令和5年(2023年)4月19日  第608回

LPGAは日本人8人が参加、PGAは、日本人ゼロ。 日本女子ツアー第8戦は、金曜日から三日間競技、道産子は活躍できるか?  欧州ツアーと日本ツアーの共催試合が日本で開催される。 「欧州・日本どっちが勝つかトーナメント」である。 日本人43人が参加しているが、果てさて? 

 

 

柚月裕子「合理的にあり得ない②」(新刊、Oさんより借用)

・・・①は第329回にUPしています。

不祥事で弁護士資格を失った上水流(かみずる)涼子は、「上水流エージェンシー」を開いて、殺しと傷害以外の難問解決の厄介事を熟して、高額な依頼料金を稼いでいた。 相棒の秘書は沈着冷静な貴山、知能も武道も達者な、頼りになるイケメンだった。 もう7年になる。 卓上電話が鳴った、プライベートならばそれぞれの携帯にかかって来るから、仕事である。 →荒川産業の小峰さんから紹介されました、どのような依頼でも引き受けてくれると聞きました、私は古矢信之と申します、今、新宿駅にいますのでタクシーで向います、詳細な住所を教えて下さい、手付金として百万円支払います、と言うではないか。 即、教えて電話を切った。 紹介するのは電話番号と所在区だけだと依頼人にキツク言ってある。 この仕事は感謝と恨みが半々であるから、意趣返しも用心しているのだ。

 

古矢は30代後半、線が細くて背が高い、ここに来てから幾度目かの深い溜息をつきながら、内ポケットから封筒に入った100万円を押しやってくる。 →ある車を捜して欲しいんです、一昨日の夜、関西空港に着いた飛行機で届いたある荷物を積んで東京に向かったが、予定時刻になっても来ない、運転手に電話をかけても通じない、何か問題が起きたんです、成功報酬はアト400万円払います、足りなければ上乗せも考えます、と豪勢な事を言い出した。 しかし、→積み荷は何ですか?との問いに顔が強張った。 返事を待たずに、貴山が、→航空会社と便名は? と訊くと、→午後7時半着のシンガポール航空、SQ659便です、との返答に、国際便は無差別テロに使用する銃や武器、爆発物の可能性が高い、それなら断わるしかない、と思ったら、顔を真っ赤にした古矢が、→あなた方が考えているようなものでは絶対にない! 誓って言えます、と必死である。 嘘をついているとは思えなかった。 確かに全く問題がない荷物ならば警察に駆け込んでいるだろう。 非合法を厭わずにここに来ることは無い、来る連中は多かれ少なかれ、曰くつきなのである。 ボスの意を汲み取った貴山は、車種と大きさを訊き出した。 1500ccの白いミニバン、と言うから小型自動車に多量の爆弾や銃器を運ぶには無理がある。 信じていいようだ。 →お受けしましょう、と涼子が返答すると、→本当ですか!と叫ぶなり、グッタリとソファに身を預けた古矢だった。

 

車のナンバーは不明、運転手は織田洋一、都内に住んでいる事と携帯番号しか知らない、住所も知らない、偽名かも知れない、表沙汰に出来ない取り引きなのだろうが、まったく手懸りが無い。 武器、、麻薬、象牙、陶器類、じゃないとしたら・・・ 考えていた二人はハッと同時に気付いた。 レッドリスト、国際保護連盟の作成した絶滅保護動物一覧表、相変わらず密猟が多く、秘密裏に高値で売買されているのだ。 密猟されてきた希少動物が鳥類なのか、爬虫類なのか、それを入れる檻は小さめな鳥籠位が必要、失踪したミニバンは精々、20個位しか積めないだろう。 貴山がプリントアウトした一枚の紙、相変わらず素早い。 国際保護動物の密輸を扱っている業者だという。 渋谷の裏界隈でキナ臭い情報を多く握っているコウジに会ってくる、と言い残して貴山が出て行った。 日付が変わる頃、帰って来た貴山は全身に怒りを滲ませていた。 三枚の写真、若い男の顔写真と、二枚目はジーンズにジャンパー姿、三枚目は広い敷地に建つ工場で「株式会社大曽我製作所」の看板がある。 神奈川と大阪にも工場があるという。 貴山は、→今の社長は二代目、5年前に初代が他界して長男が引き継ぎました、写真の男は二代目の大曽我祐介で、実は古矢が探している織田洋一です、車と女が大好きでろくに仕事なんかしていません、泣かされた女は数知れず、我が儘に育ったお坊ちゃんの典型です、卑劣な荷づくりで輸入動物を何頭も死なせています、と吐き出した。 人間嫌いの貴山は芯から動物が大好きなのだった。 すると貴山の携帯が鳴った、ユウジに頼んでいた大曽我の居場所が判った、と言う。 →これから準備に取り掛かります、あなたはいつでも動けるように身支度をして置いて下さい、と言いながら、IQ140の集中力で猛烈にパソコンを叩き出した。

 

