令和6年3月1日

俺の本棚~面白いッ書 第666回

文庫本4冊購入。 山本甲士「ひなた商店街」(書き下ろし)、高田郁「あきない世傳金と銀(特別編・下) 幾代の鈴」(書き下ろし)、楡周平「黄金の刻」(単行本は2021年)、知念実希人「天久鷹央の推理カルテ 羅針盤の殺意」(5章の内、書き下ろし3章と月刊誌2章)、新刊と同様である。

 

我がマンションから車で7~8分の、平日の回転寿司「T」(11時開店)に10時40分に着いたら既に40~50人が並んでいた。 そこをあっさり諦めて20分走った「N」は、11時開店直後だったせいか、直ぐ着席出来た。 別にTに負けない旨さである。 今年の正月もえらく待たされているから、もう、Tはイイだろう。 NETでの人気のせいか、観光客が多すぎるのだと思う。  

 

 

PGAは、久常涼だけ。 LPGAはシンガポールで総勢66人、日本人は畑中奈紗、笹生優花、古江彩佳、西村優菜、稲見檸寧の5人。 欧州は南アフリカで、星野陸也、中島敬太の二人。

国内女子第1戦が沖縄で開催、いよいよ国内も始まる。 6年振りに出場の森田理香子の劇的なカムバックを観たいが、さて?

 

 

知念実希人「となりのナースエイド」(2023年書き下ろし文庫)

・・・ナースエイドとは、看護師の資格を持たない看護補助員

桜庭澪はPTSDの診断を下されて抗うつ剤の薬物療法をうけている最中で、いくらか症状はましになっている。 ナースエイドに転職して未だ一週間、遅刻する訳にはいかない、と家賃が50,000円のアパートを飛び出した。 安アパートには似合わないポルシエが駐車場に停まっていた。 隣人の方だろうと察して、→先週、隣の204号室に引っ越して来ました桜庭澪と申します、よろしくお願い致します、と深々と挨拶をした。 バンッと言う音と共に車のドアが閉じられて、ポルシエが遠ざかって行く。 見事なほどの無視だった。

 

自衛隊上がりの角刈りの30代後半の遠藤剛史さんからシーツの張り方を注意される。 同僚の年下の早乙女若菜は、→遠藤さん、拘り過ぎ、自衛隊じゃ無いんだから、とからかうように言う。 若菜は看護師国家試験に不合格で今は働きながら来年の試験に供えて勉強中である。 →この職場で最底辺なんだから、仲良くやろ、と笑みを零すと穏やかな笑い声が部屋の空気を揺らした時、→ちょっと、あんたたち! なにバカ笑いしているの、能天気な笑い声は患者さんとそのご家族はどんな気分になるの、と主任看護師の定森恵理子が吠えていた。 →私達は忙しいんだから雑用位しっかりやってね、と吐き捨てて出て行った。 →なんなのよ、あのヒスババア、自分たちだってナースステーションでキャーキャー笑ってることあるじゃん、と若菜が口を尖ららす。  →ちょっと若菜ちゃん、聞こえるわよ、じゃ、深呼吸、深呼吸、と澪は背中を撫でてやる。

 

505号室の空のベッドメーキングを終えると、隣のベッドのカーテンが開いて、→あのう、うちの主人が痰が絡んで苦しそうなんです、吸引をしてくれませんか、と頼まれた。 ナースエイドなので自分は出来ない、看護師を呼んで来ます、とナースステーションに向う。 先程の定森がパソコンに向っていた。 →505号室の患者さんが痰の吸引を願っています、と伝えると、面倒くさそうに、→あんたがさっさとやればイイでしょ、ああ、看護師じゃなかったね、と嘲笑する。 その時、ベテランの園田悦子さんが、→患者さんの頼みや変化をナースに伝えるのが私たちの役目、医療行為はあなたたちプロがやるんでしょ、と言って除けた。 定森は数秒黙り込んだが、硬い表情でサンダルを鳴らして病室に向かった。 →いろいろ言われたみたいだけど、気にしちゃだめよ、医療現場ではドクターもナースもナースエイドも同等だからね、ナースエイドは資格が無くても出来るけど、患者さんに寄り添うプロだからね、ドクターは患者さんを治すプロ、ナースは医師をサポートするプロ、ナースエイドは患者さんと接する時間が一番長いから、私達に心を開いてくれる頻度が多い、患者さんに寄り添い、同じ目線で支えるの、だから誇りを持ってやろうね、と心強いナースエイドであった。

 

