令和6年5月20日

俺の本棚~面白いッ書 第677回

我がマンションは今日から水道の直結工事が始まる。 9時から夕刻までの二日間の断水に備えて、料理用は勿論、トイレ用の水はボトルにも風呂場にも用意済みである。 工事の騒音多くて、何か、あずましくない。  

 

PGA・欧州ツアーはメジャー戦。 松山英樹、久常涼、中島啓太、金谷拓実の4人。 ・・・中島、金谷が予選落ち。 ・・・毎朝4時からのテレビ放送を早起きして堪能した。 世界一流の技は充分な見応えがある。 東京オリンピックの金メダル者がメジャー初優勝。 18番のバーデイで決着をつけた、お見事!(賞金333万$) 久常は18位(231千$)、松山は35位(79千$)だった。

LPGAは、畑岡奈佐、西郷真央、笹生優花、西村優香、古江彩佳、勝みなみ、渋野日向子、稲見モネの8人。 ・・・勝、渋野、笹生、稲見が予選落ち。 ・・・西村と古江が7位タイ(64千$)、畑岡14位(40千$)、西郷33位(21千$)だった。 

 

女子第12戦の 道産子は6人、小祝さくら、菊池絵里香、阿部未悠、内田ことこ、宮澤美咲、吉本ここね。  ・・・菊池が予選落ち。 ・・・21才・竹田麗央が今季初優勝に続き3勝目。 それもトーナメントレコードの14アンダーとは立派。 これで11勝1敗。 日本人、絶好調である。 小祝7位(230万円)、吉本20位、内田23位、宮澤38位、阿部55位だった。

男子道産子は、片岡尚之、植竹勇太の2人とも予選通過。 ・・・片岡45位、植竹51位だった。

 

 

柚月裕子「チョウセンアサガオの咲く夏」(単行本は2022年)

・・・11話の短編集である。

三津子の母・芳枝は今年72才。 父の憲一は三津子が中三の時に交通事故で死んだ。 加害者から支払われた賠償金と死亡保険金を取り崩しながら、遺族厚生年金でつましく暮らしている。 母は認知症の上に半分寝たきりになってしまい、40過ぎになった三津子が完全介護している状態だった。 50才で脳溢血になった母が不憫でならない、と介護を続けているから、親戚同然の平山医師から結婚を勧められてもず~っと断わって来た。 往診に来てくれたワゴン車を見送ってから、庭に咲く花々に水やりをした。 三津子の背丈程もある、白い花が咲いているのがチョウセンアサガオである。 この花にもスズランやスイセンなどにも毒があるから、綺麗な花には毒がある、と言われる通り、気をつけなければならない。 母の面倒を見るだけの三津子の唯一の楽しみは園芸である。 水を霧状にして庭の隅々まで撒き散らした。

 

仕事に多忙だった父は三津子を溺愛した。 どんなに遠くからでも三津子の為に駆け付けて一人娘の頭を撫で、懸命に看病している芳枝を労った。 父が亡くなってから三津子が怪我をしなくなった、連れ合いを亡くし、抜け殻のようになった母を見て、子供心にしっかりしなくちゃならない、と思って注意深くなったのかも知れない。 三津子が高校を出てから、電車で一時間の町の縫製工場に勤めた。 母に反対されたが平山先生の、外の飯を食う事も勉強だ、との後押しで、寮での生活を楽しく満喫した。 そして3年目の春、芳枝が脳溢血で倒れたのである。 体の右半分が麻痺して言語にも障害が残った母を一人にしておけない、三津子は仕事を辞めて田舎に帰ったが、母の介護は重労働だった。 幼い自分を愛してくれた母の面倒を看る事は当然だった。 だが、孤独は辛かった。 訪ねて来る人もいない、しんと静まり返った家の中にひとりでいると、辛くて涙がでた。 ただ、平山先生が往診に来る時だけは安らぎを覚えた。 二ヶ月に一度の定期訪問、芳枝の具合いが悪い時はその日の内に家にやって来て、診療を終えると、三津子を褒めちぎった。 三津子ちゃんは偉い、良くできた娘だ、ご近所さんの誰もが言うとる、と言われて嬉しくて堪らなかった。 次第に周りの人間の称賛を強く望むようになった。 自分への賛辞が欲しくて母の体調が悪くなる事を願うようになった。 ・・・母の寝顔を観ながらそう考えた時、三津子の頭の中で何かが弾けた。 母はどうだったのだろうか? 夫は多忙な仕事で殆ど家にいない、知り合いもいない田舎で母は淋しくなかったのだろうか? もし、娘が怪我をしたとしたら・・・、三津子は頭に浮かんだ恐ろしい考えを拭い去ることが出来なかった。 思い返せば全てが腑に落ちる、いくら落ち着きのない子供だとしても三津子は余りにも怪我や体調を崩すことが多かった。 蔵の扉に足を挟んだ時も、あの思い扉を子供が動かせると思えない、水に溶かした洗剤をジュースと間違えて飲んだ事も、母がジュースの瓶に洗剤を入れて置いたとしたら疑いもせず中身を飲んだだろう、髪を切ってあげると言った母が手が滑って首を傷付けた事など、いろいろ思い当る事がある。 父の憲一が亡くなってからは三津子が怪我をする事はピタリと無くなった。 そういえば、自分に周囲の同情や関心を集める為に我が子や身内を傷つける精神疾患がある。 代理ミュンヒハウゼン症候群、→母さん、あなたも孤独だったんだね。 ・・・チョウセンアサガオの根を掘り出した。 牛蒡と見間違うから、これを千切りにして人参と炒めればきんぴらごぼうの出来上がりだ。 食べた母は間もなく嘔吐を始める、アトは、平山先生に往診を頼めばイイ。 全て毒性のある花々を眺めて、フトンに横たわっている母を見つめた。 →母さん、私は母さんを恨まないよ、今ならあなたの気持ちが判る、だから、私の気持も判るわよね、母さん。 三津子は夕飯の支度に取り掛かった。

(ここ迄、2,300字)

 

 

令和6年(2024)5月20日(月)