令和4年(2022年)6月25日 第520回
文庫本4冊を購入、河崎秋子「鯨の岬」(書き下ろし)、小路幸也「銀の鰊亭の御挨拶」(単行本は2020年)、佐伯泰英「出紋(でしぼ)と花かんざし」(書き下ろし)と「浮世小路の姉妹」(書き下ろし)である。
宮部みゆき「きたきた捕物帖㊁ 子宝舟」(久し振りの単行本・新刊 )
・・・㊀巻は第496回にUPしています。 先にお読み下さい。
「朱房の文庫」の夏の画は花火の絵柄である。 この夏、16才の北一は独り立ちして、亡き・千吉親分の「朱房の文庫」を引き継いだ。 強欲なおたまと大喧嘩した結果だから、夫の万作(兄弟子)と張り合う事になってしまったのは仕方が無かった。 花火の文庫はこの土用の丑までに売れ残ったら、未練を残してはいけない。 潔く始末しないで二束三文で安売りしたら客の信用を落として朱房の文庫の名を貶める、と言うのが千吉親分の教えだった。 万作の店先を覗くと、花火、金魚、団扇等々、夏の画の入った文庫が山盛りにされて安売りをしている。 万作さんは千吉親分の教えを守っていない、やはり、独り立ちして良かった!と北一は胸を撫で下ろした。 北一の作業場は、青海新兵衛が仕える「欅屋敷」からほど近い畑の中の小屋に、新兵衛が算段してくれた。 末三ジイさんや小銭稼ぎの近所のバアさんも通ってくる。 やたら風通しと陽当たりがイイ、紙に塗った糊が良く乾くし、紙が湿気ない、最高の場所だと、末三ジイさんが断言した。 「欅屋敷」の瀬戸殿は、全体に干からびて縮まっているが、声は朗々として背筋がピンと伸びている老女だった。 若君をお世話する責任者で、新兵衛もまったく頭が上がらない。 北一も、「下郎」「そこの者」「これ、文庫屋」としか呼ばれていなかったのに、「北一殿、今日はおめでとうござる、若がそなたに大層肩入れしておられる、お祝いを持っていけ、と仰せじゃ、これからもそなたの本文を尽して励みなさい」と、新兵衛に持たせた朱塗りの角樽と、三方に載せた尾頭付きの鯛を差し出されたのだった。 北一は恐縮し過ぎて、あ、あ、ありがたき幸せに、存じ、あ、あ、あげます、としどろもどろのうわ言で辛うじて返事ができた。 その後、末三ジイサンの娘夫婦がお花見みたいな重箱を持って来てくれてそれも囲んで祝いの宴をした。 こんなに心が温かく軽くなったのは初めてだ、北一は知らずに笑いながら泣いていた。
この作業場と北一が住む「富勘長屋」の中間に「長命湯」がある。 ここの釜焚きが「喜多次」である。 様様な焚き木を拾い集めるので結構な汚れ仕事である。 身なりは薄汚くしているが、ホントは綺麗な顔で信じられない程、身軽で腕っぷしも強い。 謎だらけの男であるが、喜多次の断っての願いで、北一は周囲の誰にも一切その存在を明かしていない。 半年前の冷え込んだ年の暮れ、喜多次はこの長命湯の裏庭に浴衣一枚で倒れていた所を、長命湯の爺さん婆さんに助けられ、そのまま居候になって釜焚きになった。 正体は北一だけが知る頼もしい用心棒なのであった。 ・・・作業場では秋の絵柄の文庫の新作が次々と作られている。 長命湯で喜多次が拾い集めて来た紙屑、ぼろきれ、枯れ枝、枯草、板っ切れや棒っ切れがうず高く積まれている。 この中から「引き札(チラシ)」を探させて貰った。 今、どんな引き札が出回っているのか、文庫の売り上げに繋げようと考えていた。 その中にまったく季節外れの「宝船」の引き札があった。 正月二日に枕の下にこれを置いて寝ると吉夢を見られるという宝船である。 八枚あったが、どれもが七福神の弁財天が背中を向けている、おかしな画であった。 喜多次は何処で拾ったか覚えてねェと言う。 まさか、これがアトから事件に繫がっていくなんて思っても見なかった。
