令和6年2月26日

俺の本棚~面白いッ書 第665回

大相撲理事会は、宮城野部屋への厳しい処置を決めた。 宮城野親方は親方として不適格、よって三月場所は伊勢ケ浜一門(六部屋)が決めた親方代行が部屋の運営を行い(師匠剥奪)、四月以降は一門に於いて、無期限の宮城野親方の指導を行う、となった。 20億円もの巨費を投じて建設した自分の部屋なのに元白鵬の居場所がない。 このまま、廃業も、という親方がいる程だ。 現役の時から優勝回数の多さに胡坐を掻いた傲慢な態度の数々は、協会を極度に軽んじていた事であり、今、ここに強烈なしっぺ返しを喰らっている感がする。 過去にここで何回も申し上げた、かちあげではない、あのエルボー・ドロップ的な卑怯技の駆使にやっと厳罰が下ったか、と胸のすく思いを隠し仕切れない。

 

 

PGAは久常涼だけ。 彼は4月のマスターズから招待を受けた。 予選通過65人中、久常はギリギリだった。 ・・・65人中、48位(22千$)だった。 →知らない番号から電話があった、マスターズからの招待だった、すごく嬉しかった、とペラペラの英語でインタビューに答えていた。 21才で英語も欧州ツアーの優勝も手にした、将来の大物が期待できる。

LPGAはタイで、畑岡奈佐、渋野日向子、西村優菜、原英梨花、笹生優花、古江彩佳、岩井明愛、・千伶ツインズの8人。 二日目を終えて日本人の最高が古江の7位である。 ・・・岩井千伶が13位(27千$9、原英里佳・笹生優花が16位(23千$)、古江23位、畑岡41位、西村54位、

岩井明愛60位、渋野69位だった。 欧州ツアーはケニアで、星野陸也、川村昌弘、比嘉一貴の3人。  星野だけが予選通過。 64位に終わった。

 

 

 

貫井徳郎「悪の芽」(単行本は2021年)

大手銀行勤務の安達周・41才は昼食時にもスマホでニュースを確認する。 アニメコンベンションが開かれている東京グランドアリーナで死者が数人出る殺傷事件が起きたらしい。 犯人は火炎瓶を何本も投げ、刃物も使って凶行を繰り返した挙句、自ら油を被って焼身自殺した、と報道されていた。 8人死亡、30余名の重軽傷者の大量無差別殺人である。

 

亀谷壮也はゆりかめもに乗ってアニメコンベンションに向っていた。 カートを押す男が前にいる、大量にグッズを買い込む為にカート持参の人がいるが、既に段ボール箱が積まれているからグッズ販売の人が補充中なのだろう。 しかし、男は段ボール箱から瓶のような物を取り出し、火を点けて入場待ちの列に投げ込んだ、瓶は割れ、ばっと炎が広がった、たちまち悲鳴が上がり、炎から人々が一斉に逃げ出した、男は二本目三本目を取り出し、逃げ惑う人々に投げ付ける。 瓶を真面にぶつけられた人は炎に包まれ火柱となった。 壮也は咄嗟にスマホで動画を撮り出した。 逃げるどころか、大変な事件だから記録しなくちゃ、という思いが頭を占めていた。 ふたりの警備員が追い付いたが、男は火炎瓶を投げ付けたが当らず、床に炎が広がたった。 躊躇している警備員に向かって男は長い刃物を振り廻し、ふたりの喉元から鮮血が噴き出した。 暫し立ち止まった男は火炎瓶を頭から垂らし長いライターで着火させた。 瞬時に炎に包まれた男は絶叫を上げながら立ち続けたが、やがて崩れて前のめりに倒れた。 生身を焦がす異臭に耐え切れず、壮也は床に嘔吐した。 惨劇の一部始終を収めたスマホの動画の事が、ボンヤリと頭を占めたまま、嘔吐が続いた。

 

