意味、屈強な曲者女系が回りを固めている。 鈴之助の味方は千瀬ひとりだけ。 ・・・第1章では、三女・お桃と鈴之助は心を通わせた。 第2章では、鈴之助は板場の若い衆との仲を深めた。 第3章では、仕出し屋の大得意・井桁屋の遺産騒動で鈴之助が絶妙の差配を見せる。 第4章では、次女・お丹の心の内にある、自分は女将になれない怒りを彼女自身に気付かせて、安房蔵との関係をすらりと解き、普段は見せない女将・お寿佐の本来の優しさを表に引き出した。 第5章では、大女将・お喜根の若かりし時分の慕情と過去を知るのだった。 ・・・更に第6章から最終第10章まで見事な連作である。 最後に見事などんでん返しが待っていた。 ホトホト感じ入った。 作中の因果応報と言う、悪い感じの意味は、ここでは、「悪因苦果もあれば善因楽果もある」という、捉え方ひとつで価値観が変わる事を知った。 →主人公の鈴之助はおっとりとした柔かな温かみで人を包み込み、人の気持ちをなだらかにしてしまう、落語では登場しない全く新しい江戸っ子である、と解説の柳亭小痴楽が言っていた。

 

U内科から借用した文庫本、住野よる「君の膵臓をたべたい」(単行本は2015年)の終章には、滂沱の涙にくれてしまった。 何という結末か! ・・・志賀春樹は、病院で盲腸のアトの抜糸をした時に、本好きが為の、忘れモノらしい文庫本を拾った。 タイトルが闘病ならぬ、「共病文庫」、何とそれは、クラスメイトの、いつも活発で明るい山内桜良が綴った秘密の日記帳だった。 そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もう幾ばくもないと書かれていた。 家族以外の人に知れたら、みんな気を遣って普段通りの楽しいお喋りも出来なくなってしまうから、絶対に秘密にしている事だった。 それを春樹に知られてしまった。 親友の恭子にさえ秘密にしている事なのに・・・。 そして命尽きるまで続く二人の付き合い、「秘密を知ってるクラスメイト」は、実は、目立たない「根暗そうなクラスメイト」、「地味なクラスメイト」でもあった。 人付き合いが苦手な春樹は、いつも一人で読書に夢中になっている男子だった。 だから一人も友人が出来た試しは無かった。 ・・・二人はクラスの皆からいつともなく、「仲の良いクラスメイトくん」と噂されるほどになって、半信半疑の目で見られるようになった。 ・・・秘かに、死ぬまでにやっておきたい事を決めた桜良は、春樹を強引に伴って、焼肉(特にホルモン)食べ放題、甘いもの食べ放題、更には、アトから知って驚く春樹を、新幹線で福岡への一泊旅行、豚骨ラーメンを替え玉付きで平らげ、学問の神様が祀られている神社に詣でて、梅が枝餅を頬張り、街に戻ってモツ鍋をツツき、ホテルに着くと恭子から金切り声の携帯が、→桜良! どこにいるのッ?と、怒鳴られ、ホテルのミスで高級な、一緒のダブルベッドの部屋に泊まる事になってしまった・・・

軽妙なタッチで筆が進んでいく。 この作者を見直した。 続編がありそうだから気にして置こう。

 

知念実希人「機械仕掛けの太陽」(単行本は2022年)

全世界で700万人の死者を出した未曽有のコロナ禍と如何に戦ったのか?と言う、実話紛いの過酷なストーリーである。 始まりは2020年1月から・・・。

大学病院の消化器内科医・椎名梓はシングルマザーで4才の男児と母親の春子と住んでいた。 同じ病院の看護師・硲(はざま)瑠璃子は恋人と同棲中、二人はコロナ病棟の担当を命じられた。 診療所で地域の医療に尽している70才越えの町医者・長峰邦昭。 この三人に纏わる過酷な現場の2年半のリアルが描かれている。 自らもコロナの恐怖に晒されながら、必死に患者を救う為に奔走するも、それを嘲笑うような無知な世間の目。 そして極限の状態に追い込まれて壊れそうになるも、じっと耐えて突き進む、それぞれの気力に素直に感服する。 ・・・525ページの長編なので時間がかかったが、当時のコロナ禍の安全地帯にいた自分を省みて、看護従事者に対する感謝の気持ちが無かったナ、と申し訳なく思う。

 

Oさんからマアジャンの代打を頼まれたが、その日は町内会のカラオケ会の新年会で、既に会費も支払い済みだったので、心残してお断りした。 それ以外の日であればお付き合いします、と答えたが他の3人の都合が合わなかったらしい。 残念! やりたかったナ。

 

(ここ迄3,300字越え)

 

令和7年(2025)1月18日(土)