令和4年(2022年)8月17日 第538回

驚いた、全米女子アマ選手権で馬場咲希・17才が優勝、何と、服部道子に続く37年振りの快挙らしい。 決勝の36ホール・マッチプレーで、11&9とは圧倒的な力の差である。 9ホールを残して11UPとはとんでもない好成績である。 →日本と違う、様々なコースに魅了されているので、このまま、アメリカにいたい、来年の出場権を得た全米オープンと全英オープンに向けて練習を続けたい、と思いを打ち明ける新しい女王であった。 日本女子はどうしてこんなに次から次と新星が出てくるんだろう。 日本男子の指導陣に育成の智恵を授けて欲しいモンだ。  

 

 

望月諒子「蟻の棲み家」(単行本は2017年)

今18才になった吉沢末男は板橋区のシングルマザー・売春婦の家に生まれた。 7才下の妹・芽衣がいる。 小学生の頃から男が来て置いてゆく10,000円札が唯一のこの家の現金収入であり、収入が途絶えた時には商店街の食料品店から盗み食いしなければならなかった。 ただ、ヤキトリ屋のオヤジさんとか、二人を慮ってご馳走してくれる人たちもいた。 その内、高利貸しからの借金が嵩んだ母の代わりに窃盗団の仲間に入れられてしまった。 母には内緒で高校受験して合格した。 駅のトイレで着替えしてから学校に向かった。 窃盗団が頻繁に狙ったのは年寄りの一人暮らし、家人と鉢合わせると、→騒ぐと火をつけるぞ、もし捕まっても出てきたら必ず火を付けてやる、と捨て台詞で黙らせた。 万引きしなくてもイイ暮らしをしたくて、その為に家の窓を叩き割って土足で踏み込む、そうやって高校を卒業した。 直ぐ小さな金属加工工場に就職した。 生真面目に仕事に励み、先輩に敬意を払い、朝早く隅々まで掃除した。 しかし、ある時、会社の手提げ金庫が消えた、朝早くから出ていた末男が疑われた。 結局、犯人が判らず僅か二ヶ月で会社を辞めた、妹はまだ11才だった。 

 

・・・7月16日未明、蒲田署のスピーカーに凛とした声が響いた。 →他殺死体らしきモノを発見した、と通報あり、各パトカーは六郷ゴルフクラブに向かって確認されたし! 現場には鑑識を含めた合計6台のパトカーが赤色のライトをぐるぐる回していた。 男の死体は顔が粉砕されていた。 死後5時間以内、という鑑識の声がした。 その7時間前、東中野で女性が殺害されていた。 コンビニ裏の路地で仰向けに倒れた女性が顔から血を流している、と通報があったのは、午後9時半だった。 額に穴が空いているいる、と通報者は怯えていた。 簡単な服装であり、身元が判るようなモノは何にも身に着けていなかった。 それから4日後の19日午後3時、東中野でもう一体、女の死体が発見された。 大家が、臭くてたまらないと言うクレームを受けて部屋を開けると凄まじい悪臭があり、即、警察に通報したのだった。 遺体は水を張った浴槽に座り、額に一発の銃弾を受けていた。 部屋の住人は神崎玉緒・22才、家賃滞納無し、イイ子だった、と大家が証言した。 しかし、片隅に大きなキャリーバックが置いてあり、その持ち主は座間聖羅・22才と名札が付いていた。 遺体を見ないまま、大家が神崎の携帯に電話すると、何処にいたのか応答があって、事情を知った彼女は悲鳴を上げて、親切心で部屋を貸した座間を罵った。

 

木部美智子はフリーライターながら、雑誌「フロンティア」の看板記者で生活は安定していた。 編集の中川から連絡があって、真鍋編集長が用があるみたい、と気働き良く言う。 売り上げを落としていた「フロンティア」を立て直したのが真鍋編集長だった。 東中野の二件の女性殺人事件、座間聖羅は出会い系掲示板で客を取っていたフリーの売春婦、二才になる子がいるが板橋区の養護施設に保護されている。 もう一件の被害者も割れた、森村由南・27才。 スーパーで7才の男の子が万引きしたので、防犯員が、母親に告げてお金を支払って貰おうと品物と共にアパートを訪ねると、突如、3才の女の子がレジ袋のパンをガツガツと貪り出して吃驚、警察に通報すると部屋に残されていたスマホに眉間を撃たれて殺された女が映っていた。 母親が殺されてから6日間、二人は何も食べていなかったのである。 彼女もやはり、風俗店で売春行為を仕事にしていた。 売春行為をしていた女性をターゲットにした連続殺人事件である。  犯人はピストルを所持している? 怖い話である。

 

