令和5年(2023年)7月17日  第623回

ゴルフ、今週は日本の男女とも試合が無いって、何これ!

PGAは欧州と共同でアメリカで開催。 小平智、川村昌弘、久常涼、今田竜二の4人が参戦。 川村と久常だけが予選通過。  ・・・川村9位(96千$)、久常58位だった。

LPGAは渋野日向子、上原彩子、野村敏京の3人が参戦。 全員予選落ち。

 

日ハムが最下位に転落、惜敗が続く9連敗である。 もう一歩がもどかしい限りである。 球宴が終ってからの後半戦、大化けする可能性は大だ。 若いチームだけにその力を期待をしたい。 

 

 

山本甲士「迷犬マジック③」 ・・・前々々回、第620回の続き

煤屋(すすや)貴士は犬に吠えられて、→そんな手抜きでイイのか、と詰られているように感じた。 まさかナ? そんなことを考える知能がある訳がない、と思いながらも、→マジックさん、やだなァ、今のはただのウオームアップ、次から本番です、と鉄棒に飛び付いて懸垂を始めたが18回で限界に達した。 以前なら軽く20回以上はイケたのに・・・。 →どうです? 長い間サボっていた割には出来たでしょう、と言うと、じっと冷めた目で見詰めて来る。 まるで、ダメ出しのフジィカルトレーナーのような目付きである。 →わかりましたよ、もっと追い込みますから、と鉄棒に飛び付き、今度は15回で限界だったが、そのまま手を離さずに耐えた。 次はアイソメトリックストレーニングと呼ばれる、限界に達しても更に筋肉に刺激を加える効果がある。 耐えるだけ耐えてから徐々に筋肉を伸ばしていくネガテブトレーニングでもっとも強度が高い方法である。 更に、着地したアト、また直ぐにバーに飛び付いた。 流石に4回で力尽き、ヒャーと声を出しながら尻もちを付いた。 マジックが口の両端をにゅっと持ち上げて、それでイイんだよ、それがホントのトレーニングってなモンだ、と言われた気がして、貴士は片手の親指を立てて、あざ~ッす、と挨拶した。

マジックさん、トレーニングなんてする気は全然無かったんですよ、何しろ、もう、燃え尽きちゃってそんな発想は消えていたんですよ、でもアンタから尻を叩かれて焚き付けられて、気が付いたらこんな事やっている、オレは驚いてるんすよ、何だよ、ちゃんとスイッチが入るじゃねえの、

トレーニングって楽しかったんだナ、て告げると、マジックは目を細くして見返していた。 →ありがとさん、礼を言わせてもらうよ、お陰ですっげえ大切な事に気付かせてもらったよ、すると、マジックは鼻先を軽く振って、四の五の言ってないでとっとと次のトレーニングをやれよ、と言ってるように見えた。 貴士は、→わかってますって、と言いながら平行棒でアムロに取り掛かった。 両腕をついて両足を浮かせる。 深く沈むことを心掛け、負荷が途切れないようゆっくり行えば20回位で限界になる。 マジックは、それ位おまえならやれて当たり前だろう、と冷たい眼だった。 マジックの後方の芝生で長身の若い男が小学生二人を相手にドッジボールの練習をしていた。 若い男は片足が義足だった。 凄く丁寧にそして褒めながらボールを投げ合っている。 そういえばパラリンピックで高度なパフォーマンスを発揮している多くの競技者がいる。 膝に違和感が残っているぐらいで競技を断念しようとしている自分は彼に比べると諦めが早すぎるか・・・。 マジックもそれを見ながら、次はどうした?と言ってるようなので、芝生の上でジャンピングスクワットに取り掛かった。 30回程で脚の筋肉が限界に達したが、マジックは目を細くしてみていたが、そんなモンかよ、とも言ってそうだ。 クソッ、やりゃイイんでしょ、と脚の筋肉は乳酸が溜まった状態だったが、やはり数回のジャンピングスクワットで悲鳴を上げた。 脚の筋繊維がブチブチとちぎれている音が聞こえて来そうだった。 芝生に転がったまま見ると、マジックは口の両端をにゅっと持ち上げて、そうそう、それでイイんだよ、と言われたようだった。 貴士は、迷い犬にコーチしてもらうとはネ、とヘラヘラと笑うしかなかった。 そして改めて思った、この充実感は現役復帰するかなんて関係ない、生きてるぞという実感がある、ライフスタイルとして継続させなければならない事だった。 義足の若者は、→失敗こそ成長のチャンス、練習すればミスは減ってくからね~、と優しく声を掛けている。 貴士は、高校陸上部の監督を思い出した、やたらと怒鳴るので何人もの仲間が辞めて行ったから大嫌いな監督だった。 義足の男性が監督ならもっと充実した高校生活を送れたのに違いない。 気が付くとマジックは姿を消していた。

