令和5年(2023年)6月30日 第619回
youtubeを彷徨っていると、K元会長が積丹町から大枚をかけて移築した漁師の石蔵、そこに入居した「寿司・E」が映し出された。 お摘み・握り、12,000円とあったから、酒が入れば20,000円近い勘定になるのだろう。 お寿司だけ(昼)7,000円とあったから高級店には違いなく、年金暮らしにゃとても手が出ない内容だった。 高級品の品揃えには誰にも文句がつけようも無い、予約困難なお店であった。
喜寿の年代が集まった高卒昭和40年生は、今回は10人だった。 10月頃、もう一度やって欲しいと要請があったので、またやる事にしていつものK寿司を仮押さえしたが、さて、どれ程の人数になろうか? 少なければ小さな部屋に替えなければならないが・・・
PGAは松山英樹と小平智の二人。 LPGAは試合無し。
欧州ツアーはイギリスで、星野陸也、久常涼、川村昌弘、岩崎亜久竜、比嘉一貴の5人。
日本女子第19戦の道産子は、小祝さくら、内田ことこ、宮澤美咲、菊池絵里香、藤田光里の5人。 男子は、片岡尚之、安本大佑、武藤和貴、植竹勇太、佐藤太地、とアマの6人。 さて週末は?
宮部みゆき「刑事の子」(単行本は2011年だが、その前のカッパノベルスは1990年だという、30年以上前の古さである)
八木沢順(13才・中一)と父・道雄の二人きりの生活は、城東警察署の管内にあった手頃な借家で始まった。 警視庁捜査一課の父は職住接近で有難い物件だった。 そして切り盛りしてくれる家政婦さんが奇跡的に見付かったのである。 地元生まれのこの道50年、幸田ハナさん、足腰も頭もしゃっきりしている働き者だった。 旦那様、坊ちゃま、と呼ばれる事を固辞するも、頑として続けている。 何にでも興味のある順は、日曜日の今日は、白菜の漬物作りをハナさんから教わっていた。 他愛のない会話の中で、→ここから自転車で15分の新築の家で、若い娘さんが殺された、と言う噂がありますよ、と聞けば刑事の子として放って置けないではないか。 その家は順が外から見る限り、奇妙なほど人の気配の感じられない家で、→あれは空き家じゃなかったの?と訊き返した位だった。 ハナさんは、→男のお年寄りのひとり暮らしで、若い娘さんが入って行った、二人目も見かけたが、出てくるところを誰も見ていない、夜中にスコップで穴を掘っている老人を見かけたとか、嫌な噂ばっかりなんですよ、けど誰も何もしようとしませんね、昔なら誰かが乗り込んで噂を確認したモンですけど・・・。 →これは町内の人間として父さんに様子を見てもらうしかないね、と合意した時に、台所の電話が鳴り出し、ぐうたら寝を決め込んでいた父が二階からどすどすと降りてきて、パジャマ姿のまま、→父さんが出る、と受話器を掴んだ。 →はい、八木沢です、と応答した途端に背中が伸びたから、きっと事件なんだろうと、庭に戻った。 普段から父から言い出さない限り、事件について聞くことは避けていた。
道雄が受けた第一報は、荒川の土手を散歩していた母子連れが、上流から流れて来た人間のモノらしいバラバラ死体の一部を発見したというものだった。 葛西橋から20メートルほど下った辺りにパトカー2台が停車している。 指揮を執っているのは捜査一課第7班の川添警部でその横にいるのは所轄署の捜査課長だろう。 傍に行って挨拶すると、→頭と右手でそれもかなり傷んでいる、ヤギさん、第一発見者から話を聞き出してくれ、と言われて、娘・しほり3才を抱きしめている河野友子・28才へ声をかけた。 →イヤなモノを見ましたね、ここは寒いから土手下のパトカーへ行きましょう、と傍に居た所轄署の若いノッポ刑事・速水俊に手配させた。 →スーパーのビニール袋に見えました、別々に流れて来ました、と言いながら思い出したのか、ゴクリと喉を鳴らした。 →今後、マスコミにあれこれ聞かれてもイヤな事は嫌とハッキリ告げて下さい、困ったことがあれば連絡してください、と名刺を渡すと、速水刑事が、→八木沢さん、川添警部がお呼びです、と告げながらポケットからガムを取り出してかほりに握らせていた。 →気が利くナ、お前も遺体を見なさい、と同行させた。 収納袋の中身を見た速水は身体を二つに折ってゲロを吐いた。 道雄は、→唾を飲んで深呼吸しろ、眼は閉じるナ、却って目眩がする、と小声で囁いてやった。