午後一時過ぎ、配膳、食事介護、下膳という最も忙しい時間を終えた四人は、食堂で昼食を囲んでいた。 遠藤から訊かれた、→そういえば桜庭さんはここに来る前、何の仕事だったの? →大学卒業してから家電メーカー、でも去年辛い事があって、メンタルをやられて退職したの、半年ぐらい療養していたんだけど、大分回復したので知り合いがここを紹介してくれたの、と嘘の中に真実も織り交ぜて答える。 若菜が突っ込んでくる、→桜庭さん、辛い事って男関係ですよね、よりによって国家試験の直前に別れ話を切り出されて、おかげでこっちは不合格になったわ、そう、全部アイツが悪いんだ!と顔を真っ赤にして捲し立てる。 →桜庭さん、昔の男なんてさっさと忘れて新しい恋を見付けましょうね、お互い、頑張りましょう!と勝手に決めて気炎を上げている。 澪は失笑するしかなかった。

 

数十人の白衣の集団が廊下を闊歩していく。 白い巨塔の如くの大名行列だ、先頭に行くのは白髪の老齢の男性、火神教授である。 火神細胞で世界中の癌患者を救っており、アト数年以内にはノーベル賞確実と噂されている。 教授の元には手術の腕だけの階級が存在する。 研修医はブロンズ、研修を終えるとシルバー、腕が上がるとゴールド、その上にはプラチナと呼ばれる手術しかしない天才外科医の集団である。 若菜によると、大名行列から外れて欠伸をかみ殺している医者がナンバー2の竜崎大河・35才と言い、正に天才で脳も心臓もお腹も何でもできるって噂らしい。 廊下の端で並んでいた澪たちに近付いてきた、火神教授が足を止め、澪に視線を向けてその双眸が細められる。 →頑張りなさい、柔らかい声でいう。 すると竜崎大河もまじまじと澪を見詰める。 な、なんでしょう? 澪がのけ反ると、いや・・・と呟いて身を翻し去って行く。 若菜が、→ねェ、今の何? と腕を揺さぶる。 尊敬する教授から声を掛けられたのは嬉しかったが、目立つ事は避けたかった。 ここにきて良かったのだろうか? 私の選択は正しかったのだろうか? 胸の奥で不安の芽が萌芽するのを澪は感じていた。

 

火神は主任教授室のソファーに倒れ込むように横になった。 この体が完全に動かなくなる前に夢を叶えなくては、と考えながら、まだ、ピースが足りない、どうすれば最後のピースが埋まるのか、茫然とするのであった。 火神の頭に一番弟子である竜崎大河の顔が浮かぶ、30代半ばにしてあらゆる分野の手術で超一流の実力を持つ竜崎は、まさに統合外科の象徴である。 あの天才が現れた事は僥倖だった。 →だが、竜崎でもダメだった・・・ 火神は小声で呟いた。 自分の夢を叶えるのは他の才能が必要だ、やはり、あの外科しかいないか、溜息が洩れた。 4階の奥の鉄製の重い扉を開くと、直径3mの黒い楕円形の機器が置かれている。 一年以上になるのに、未だ使いこなせた者はいない。 あの竜崎さえも10数分は耐えたものの、バランスを崩して倒れ込んでしまった。 白い文字で記されていたのは、「OOHMS」(アウトサイド オペレーテッド ヒカミ マシーン システム)」と記されていた。 火神の夢、そのものである。

 

澪が担当の木下花江は喉頭癌手術を待つ身である。 口汚く澪を攻めるが、付き添っている娘の酒井美登里がこっそり教えてくれたのは、実は桜庭さんがよく話を聞いてくれるからとても感謝している、との事だった。 その彼女が心配しているのは、天才外科医と評判の高い竜崎先生の執刀が決まっているが、手術内容を説明してくれた大垣先生(40代半ば、プラチナに上がれず燻っている)に不安があるので、直接、竜崎先生からもう一度説明を受けて心底、安心したい、という申し入れだった。 容易な事ではないが、患者からの切ない要請である。 竜崎が手術した患者についてアト処置をした大垣が、素晴らしい手術でした、とおべっかを言いながら廊下を歩いていた。 そこへ澪が、→すみません、ナースエイドの桜庭と申します、竜崎先生、木下花江さんに直接、手術の説明をお願い出来ませんか、本人がとても不安がっているんです、と直訴した。 途端に大垣が牙を剥く、→俺がしっかり説明したのに、その何が不満だと! 真っ赤になって怒声を上げる。 竜崎は、黙れ、と大垣を押しのける。 →執刀医が説明して安心出来る? 何故、安心させなければならない? 家族の気持で手術の結果が変わるわけじゃない、無意味だろう、と平然と言う。 →深い知識と磨き上げられた技術、そして合理的な判断が患者の命を救う、家族の感情等入り込む余地がない、感情は判断を揺るがせ、技術を鈍らせかねない、それらを徹底的に排除した先に理想の医療がある、と断じる。 澪は、→それは間違っていいます、人間の感情や心は病気に打ち勝つため、生きていく為の原動力になってくれます、と大きな震える声で言い返すも、→面白い意見だ、だが自分の医療観を変える積りはない、だから患者や家族への説明に時間を割く積りはない、と冷徹に去って行った。 大垣だけが、→ナースエイドが偉そうに・・・ と罵声を浴びせていた。