 

夜勤が明けて昼頃目が覚めた。 背中、胸、脚の筋肉痛は、しっかり筋繊維が破壊されて修復を始めている証拠である。 修復されたら以前より太くてより丈夫な筋繊維に変化する。 貴士は2~3ヶ月でピーク時の筋肉に戻すと決めた。 テレビ報道が喧しい、コバルト電機の男性社員が自殺した、原因の上司のパワハラを隠蔽した事が公になっての喧しさだった。 あんな会社から内定を取り消されて正解だった、ひでえ会社、と得心した。 スーパーで鶏の胸肉、豆腐、納豆、鶏卵、数種類の野菜をかごに入れ、今日を境にアスリート食に復帰する、と決めた。 ・・・曇り空の公園でトレーニングを始めた。 筋トレは昨日やっていない大腿部の裏側、ふくらはぎである。 そしてゴムチューブでデリケートな肩の筋トレに取り掛かった。 いろいろな筋トレ後、仕上げはショルダープッシュアップ、2時間もした時、背後にマジックの気配があった。 ひっくり返った貴士を見詰めながら、口の両端をにゅっと持ち上げた。 よし、なかなか強度の高いトレーニングだナ、と言ってくれているようだった。 ふと見ると、昨日の義足の若者が6人の男児に鉄棒のしり上がりを教えていた。 白い帯を出して男児の腰を鉄棒に括りつけた。 片手を当てて何か言うと男児が頷いた。 帯が巻かれたまま、逆上がりをしようとした男児の腰の後ろをひょいと押した。 ワッ、出来た、と残りの男児の歓声が上がった。 感動と興奮が伝わってくる。 若者が拍手で祝福しながら、もう一回、やってみる? 鉄棒を腹の方に引き付けて、と教えている。 頷いた男児は若者の添えもなしにあっさり成功させた。 若者は帯をほどいて、もう一回やろうか、帯は見えないけどちゃんとあるよ、そうすると男児は深呼吸して頷いた。 男児は両足が上がって逆さまになり、くるりと回った。 おおッ、すげェ!と歓声と拍手で全員が盛り上がった。 貴士も一緒に拍手をすると、若者が気付いて互いに会釈した。 若者は全員に帯を使ってから逆上がりを成功させた。 男児達は笑顔が紅潮していた。 初めて出来た時の感動、この子らは幸せだ、イイ人に指導して貰っている。 なんで出来ないんだ、と詰る奴は教師には向いていない。 男児らが、はいッ、という返事で今日は終わったのだろう。 若者がこちらに向かって会釈して消えて行った。

 