順は母・幸恵を想っていた。 →お父さんは刑事を天職と思っているの、嫌な面、汚い面ばかり見て暮らす仕事なんて、もう、疲れちゃった、何も見たくないし、聞きたくもない、とよく言っていた。 ほんの半月前に幸恵は再婚した。 順より小さい女の子のいる産婦人科の医師で、前の奥さんとは死別したらしい。 道雄よりはずっと若い人だったし、女の子がいるというので順はこちらに残ることにしたのだった。 →ちわぁ!と声をかけて入って来たのは、柔道部員の後藤慎吾である。 →おう、やっぱり親父さんは出掛けているんだナ、と言うからにはニュースを見たらしい。 自営の大きくやっている材木問屋で、大きな邸宅に家族6人で住んでいる。 父親の後藤悟朗は町内会長でこの町の生き字引である。 ハナさんが言っていた噂は後藤家でも知っていたどころか、当の家の持ち主・篠田東吾の秘書みたいな事をやっている才賀さん・筋骨隆々の50代が怒鳴り込んで来たらしい。 そんな噂が流れていることに町内会長に抗議をしに来た、と言う。 真っ赤な嘘であるから町内会長としてどう対処してくれるのか、と詰め寄られたが後藤会長だってそんなアマちゃんじゃないから、激しく言い返して責任を取れる訳が無い、と突っぱねたらしい。 そもそも篠田さんは画家であって、日本画の有名人だった。 ところが町内会費を支払わない分からず屋でもあった。 その夜午前一時ごろ、郵便受けの微かに鳴る音を聞いた順が、郵便箱からはみ出している白い封筒を目にした。 宛名は、やぎさわみちおさま、差出人名なし、手袋を嵌めて開けると、→しのだ、 とうご、は ひとごろし、と書いてあった。
順と慎吾は篠田東吾という日本画家の事を調べた。 45才の時発表した「火炎」は東京大空襲で、生まれ育った本所周辺を襲った惨状を書き出した異色作で、日本画壇の中では正統派でなく、やっている事が奇抜で、かなりな異端児、という評価であった。 よって、敵も多く、喧嘩東吾の異名も持っていた。 ・・・道雄は2キロほど北にある七階建のマンションに訊き込みに来ていた。 昨日の朝早く、そこの管理人が土手の上から荒川に袋に入ったモノを捨てているのを見た、と通報があった。 始めはシラをきっていたが、問い詰めると白状した。 掃除をしていると異様な臭いがした紙製の手提げ袋が駐車場の隅に捨てられていた、生ゴミの収集日じゃないし、このままにして置けばクレームはこっちに来る、だから、川に捨てました。 ちらっと中を見たが白いビニール袋に入ったモノが二つだった。 →もう臭くって臭くって、と思い出して鼻をつまんでいた。 なぜ、ここのマンションに捨てたのか? マンションの住人や近隣の聞き込みを強化しなければならない、と思っていたが、捜査本部に犯行声明と他の部分の捨てた場所を知らせて来た、と連絡が入った。
昨日付けの速達、表書きは、「あらかわ ばらばらしたい そうさほんぶのみなさんへ」 「ばらばらしたいみつけたね つぎは ひのでじどうしゃ の はいしゃのなか」 急遽、23区内のひのでじどうしゃがリストアアップされた。 道雄は葛飾区の「日の出自動車社修理工場」を訪ねていた。 無線を通じて刻々と入ってくる捜査状況は芳しくない。 23区16ヵ所のうち、既に12ヵ所から見付かっていない。 ここにも廃車はなかった。 ちょっと離れたところでこちらを興味深そうに観察している若者がいた。 →あれはウチのドラ息子でね、今、17才だが18才になっても免許なんぞ取らせん、と息巻いている。 息子曰く、ヘビメタ仲間がボロ車を持っていて、一昨日の晩、缶ビールを飲んじゃったから裏の駐車場に置いて行ったのサ。 父親が怒鳴る、あんな恥知らずの車か! ・・・「小林板金塗装店」の19才の長男の車だった。 ありふれた白いビニール袋が後部座席の足元に転がっていた。 道雄は本部に連絡を入れる、→発見しました、左足の膝から下と頭部です。 何と二人目のバラバラ死体である。
順は慎吾に、どうしてこの家が刑事の家だと判って封筒を入れたんだろうか?と疑問を投げかけていた。 すると、才賀さんが怒鳴り込んで来た時、慎吾の親父さんも負けずに大声でやり合ったそうだ。 近所の人が大勢いるのに、→そんなに警察って騒ぐならね、交番よりもそこの八木沢さんが刑事だからね、あの人に頼んだっていいんですよッ、とあの声なら拡声器で触れ回ったのに等しい。 ハナさんにも相談した、ビニール袋に保管してある例の手紙の事情を説明した。 →旦那様にお知らせする事はハナも賛成でございます、犯行声明と第二の遺体発見でニュースで大騒ぎしていますし、何よりもこの手紙の文字と、警察に届いた手紙の文字が似通っていませんか? ・・・父・道雄は30分で駆けつけてきた。 長身の若い刑事も一緒だった。 話を聞いてから手紙を見て、二人とも厳しい顔になった。 父は町内の篠田さんの噂は初めて聞いたらしい。 改めて速水刑事を紹介され、かつ、→ハナさん、慎吾以外に絶対に他言するナ、篠田さんの家にも近付くな、と念を押した。 ハナさんが、→旦那さんは暫く帰ってこれないでしょうから、坊っちゃんを一人にして置くより、しばらく私がここに泊まります、と言ってくれた。