千吉親分は松葉という名前の全盲のおかみさんを世間の風から大事に守って暮らす為によく気の付く女中を付けていた。 おみつは四代目で親分に気に入れられていたし、おかみさんにも好かれて頼りにされている。 北一のうんと姉さんである事は間違いない。 綺麗好きでお菜作りとメシ焚きが上手く、明るい気性で良く笑い、おかみさんにとっての良く働く一対の眼である。 文庫の引き札の事でおかみさんに相談しようと冬木町を訪ねた。 毎日のようにこの家で晩ご飯をご馳走になっているから、おみつも機嫌よく迎えてくれる。 「うた丁」さんは髪結い床であり、宇田次さんが駕籠で迎えに来て、→極上の椿油が手に入ったからこの夏に傷んだ髪を手入れしましょう、と連れて行ったそうナ。 亡くなった千吉親分から随分世話になったお礼から、特に世話を焼いてくれるのだった。 おかみさんを諦めて長屋に帰ると、貸本屋の村田屋治兵衛が大きな風呂敷包みを背負って待っていた。 掃除の行き届いた部屋にあげると、千吉親分の躾が思い出される。 →掃除の出来ねえ奴はロクなモンじゃねェ。 村田屋は、→あなたの文庫に本を入れて売り捌くのはどうかと思っています、あなたの文庫は品もイイし、絵柄も美しい、私ァ、万作さんとは反りが合わないし、更におたまさんの欲張りは頂けない、と北一に決めた理由を言い出した。 おみつが妹分のお産祝いに縫っていたおしめを思い出し、産まれた記念の文庫を作って売り出したい、と胸の中を曝け出すと、→赤子に絡むモノはおやめなさい、赤子は未だこの世の者ではなく、あっさりあの世に行ってしまう事がある、赤子はしばしば儚く死ぬ、原因がわからずふっつりと命が消えてしまう事も珍しくない、神様のやることに商いをかませちゃいけない、あの文庫はゲンが悪いって事になりかねない、現に、ウチのお得意さんの所でお年賀に配った宝船の画のせいで赤子が死んだと、揉め事が起きてるんですよ。
不幸があったお得意さんは、煙草と線香の店「多香屋」で、主人夫婦と若夫婦、奉公人が5人のそこそこのお店である。 若夫婦に永年授からなかった子が、酒屋「伊勢屋」の主人・源右衛門の描いた宝船の画を枕にすると、子が授かる、という噂が以前から広まっていて、今回、多香屋の若夫婦に赤ちゃんが授かった、というのである。 特別に描いてもらった、弁財天さんが掻い巻きに包まれた赤子を抱いている画だった。 この源右衛門も、→授かりましたか、良かったですねェ、おめでとうございます、と謙遜してりゃイイものを、俺の霊験、と周囲に自慢するようになっちゃ、イイ大人の振舞いといえないわねェ、とおかみさんは辛い点を付けている。 と月十日、無事、女の子が産まれて一家は大喜び、嫁は乳がよく出て赤子も丸々と太っていた、処が半年ほどで突然死で亡くなった。 おかみさんは、→七つまでは神のうちだからひょっこりこの世を離れてしまう、と言う。 嫁のお世津は毎日泣き腫らし、若主人の陸太郎は骸骨みたいに痩せてしまった、お店はドンヨリとお通夜のように暗くなってしまった。 すると、大掃除の時、若夫婦の寝所にあった文箱を落とした時に飛び出した宝船の画から弁財天さんが消えていたのである。 「多香屋」から請われて、駆け付けた富勘さんから聞かされたおかみさんが切なげに、→赤子を連れ去ってしまった、と話が拡がったら、源右衛門さんが何枚も渡した相手が大騒ぎになってしまう、と言う。 話を聞いて、北一が手にした八枚の弁財天様が背を向けている画と何かしらの関りがあると思った。 どこのどいつの仕業だ? 長命湯の釜焚き・喜多次は知っていた。 →酒屋「伊勢屋」の描いた宝船の画が子供に祟るって話しは酒を買っている連中は皆知っているサ、と事も無げに言った。 しかし、それは、二年前に仕立物屋「笹子屋」の一才の子が亡くなった事だった。 ここも伊勢屋から宝船の画を貰っていた。 二年でふたりの赤子が亡くなった、だから伊勢屋の源右衛門をとっちめようと暴動的な事が起きるぞ!