翌日、トレーニング中にマジックも傍で見ていた。 すると、遊歩道の方から、→あら、マジックちゃんじゃないの、と小太りのおばちゃんがずんずんと寄って来た。 貴士の、今日は、と挨拶に応えながらも、→また、脱走したのね、ダメじゃないの、と両手でマジックの首を撫でていた。 この犬、ご存じですか?と問うと、→はい、はい、知ってます、ここから東に500メートル位のハラヤシキのおばあちゃんちの犬です、時々脱走するんです、もともと迷い犬だったから放浪癖が抜けないのよね、一年以上前にハラヤシキさんの敷地内に居たの、とポケットからスマホを出して、→松島ですけど、と断わって、マジックが公園にいる、怪我はしていない、元気、リードを持って迎えに来てほしい、とここの場所を伝えている。 直ぐ行きま~す、という返事が貴士にも聞こえた。 松島さんの説明によると、原屋敷さんは独居老人だったが、マジックと散歩を始めた事で健康が回復し、近所の人たちとの会話も増え、子供達からマジックに触らせて、とせがまれるなど、今はこの地域の人気者だという。 そして、シングルマザーに部屋を貸していて、その男の子を孫のように可愛がっているらしい。 原屋敷さんはマジックによって「確変」した人で、マジックはやはり誰かを元気にしていたんだナ、と妙に納得した貴士であった。 このアト、松島さんが用事があるというので、原屋敷さんを待つのを引き受けた。 すると、あの義足の若者がやって来た。 →どうも、こんにちわ~、この犬の飼い主さんならリードで繋がないのは問題だな、と思っていましたが、そうですか、迷い犬でしたか、所でやり投げの煤屋選手ですよね、復帰に向けてトレーニングを始めたんですね、僕は小麦原です、フリーランスで小中生にスポーツを教える家庭教師をしています、高三の時にスクーターでスリップして、そこにトラックが来ちゃって、義足になりました。 健康運動指導士の資格を取ってまだ始めて一年弱ですけど、こんな遣り甲斐のある楽しい仕事は最高です、天職だと思っています、と喜色真面の顔だった。 貴士は、→逆上がりの出来た子供達の喜びようは小麦原さんは魔法使いかと思いましたよ、と感動を伝えると、→ドッチボールの子は、いつも逃げ回っていたけど、昨日はボールをキャッチして強いコにボールを当てたんです、皆、吃驚してましたって、大興奮してるんです、嬉しいでよね、と我が事のように喜んでいる。 しゃがんでマジックの首を撫でながら、→たっぷり身体を動かせるって有難い事です、と義足の小麦原さんが口にすると、特別な重みがある。 マジックのお陰でそのことに気付けたのだった。 →小麦原先生、と声が掛かって、ジャージー姿の男児4人、女児2人が短距離の練習に現れた。 →今度、LINE交換を、と言って彼らの方に向って行った。  →マジックさんのお陰でいいお友達が出来ました、と礼をいう。

 

ジャングルハットを被った年輩女性がやって来た。 原屋敷さんはマジックの前に跪いて首の周りを撫でながら赤いリードを繋ぎ、→今度はトレーニングの見物かね、お兄さん、ええ身体をしてるね、と九州訛りで問いかけられた。 →マジックは飼い主が判らんまま、居付いてしまって、私もトシやけん、いつまで面倒見れるか・・・、いつでもマジックに会いに来てね、と言って去って行った。 マジックはリードを持つ人間に配慮してすたすたと歩いている。 確か最初に姿を見せた時は、少しびっこを引いていた筈なのに、膝に問題を抱えている男を励ます為に演じていたのか? それで貴士との距離を短くしたとしたら凄い奴だ、と感嘆していたら、こちらを振り返ったマジックが、口の両端をにゅッと持ち上げて序に舌を一瞬出した。 →まんまと騙されたナ、うひゃひゃ、と笑っているようだった。 あいつ・・・ マジックさん、アンタには参った。    

(ここまで、全364ページの内、第一話・菜の花 84ページまで。 このアト、登場人物が次々と繫がって行って、第四話・コスモスまでの物語である。 いつもの軽快なストーリーである)

 

 

図書館から借用した、重松清「ひこばえ」(上・下巻)、・・・ひこばえとは、切り株の根元から新芽が出てくる事で、物語は、小二の時に離婚した父が、主人公・55才になった時、それまで一度も会っていなかった父が亡くなった報せが入り、48年間の空白を胸に父の人生に向き合おうとしたら、死の直前に「自分史」を書こうと思い立っていたらしいと判った。 何故、誰に読ませたかったのか? 父の知人たちから拾い集めた記憶と自身の内から甦る記憶、その足跡を巡る旅は主人公のこれからの人生と向き合う旅でもあった。 ・・・主人公の立場になったら自分はとてもこうならないだろうナ、と思う程の情愛の深さが滲み出ているストーリーであった。

(ここ迄、約5,000字)

 

令和5年7月17日(月)