俺の本棚~面白いッ書 第703回
令和6年9月30日
ゴルフ日本女子は茨城県でメジャー戦、道産子は小祝さくら、菊池絵里香、阿部未悠の3人。 ・・・21才・竹田麗央が優勝(3,000万円)、今季初優勝に続く7勝目、それもメジャー戦とは驚きの快進撃である。 阿部22位、菊池45位、小祝48位に撃沈した。 PGAからこっちに廻った古江は4位だった。
男子は愛知県で。 道産子は片岡尚之、植竹勇太の二人。 ・・・31才・幡地隆寛が今季初優勝に続いて2勝目(2,200万円)、植竹22位、片岡30位だった。
それにしても同じ四日間大会で優勝賞金が違い過ぎる。 男子が可哀想だ。
PGAはカナダで二年に一度の「プレジデンツカップ」、米国選抜12人と世界選抜12人の対抗戦。 松山が6回目の出場。 世界トッププロの妙技に酔い痴れる数々、迫力あるプレーは日・月早朝のテレビの楽しみである。 三日目迄、ダブルスでフォアボール9マッチ、フォサム9マッチ、最終日はシングルス12マッチ、計30マッチの勝負であるが、米国が18.5ポイント、世界選抜が11.5ポイントでアメリカが圧勝した。 ただ、松山が世界ランク1位のシェフラーに勝ったのはお見事だった。 圧巻の見応えだった。
LPGAはアメリカで。 日本人は渋野、畑岡、笹生、勝、稲見、西郷、西村、吉田の8人。 ・・・西郷真央4位、畑岡奈紗7位、西村優菜12位、勝みなみ37位に終わった。 笹生、渋野、稲見、吉田の4人が予選落ちだった。
欧州ツアーはスペインで星野、桂川、中島の3人。 ・・・星野陸也だけが予選通過。 29位(23千€)に沈んだ。
「札幌 T村ふるさと会」のK会長が高齢の為、今回で退きたい、との事である。 毎年一回、ホテルでの懇親会であるが、名簿の管理や開催・出席案内を一人でやっていたから、そのご苦労に深く感謝である。 ところがT村の村長が、誰か、札幌在住の人を捜して、会は継続して欲しい、と要望があり、後任会長捜しの願いがこちらに舞い込んできた。 事務局はT村役場に移し、名簿管理や案内状は役場側が行うので、K会長にそのままお願い出来ないか、と懇請したが退く決心は固かったそうだ。 新会長は年一回の開催挨拶文の文言と懇親会の挨拶だけである。 それでT中学校同期のNを推薦し、本人にこちらからも説得を行った処、何とか、受任してくれそうだ。 良かった! 一件落着である。 10月に行われる会、開催当日の開会一時間前に、T村長と役場から二人、K会長、同期のNと私、計6人が、打ち合わせを行って、会の始まりに後任会長を紹介する事になるだろう。
文庫本4冊購入、町田そのこ「星を掬う」(単行本は2021年)、知念実希人「傷痕のメッセージ」(単行本は2021年)、下村敦「情熱の砂を踏む女」(単行本は2022年)、角田光代「タラント」(単行本は2022年)である。
兵庫県知事、不信任決議案の県議会86人全員の可決を受けて、失職して出直し知事選に臨むという。 呆れた! 当選出来る自信がある事が驚きであり、兵庫県民を舐め切っているのか、と、その人間性の欠けた考え方に大きな疑問が湧く。 死して抗議する、と自殺した県の幹部からの告発が発端である。 一体、どこから来る狂信なのだろうか? 百条委員会や、ぶら下がりインタビューの受け答えの、ノラリクラリの同じ言い回しにも呆れていたが、果たしてどんな結果になるのか、まさか、当選させる県民性はないだろうと思うが・・・。
全国でチエーン展開している「うなぎのN」をテレビで知って、ネットで検索すると札幌市内に4軒もあった。 腕のイイ職人が居なくてもふっくら焼き上げる最新のマシーンがある、という。 うな重、外国産の鰻一匹分が税込みで2,600円、四分の三匹が2,200円、半身が1,600円という格安である。 国産の鰻・特上一匹分が4,400円。 我がマンションから15分ほどの、札幌で一番先にオープンした店に行って来た。 2,600円を注文したが、旨さ文句なしである。 米も我がⅠ町の隣村、K村産と謳っていた。 ご飯は結構な量で少し残してしまったので、次回は四分の三匹にしようかと尋ねると、ご飯の量は同じだという。 じゃ、また2,600円だナ、と思いながら帰って来た。