速水刑事は、この文字はどこかで見た記憶がある、けど思い出せない、と言うので、道雄は、→思い出せ、頭の奥の方に命令して勝手に探させるんだ、寝る前に頭に言い聞かせる、起きるまでに思い出しておくように、とナ。 検死報告書が上って来た、一体目は女性、死因は窒息死、死後、約三週間、等々、相当数の報告があった。 10月15日頃、殺害されたという事か。 二体目はやはり女性、死因は同じく絞殺、死後一ヶ月以上、10月始め頃、と言う事は先に殺されているのか。 ひとつ朗報があった、アトからの女性の上顎の前歯が三本、精巧な高価な差し歯になっている、歯医者は必ず記憶しているでしょうし、カルテが残っている筈です、被害者を特定して下さい。 道雄と速水から、「しのだとうごは ひとごろしだ」の手紙を見せられた川添警部は、部下の二人に内偵を命じた。
順はハナさんの風呂に入った時を見計らって秘かに篠田家を遠巻きに見に行った。 すると若い女性が二階を見上げるように佇んでいた。 こちらの気配に気付いてそそくさと立ち去ったがあの奇麗な女性は何だろう、と怪訝に思った。 その後、二回の観察も何の手懸りも無かったので、お昼の時間帯を観察すべく、学校をズル早引きして見に行った。 学生服の儘ウロウロしていると、通りの反対側に浮浪者がいて、こちらをじっと見ている、着ているモノも顔色もまるでつくだ煮である。 目が合ってしまったがゴミ箱を漁りながら行ってしまった。 すると、むんずと襟首を掴まれて、→何か、用かね、と渋いグリーンの着物を着た老人、厳つい顔、大きな目、下駄を履いている。 この人は篠田東吾だ、と直ぐ判った。 咄嗟に、→あの、火炎を見たいんです、あなたは篠田東吾さんですよね、ここにはないんですか? ぼく、このつい先に住んでいます、この辺であなたを見かけて吃驚しました、と口から出たまま言うと、→お父さん、どうしたの?と若い娘がこちらを見ている。 先日の夜にみかけたロングヘアーの女性とは違う、愛嬌のある顔立ちだった。 →この子が火炎を見たいと言っとる、→そうです、僕、八木沢順と言います、近くに住んでいます、→そう、私、娘の明子といいます、お父さんはいつも子供に見て貰いたいと言ってるんだから、どうぞ!
通された部屋の壁に「火炎」はあった。 大空襲の中、順は、頬を焙る炎を感じた、叫び声も聞こえた、逃げ惑う足音、建物の倒壊音、飛び交うB29の爆音は不吉な重低音が空いっぱいに広がっていた、そして達磨が炎の中から順をじっと見下ろしていた。 順は膝が震えていた。
明子にお茶を勧められて、順は、もう調査など必要ない、と思い始めていた、噂は嘘だ、この家にあるのは「火炎」とアトリエだけ、あんな素晴らしい画を描ける人が人が人殺しなぞするもんか、と。 勧められた座布団を外して畳に座り、頭を下げた、→どうもありがとうございました、押し掛けたのに見せて頂いて・・・ すると東吾画伯は、座布団を指差して、→それはおじいちゃんかおばあちゃんに教わったのか? と尋ねられたので、→家政婦さんです、よそさまで座布団を勧められても御挨拶が済むまで敷いてはいけませんよ、礼儀ですよ、と教わりました。 そして、両親が離婚して父と生活している事、父は刑事である事、実は偵察に来た事、本当に「火炎」を見たかった事、酷い噂が広まっている事、等々、洗いざらい打ち明けた。 すると、若い女と言うのは明子であること、夜中に穴を掘って気に入らないスケッチを燃やした事、等々の事実があった。 ただ、八木沢家に来た手紙とバラバラ死体事件の手紙の字がよく似ている事を話すと東吾も明子も顔を顰めた。
(ここまで全303ページの内、109ページまで。 何故、達磨が描かれているのか、才賀さんは空手家のようだった、浮浪者は内偵中の刑事・伊原さんだった、そして、また速達が来た、三番目の死体の場所が書かれていた、更に、篠田家の軒先にも右手が捨てられていた、・・・さて、犯人は誰なのか、これまでの経緯を辿ると、どうしても篠田画伯が絡んでいると思わざるを得ない、・・・驚くべく結末だった)
(ここまで、約5,700字)
令和5年6月30日(金)