木部美智子が、今、取り組んでいる事件は、サンエイ食品工業・六郷北工場へのクレーム恐喝であった。 悪質なクレームは三年続いていて、本社からは、工場長の責任に置いて解決しろ、という指示に従って工場長は私費で対応していた。 指示された口座に何度も振り込んでいる明確な証拠もあるが、警察に届けてはいない。 木部がコンビニの雇用の在り方を取材している時に、ある店長から訊き出した話だった。 →最初はここにクレームが来ていましたが、その内、直接メーカーにいったようです。 サンエイ食品工業に話を聞きに行くと、工場長は30才過ぎの小太りな男だった。 訥々と話す彼の話は、異物の入った弁当の写真とともに、辞めた社員やパートがブラック企業である事を告発しているネットの記事だった。 工場長は、→誇大に書かれているが事実無根じゃない、私は今の職場をクビになったら次はないんです、と言いながら去年一年間で53万円を支払っていた。 工場長は植村誠と言い、送られてきた20枚ほどの写真には、弁当に虫が入った、サビた釘があった、カビの付いたご飯、等々、封筒の宛先は同じ筆跡だった。 間違いなくヤラセの写真だと確信しているが、木部は工場長の対応振りが納得いかなかった。 そして怪しい脅迫の電話があった。 →おまえのところに勤めているパートの娘を誘拐した、200万円用意しろ、と誰の娘なのか訊くヒマもなく切られた。 本社の部長は、→そんなの、ほっとけ!と歯牙にもかけなかった。 二日後に電話が来た、若い男の声で、カネの用意は出来たか、と言うので、本社にかけてくれ、と返事をすると、猛烈に怒って、→ナニ言ってんだ、テメエ、誘拐だぞ!って、工場長はその声も録音していた。 その三日後、アイマスクをした若い女の全裸写真が送られてきた。 しかし、それきっり連絡が途絶えた。 本社の部長は諦めたんだ、と素っ気無かった。 木部美智子は工場長が振り込んでいる口座名「ノガワアイリ」と同姓のパートがいる事に目を留めた。 野川美樹・55才、金属12年。 その娘で愛里・21才を突きとめた時には唖然とした。 野川美樹の近所に住む女は、もう永らく愛里の姿は見ていない、という。 美智子は生活に疲れたような母親の美樹を待ち構えて尋ねるが、→最後に会ったのはこの正月、連絡はメールで、最後に来たのは一ヶ月前、高校を卒業したから家に生活費を入れろ、と言ったら家から出て行って、帰って来なくなった、と平然としている。 愛里の部屋はベッドと、服が被せられて山のようになったパイプハンガーで占領されていた。 美智子は付け睫とヘアブラシをこっそりポケットにいれ、高校の卒業アルバムを借りた。 同級生に訊き回ると、誰もが、簡単に嘘を付く子で皆から〆られていた、援助交際でカネを稼いでいた、と言う。 ただ、居場所は誰も知らなかった。

 

「フロンティア」に寄った時、植村工場長から携帯があった。 工場の事務所で、「三人目の犠牲を出したくなければ2000万円を用意しろ、猶予は22日」と書かれた一枚を見せられた。 期日は明日である。 金額は10倍になっている、そして毛髪と全裸の女の写真が入っていた。 以前の写真の女と小太り具合いがよく似ていた。 本社の部長は、そのままにしておけ、と無責任だった。 美智子は、警視庁捜査一課の秋月薫・警部補を呼び出し、詳細を告げた。 毛髪は鑑識に回してみるが、まだ、事件とは言えないし・・・と愚痴りながら、→実は中野の二人の射殺された線条痕が一致した、明日から連続殺人事件として捜査本部が立つ、とこっそり教えてくれた。

 

吉沢末男は長谷川翼のマンションにいた。  長谷川の両親は医者で、妹共に医大生の長谷川は、「貧困撲滅NPO」を立ち上げて活動に取り組む好青年だった。 しかし、表向きにはそうであったが、事実は野川愛里のような売春婦を斡旋しているワルだった。 親からマンションを与えられているモノの、大学二年生に連れていかれた闇カジノに嵌ってしまい、今では闇金に2,000万円の借金があって親に内緒の儘、取り立てに追われていた。 野川愛里のような女を更に増やさなければならない。 吉沢末男は違法ギリギリの世界にいた頃、高校生だった野川愛里は片っ端から男に声をかけている売春婦だった。 一度、→クソでぶ、ワンコインなら買ってやる、と絡まれているところに遭遇して追っ払ってやり、→これでメシ食え、と2,000円を握らせた事があった。 それから度々出くわして顔見知りになり、結構な頻度で奢らされた。 つい、二日前、末男は街金の男に呼び出された、妹の芽衣が1,200万円もの借金をアニキが払うから、と証文を残してホストクラブの男とトンズラしたと聞かされて愕然とした。 どうやって返すのか、考えが纏まらない。 そうやって茫然としていた時に、二年振りに野川愛里とバッタリあって、行くところがない、と言うと、このマンションに連れて来られたのだった。 もうひとり、御用聞きの様に出入りしている山東海人がいた、頭でっかちの丸坊主は余計その歪な頭の形が疫病神の様に見える。 愛里はサンエイ食品のパートの母が、仲間内と二時間も話している工場のブラック振りを漏れ聞いていて、それをネタに、翼、海人、愛里の三人で弁当のクレームを入れて小遣い稼ぎをしていた。 翼は機嫌が悪くなると、愛里や海人を蹴ったり殴ったりしていた。

(ここまで、全466ページの内、111ページまで。 貧困の連鎖と崩壊した家族、社会の暗部をえぐり出す悲惨さが満載の小説は余り気分が良くない。 読み進める度に暗澹とした気持に苛まれる。 正直、疲れる。 二回は読む気がしない、でも傑作だとは思う)

 

 

今宵は元会社のS先輩とH後輩との呑み会である。 先輩に場所を決めて貰ったら落語会の居酒屋だと言う。 恐らく二次会で「スナックM」も予定されているだろうから、晩飯の用意の要らない家内が内心喜んでいるだろう。

(ここまで4,200字越え)

 

令和4年8月17日