大曽我は高層マンションの上階から都内の夜景を見詰めていた、午後8時に来客が来る。 5年前に購入した部屋で、リビングとキッチンの他に13畳間が三つある。 エアコン、加湿器を設置し、温度・湿度に細心の注意を払っており、防音効果も万全である。 部屋には幾つものケージがあり、中にさまざまな鳥が甲高い鳴き声と羽音がしている。 キフジインコ、オナガダルマインコ、ムスメインコ等々、全てレッドリストに上げられている国際保護動物である。 別な二つの部屋には、爬虫類やげっ歯類などの生き物がいる。 その数50体はいる。 大曽我が密輸に手を出したのは7年前だった。 女とオーストラリア旅行に行った時、ゴクラクインコの剥製を薦められた。 3倍で売れるよ、密輸の方法も教えるよ、と囁かれ、安物のチェロの側板を剥がして剥製を入れると、見事、日本に持ち込めたのである。 マニアを探し出し、4倍の値段で売れてすっかり味をしめた。 以来7年間、独自の密輸方法も発見し、今では裏の世界で知らない者はいない有名なブローカーである。 年間3~5,000万円の利益を上げていた。 大曽我はキフジインコのゲージをそっと撫でた、この見事なインコは古矢に売る積りだったが、同じブローカーの馬場から泣き付かれて急遽、そっちへ売ることにした、馬場には断わり切れない借りがあったのだ。 2年前、アンデスネコが途中で死んでしまい、300万円がフイになるどころか、受注したマニアからの信用を失ってしまう。 馬場が持っていたアンデスネコを泣き落として400万円で譲って貰ったのだった。 100万円の損失はその後の隆盛を見るまでもなく、信用確立の先行投資として極安の事だった。 その逆の状態が今、馬場に起きているのだろう。 密輸した動物が窮屈な飛行機の中で骸となって大曽我の手元にやってくる。 三分の一が生きていれば恩の字である。 古矢はいい客だったが、ブローカー同志は持ちつ持たれつでなければやっていけない、今回、馬場を助けないで仲間から爪弾きにされると、この商売をやっていけない、潰れてしまう。 だから古矢に届けずにこのマンションに運び込んだ次第である。

 

時間通りに客が来た、インターホーンのカメラにはイイ女が写っている、→緑川エンタープライズの設楽です、と名乗っている。 間違いない、馬場から紹介された取り引きの相手だ。 オートロックの錠を開けた。 →この男は私の秘書の水澤です、私だけでは荷物を運べないので連れて来ました。 イベント会社の社長なのだから秘書が居て当然である。 さっそく、奥のドアを開け放つ、→美しい鳥だらけだわ、よほど良いルートがあるのね、全部気に入ったわ、ここにあるもの全て頂くわ、と言うから大曽我は仰天した。 18羽、値切られる事を覚悟で思い切って上乗せする、5,000万円と言いながらごねられたら4,000万円まで譲歩する積りだ。 ところが、秘書に向かって、→水澤、5,000万円用意して、と命令する。 大曽我は心の中で飛び跳ねた、こんな大きな取り引きは初めてだった。 水澤がスマホを取り出して、→たった今、取引が成立しました、5,000万円です、すぐ、いらっしゃいますね、お待ちしております。 大曽我は、→今すぐ? と嫌な予感がした。 一分で玄関のチャイムが鳴った、怪しい、と思った途端に水澤がドアに向かって駆け出した、入って来たのはむさ苦しい中年の男、→はい、突然すみませんね、とよれたネクタイを触っていた。 →誰だ、アンタ! 大曽我の後ろから緑川社長が、→ご苦労様、丹波警部、と言って奥の部屋に導く、二人の部下も続いていた。 残りふた部屋も確認して、→こりゃ、ちょっとした動物園だナ、と丹波警部が溜息をつく。 大曽我に向って、女社長が、→大曽我祐介、大曽我製作所の二代目社長、国際保護動物を密輸している犯罪者、私は上流水諒子、上流水エージェンシーの経営者、水澤は私の助手で本名は貴山、今回は古矢から依頼されたの、そして脅して馬場知彦と取り引きしたの、大曽我を捕らえるのに協力するなら馬場を見逃すってね、あっけなくアンタを売ったわ、でも、今頃は馬場も古矢も所轄の留置場で愚かな我が身を呪っているわね。 怒りに震えた大曽我が涼子に掴みかかろうとしたが、貴山が腹に強烈な一発を放った。 更に、横っ面を拳で殴りつけ、攻撃が止まらない、顔、腹、足、至る所に貴山の靴がめり込んでいた。 涼子も刑事も、慌てて停める、それ以上は逮捕時の抵抗とは弁解できなくなる。 涼子が、→保護動物を痛め付けたアンタを憎む貴山の気持は良~く解るけどね。 →底をくりぬいたペットボトルの容器に鳥を頭から突っ込んで運んでたんだってナ、それ程ぎゅうぎゅう詰めにすれば大量に運べるが、半分は死んじまう、まったく、残酷な事をしやがって、と丹波刑事が言い放つ。 こっちも憎しみの眼光が光っていた。 貴山がポツリと呟いた、→生き物の中で一番残酷なのは人間です、我欲の為に生き物の命を奪うのは人間だけだ、と断言した。

 

大曽我の部屋から引き上げる時、貴山は、カラカルというネコ科の子猫を事務所に連れて来た。 当該数が多すぎて引き取り手が決まらなかったので、一時的にという約束で事務所へ連れて来たのだ。 もう、一週間になるが貴山はカラカルが可愛くてメロメロである。 カラカルの目の上の模様が昔の公家に似ているから、と「マロ」と名付ける入れ込みようだった。 涼子は昔、子猫を抱き上げて親猫から威嚇された上、酷く引っかかれたトラウマが残っている。 そんな弱みは貴山に悟られたくない、貴山の溺愛ぶりを横目にしながら、早く引き取り手が見付かる事を願った。 

(ここ迄、全3話・254ページの内、第1話・物理的にあり得ない、53ページまで)

 

 

日本ハムが相変わらずの最下位、平日の観客は35,000人収容のスタジアムに16,000人強と、半分以下しか入っていない。 フアンも成績の悪さと、帰途の長時間の大混雑に嫌気が差してきたのだろう。 選手が若いから何かのキッカケできっと爆発するのか、それとも余りにも勝てなくて萎縮してしまうのか、ゴールデンウイークが勝負の別れ目だろうか? テレビ観戦もイライラ感が増すばかりなので、少し休もうかナ。

(ここまで、4,600字超え)

 

令和5年4月19日(水)