安達は本店勤務になって出世コースに乗っている、と自負している。 だからミスは赦されない、そんな緊張感から解放されて23区内の二階建て一軒家に帰宅した時、9才と5才の娘の出迎えは思わず頬が緩む。 翌朝、妻の美春が、→怖いわねェ、アニメのグッズを買いに行って巻き込まれるなんてねェ、と溜息をついている。 犯人の身元はまだ判明していない。 大方、恵まれない人間社会に恨みを抱き、凶行に走ったのであろう。 死ぬ覚悟が出来ていたなら、大勢を巻き添えにせずひとりで死ねよ、と思う。 ・・・夕食後に大量殺傷事件の犯人の指名が判明した。 犯人は9本の火炎瓶を使用したが、その運搬にレンタカーを使い、有料駐車場で車が発見され、レンタカー会社に残っていた免許証のコピーで身元が判明したである。 斉木均・41才、無職。 安達と同じ年令、丁度、就職氷河期と言われたほどの少なかった求人情報、大卒でも就職先が見付からなかったケースが多かった。 だから、この歳になると境遇に大きな差が生まれている。 安達のように都市銀行に就職して出世コースに乗っている者と、ず~っと正規な勤め先が見付からずにここ迄来た者もいる。 最早同じ社会に生きているとは思えない程、生活環境が違うだろう。 氏名が明らかになって犯人に関する情報も出始めていた。 出身地は東京、ひとり暮らし、結婚歴無し、アルバイトしていたファミレスの同僚は「こんなことをする人には思えなかった」とありふれていた。

 

安達の頭の隅に何かが引っかっかった。 斉木均? 小学校の同級生に同じ名前があったような? 虐めに遭って不登校になった奴が確か・・・ 実家の母にアルバムで確認して貰ったら、間違い無かった。 途端に想い出した、自分の不注意のひと言が原因でクラスの虐めが始まった。 犯人の人生に自分が関わっているのだろうか? そんな気持ちでワイドショーを見ていたら、不意に喉元に込み上げてくるモノがあり、トイレに駆け込んで嘔吐した、目に涙が浮かんだ。

 

五年生の組み分けで斉木と同じクラスになった。 それまではまったく接点の無かった相手だった。昼食後、校庭で遊んでいる時に急に腹が痛み出した。 トイレに行って用をたすと直ぐ居直る事は知っていたが、学校で大便をするのは男子生徒にとっては絶対に知られてはいけない屈辱だった。 だから人が来ない音楽室のトイレを目指した。 腹がぐるぐる鳴っている、休職におかしなモノが混ざっていたのだろうか、水を流し個室から外に出ると丁度、斉木が入って来た。 硬直した、見られた、死にたいほどの恥辱に身が焼け焦げそうだった。 斉木は軽く会釈をすると、小便器で用をたしていた。 斉木が言い触らせば安達はクラスでそこそこのポジションを失う。 女子は顔を顰め、男子は大いに嗤うだろう。 生殺与奪権を斉木に握られてしまった。 怯えることで斉木に憎しみを覚えた。

 

翌日、国語の授業で均という漢字が出てきた。 ちょっとした憂さ晴らしで、→斉木の名前、キンと読むんだな、さいききん、細菌みたいな名前だだな、菌が移りそうだ、と大きい声で話し掛けると、斉木はキョトンとしていたが、頭が悪く、体の大きい真壁がそれに乗って、→うえ~ッ、斉木菌か、汚い汚い斉木菌、俺に寄るんじゃねえぞ!と囃し立てたの・・・そして、真壁の細菌攻撃が執拗に始まった。 ドッチボールでは、→死ねえ!斉木菌、と投げ付け、斉木がボールをパスしようとすると、それ、触ったらがばい菌がうつる、斉木が給食当番かよ、やめてくれよ~、おまえが食べ物に触るンじゃねェ、と真壁は悉く斉木を目の敵にした。 クラスでは斉木を遠ざける者ばかりになった。 言い出しっぺは安達なのに、最早、引き返せないだけのクラスの空気となってしまった。

(ここ迄、全389ページの内、46ページ迄。 これは俺の罪なのか、と懊悩する安達は通勤途中に目眩を起こした。 仕事も手につかない程、怯えていた。 虐めの元凶が自分だとテレビで報道されたら自分の人生が終わる、と思い込んでしまい、精神の不安を抱えながら休職してしまう。 ・・・30年前の虐めのキッカケだったとは言え、ここら辺の気持が作者独特の考えなのだろう、と思うが、犯人の母親を訪ねたり、職場での人間関係を探ったり、安達の自費を使っての探偵振りも理解に苦しむ。 ・・・さァ、どう物語は進んでいくのだろうか?)

 

誕生日が過ぎて満77才になった。 高校生仲間との喜寿の祝いは昨年中に済んでいるが、ホントの喜寿である。 同じ誕生月の家内も後期高齢者の仲間入り、これからの人生、一切、家内に逆らわずに歩む事にする。 波風、立たない家庭が大事である。 静岡の娘から二人に各一万円のお祝いが送られてきた。 有難し! 

 (ここまで、3,400字越え)

 

令和6年(2024年)2月26日(月)