藤岡陽子「海とジイ」(単行本は2018年)
ー海神ー
塩飽(しわく)諸島の佐柳島は夫・真鍋毅の故郷である。 香川県の多度津からの船で行く。 毅の両親は既になく、祖父が漁師をしていたが、4年前に前立腺ガンが見付かって、今は、毅の伯母の独身の百合子さんと二人暮らしである。 結婚してからも夫は数回訪れているが、妻・千佳は行った事が無い。 小4の息子・優生は今、引き籠りである。 体育の授業でお漏らしをしたのが原因でクラスで虐めに遭っていた。 5才の妹は茉由と言う。
百合子さんから、→ジイちゃんの具合が悪い、と電話があったが、毅は、→忙しくて行けない、優生と茉由を連れて、真鍋家の跡継ぎをジイちゃんに見せてやってくれ、ひ孫を見ればまたひと踏ん張り出来るかも知れない、と強引に請われて千佳は観念した。 夫婦の喧嘩腰の会話にいたたまれなくなったのだろう、優生が、→ぼく、行ってもイイよ、と一年振りの外出を決心してくれたのだった。
船上からたくさんの島々が見えて来た。 茉由が歓声を上げている。 太陽の光を浴びる優生を見るのも何か月振りだろう。 嬉しくて、千佳は走る船の飛沫と優生の横顔を交互に見詰めていた。 多度津港を出てから一時間、桟橋に着くと20名程がぞろぞろと陸に上って行く。 この島の住人70人程と聞いていたから結構な人が出かけているンだ。 →わいが毅の嫁さんか? 遠いところ、よう来てくれたなァ、と声が掛かった70代の女性が、にこにこと手を振っている。 大ジイちゃんこと、真鍋清次・95才も、満面の笑みで一緒だった。 →この子が優生か、ほんでこのこんまい子が茉由、うらは清ジイや、おまえらのとっちゃんのジイちゃんや、わかるか?と大きな声で言って来る。 耳が遠いらしい。 もともと人懐っこい茉由はジイちゃんの手にぶら下がる様に歩き、優生は俯き加減にアトを付いている。 荷物を持ってくれた百合子さんは、→ここには亡くなった人の魂を埋葬する「詣り墓」と、体を埋葬する「埋め墓」があって、どうして別々に埋葬するようになったのか、今でもはっきりわからない、らしい。 →島の人は海の仕事が多くて、ご遺体が戻らない事が多かったから「詣り墓」が出来たのかも知れんがのう、と百合子さんが言う。 島には猫が目立った。 白、黒、三毛が餌欲しさに寄って来る。 →300匹位いるかのう? 今は漁師が五軒だけじゃが、昔は漁が盛んだったからなァ、餌も貰い放題じゃったやろう、と清ジイちゃんが溜息を吐く。
清ジイちゃんが優生に、→総領息子よ、島一番の名所の大天狗神社に連れて行こう、探し物を取り戻してくださるご利益のある神社なんじゃ、30分は歩くから、探し物を思い出しておけ、と笑い掛ける。 前立腺に出来た癌は、背骨、肋骨、骨盤にも転移している、と百合子さんがこっそり教えてくれたが、そうは見えない元気な足取りである。 坂道を昇りながらその先に長~い石段が続いている。 清ジイは、流石に中途にある踊り場毎に立ち止まり、大きく息を吐き出していた。 →毅のとっちゃんはなァ、35歳の若さで死んじゃった、体が弱くて漁師は無理だったので、多度津の高校に勤めていた教師だった。 嫁さん共々この島に移り住んで船で通っていた。 しかし、ある台風の日、暴風雨から島の船を守る為に港に駆り出されたのである。 高齢化が進んでいる島の中では一番若かったから、頼む、力を貸してくれ、と言われて断れなかった。 強風が港の水面を渦巻きみたいに泡立たせ、岸壁からの飛沫が視界を塞いだ。 船を陸に上架させてロープで固定しようと準備に掛かった時に、息子は突風に煽られて、ロープにしがみ付いた儘、大きな弧を描いて海に落ちていくのを清ジイは目にした。 