 

昼食時、園田悦子が、→竜崎先生にナースエイドが啖呵を切って噛み付いた、と病院中の話題になっているわよ、と苦笑している。 →あの方は手術にしか興味がなくて、どんな人生を歩んで来たらあんな偏った人間が出来るの? 日常生活だって大丈夫? と澪は吐き捨てる。 それから全員で竜崎先生のプライベート詮索が始まった。 大学病院の給料は凄く安い、しかし、週一の休日に他の病院で手術をする、天才的なウデの竜崎先生は桁違いの大金を得ている、金に糸目をつけない富豪は幾らでもいるし、稼いだ金で高級車を乗り回している、etc。 大金を出せば最高の治療を受けられる世界、日本が珍しいだけなのだ。

 

若菜が遠藤を練習台にして採血をしていたが、上手くゆかずに遠藤がイタタと悲鳴を上げる。 すると桜庭さん、血管を貸して!と迫ってくるので逃げ出そうとすると、ナースエイドと言えども基本的な採血の仕方を知っていた方がイイよ、私の血管でやってみて、と腕まくりをして差し出してきて強引に注射器を押し付けてきた。 途端に澪の視界から遠近感が消えていく。 注射器が襲いかかってくるような錯覚があり、白い幕が下りてくる、しまった、脳貧血だ、と思った時には体が傾いて椅子から崩れ落ちた。 →桜庭さん、大丈夫!と若菜の叫び声、→すこし目眩がしただけ、と声を絞り出しトイレに向かう。 平衡感覚を失い、視界がグルグルと回転している、壁を伝って体を支えるが、目を閉じると優しく哀し気に微笑む女性の姿が瞼の裏に映し出された。 →私はもう医療行為をしない、だからナースエイドになったのに・・・とひっそりと呟いた。

 

直訴後の二日に木下花江さんの手術が行われる。 澪がストレッチャーで運ぶ途中、腰がいつより痛すぎる、と脂汗を浮かべながら言い出したので、→大垣先生、患者さんが普段と違う痛み方です、術前に詳しく調べて下さい!と訴えるも、→お前、ふざけているのか、日本最高の外科医の手術に素人が喚き散らして、赦されんぞ、と目付き鋭く吐き捨てる。 もうどうする事もできない、私には何の力もない、けれど諦めるな、これでクビになるかも知れないが竜崎先生に直訴する、と手術室に駆け込んだ。 いた! →ほんの少しでイイんです、患者さんの様子がいつもと違います、麻酔を掛ける前に診て下さい、と必死に訴える。 追い付いてきた大垣が、→イイ加減にしろ、ナースエイドの戯言なんか聞いているヒマは無いんだよ、と摘まみ出そうと手首を掴む。 →待て、その手を離せ、俺の手術室で大声を出すのは許さない、手術前の精神集中の邪魔だ、一体何だ、話せ!と澪に迫って来たので、これまでの経緯を詳細に語った。 すると竜崎は大垣に向って、→いつも違うとナースエイドが言うならば、それは耳を傾けるべきデータに他ならない、それを無視するという事は患者を危険に晒す事だ、我が手術を失敗させるつもりか、俺の患者を殺すつもりなのか、と追い詰められた大垣は、血の気の引いた顔で震え出した。 竜崎は、木下花江に詳しく訊き出した。 結果、→CT室で緊急造影を行う、と決まった。 ・・・解離性大動脈瘤、が判明した。 スタッフたちに、直ぐ手術を行う、と告げると、大垣はヘナヘナと崩れ落ちた。 →大垣医師、あなたは手術に加わらなくていい、この手術を5時間で熟すにはあなたでは無理だ、別のプラチナに入って貰う、と冷ややかに宣告すると、体を小刻みに震わせた大垣の口から、→ふざけるナ、なに調子にのっているんだ、と血走った目で竜崎を睨みつけている。 →手術のウデこそが全てだ、という竜崎に向かって大垣が襲い掛かる、体を躱した竜崎が軽く足払いを掛けると、自らの勢いで顔面から床へ倒れ込んだ。

(ここまで、全367ページの内、僅か、68ページまで。 桜庭澪の秘密とは? 火神教授の掛けた言葉の裏にあるものは? ナースエイドになった前職に何があったのか? 医療専門語が多くて難解だが読み応えは充分である。 ストーリーは、まだまだ延々と続く・・・)

 

 

大谷翔平が結婚を発表した。 三年前に知り合った普通の日本人だという。 顔は出されていないが、チームを移籍して新しく始まる野球人生である、良き伴侶を得て共に戦い抜く道を作った。 幸多かれと祈る。  

(ここ迄、5,500字越え)

 

令和6年(2024年)3月1日(金)