息子は渦巻きの中に沈んで行った。 息子の毅は8才だった、今の優生よりこまかッたんじゃ、だから、次の日から毅はこの神社に毎日通ってお詣りした。 とっちゃんを探してくれ、とな。 海に落ちたまま還ってこんかったからな。 ところが毅は、→亡骸じゃない、強い心じゃ、何にも負けない強い心を探してもらっとるんじゃ、という返答だった。 清ジイちゃんは言う、→強くなりたいと願った時に、人はもう強うなってるもんじゃ、わしは毅に教えてもろうたわ。 薄緑色の鳥居を潜り抜けると、小さな祠が見えて来た。 岩肌の中に天狗の顔が浮かんでいる、→岩の中に・・・ 天狗がいる!と優生が小さく叫ぶ。 →さあ、優生、天狗様にわいの探し物を出してもらえ、と清ジイが柏わ手を打ちながら言う。 優生は岩の中に埋まっている天狗の像を食い入るように見詰めていた。
石段を下りながら清ジイは優生に語り掛ける。 →これまで生きとると、ええ事も悪い事もたくさんあった、勝つ事も負ける事も、逃げる事もあった、ただな優生、逃げてもイイが逃げ続ける事は出来ないんだ、自分の人生から逃げ続ける事はできないんじゃ、と諭していると、優生の太股に力が入って両膝が小刻みに震えている。 トイレに一人で行けない、という引き籠りの発作が襲ってきたのだろう。 それを知らない清ジイは、ほれ、こっちで立ち小便するぞ、と藪の中に引き連れて行った。 まもなく、勢いのある水音が聞こえて来た、ほとばしる水流が枯葉を打ち、四方八方に飛び散る音だ。 そのためらのいない自由な音に千佳の胸が引き絞られた。 引き籠りの理由を知っている茉由も嬉しそうに見上げている。 ・・・石段を降り切った時に、突然糸が切れたかのように清ジイが前のめりに倒れた。 意識を失い、仲間の漁師にお願いして、船でそのまま多度津の救急病院に緊急搬送されたのだった。
病院で百合子伯母さんが言った。 →何日か前に毅から電話があっての、優生がもう一年間も学校に行っとらんから、ジイちゃん助けてくれ、ウチの息子を救ってやってくれ、と頼まれて張り切ったんじゃわ、普段は殆ど口をきかんジイちゃんなのに、伝えたい事がたくさんあったんじゃろ、よう喋ってたのう。 ベッドで清ジイの頭側にいた優生が、→清ジイ、ぼく、学校に行けてないんだ、本当は行きたいけど無理で・・・と語り掛けると、清ジイは酸素マスクをずらし、優生の頬に触れて耳元で唇を動かした。 それを聞いた優生は深く頷いた。 大事な約束を交わしているんだな、と思ったが、千佳にはず~ッと教えてくれなかった。 そのアト、優生は一人で病院のトイレに向った、顔は蒼褪めていたけれど、凛として薄暗いトイレに入って行った。
そして一ヶ月後、優生が受けた電話は百合子伯母さんからだった。 →午後6時18分ご臨終、清ジイが死んだって・・・、と千佳に告げる。 顔には涙の跡がある。 →僕、明日から学校に行く。 清ジイと約束したから・・・ うらが死んだらその日の内に優生の元に行ってやるけん、と言ってくれたから・・・、どんなに怖くてもジイちゃんが護ってくれるから。 千佳はランドセルを背負った優生を抱き締めた、あの日、千佳が願った探し物は息子の笑顔だった。 優生の髪に顔を埋めて千佳は涙を流した。 湿気を含んだ潮風が流れ込んできた・・・
ー夕凪ー
地元医療に尽した医師の月島ジイの恩師は、塩飽諸島の高見島(佐柳島の手前)で診療所を開いていた。 月島ジイの元で長年、共に働いてきた50才間近かの看護婦が、高見島に行った月島ジイを訪ねて行く。
ー波光ー
塩飽諸島・高見島で「石の博物館」館長を務める城山ジイ。 進路に悩む孫がやってきた。
(それぞれのジイに関わる人々に、「生き抜く事」の大切さを、静かに寄り添い、熱く伝える三話であった)
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令和6年(2024)9月30日(月)