富勘さんが北一を捜していた、→神様が機嫌を直してすっぽり入れる画を貼り付けた文庫を3種類、10個ずつ、計30個、明日の朝までに作っておくれ、私はこれから源右衛門に聞き出して、宝船を渡した相手から画を引き取ってくる、鳥居とか、お堂・お社とか、相応しい絵柄でナ。 ・・・末三ジイさんは、合点、承知した、と腕まくりして応えてくれた。 火急の仕事だから、娘の嫁ぎ先「団扇屋の丸屋」からも職人を呼んで手伝って貰うと言う。 作業場で作り上げた文庫に、若様が直に画を描いてくれるという、有難い。 初めてお顔を拝見したがどう見たってこの若様は女だ、その美しさに魂消て絶句したが、→わたしは男だ、椿家の三男・栄花である、そうでなければ忠義な利け者の青海新兵衛の首が胴から離れてしまう、と断じる。 この方は椿の花の化身か?
末三ジイさんは、→宝船を降りた弁財天様を捜すまでもねェ、ここにいらっしゃる、と若様を見た途端に言って除けた。 新兵衛は、無礼だぞ、と呵々大笑している。 ・・・作り上げた、その30個を持って伊勢屋に駆け付けると、何と! 亡くなった千吉親分が心底崇拝していた「本所回向院裏の政五郎親分」が今回の事件を仕切っていた。 それまでに激高していた何組ものイチャモン組が政五郎親分の顔を見ただけで押し黙ってしまった有名な親分だった。 →千吉親分の遺徳を体した文庫本を用意して伊勢屋源右衛門がうっかり世間様に放ってしまった怖い七福神を封じようと下のは私の案だ、つまり、この案につべこべ難を言う奴は政五郎が十手をお預かりしている威光にも難癖を付けている事になる、どうだね、呑み込んでくれるかネ、と啖呵を切ると、哀れ、テルテル坊主の如くへたれたイチャモン組が震えてしまった。 →さて、富勘さん、彼らの持っている宝船を集めましょう、源右衛門さんは一枚ずつよく検分していつ描いて誰に渡したのか、但し書きを付けてくれ、それと伊勢屋の女将さん、この画には華がある、それに負けない香りの銘酒を人数分出しておくれ、とテキパキ指図した。 更に、→昨日は言い争いしている内にここの商い物をいくつか損じたそうだね、モノの弾みじゃないとしたら私の出番があるが伊勢屋さん、そこはどうかね、と言って除けると、イチャモン組は小豆を撒き散らした様に逃げて行った。 北一は懐に入れてあった一枚を取り出し、喜多次が思い出してくれたこの店の裏から見つかった8枚の画を話し出すと、源右衛門は、→そんな画を描いた覚えはねェ、私のはもっと先の細い筆だ、と断言した。 すると、これを描いて伊勢屋の裏のゴミ箱に入れたのは誰だ? 政五郎親分は、→悶着を収めてくれたのは実際はこの文庫だ、この件の始末は北さんに任せよう、どこのどいつがこんな手を使って源右衛門三を陥れようとしたのか、真相を探りねェ、的の真ん中は源右衛門さんじゃねェ、側杖を食ってイイ様に使われたのだろう、と断言した。 商売上手な伊勢屋、芸者上がりの粋な女将、二男四女の子供、誰もが立派になって所帯を持ち、孫が13人、間もなく14人目という禍福者、そして子宝船の画を渡して・・・、世間から嫉まれる数々の事柄がある。 ・・・騒ぎが起こったのは二ヶ月前に亡くなった多香屋、二年前に亡くなった笹子屋、北一が尋ねてみた、政五郎親分の名前を出すと吃驚しながらも、あんな不吉な宝船の画は既に焼却済みだとどちらも同じような返答だった。 言葉だけが独り歩きして、弁財天が消えた二枚の不吉な画は誰もが目にしていなかった。 それと誰が描いたのか、弁財天が背中を向けている8枚の画、そこから見えてくるモノは、源右衛門を標的にして誰かを救った思いだった。 政五郎親分の、→千吉親分を驚かせるほどの働きが出来るか、どうか、ここは一番踏ん張りどこだ、やってごらん、北一、と初めて呼び捨てにされた嬉しさが込み上げてきた、誰もが得をしない解決法、それをしっかり学んだ北一だった。(ここまで全360ページの内、第一話子宝船146ページまで、第二話おでこの中身、第三話人魚の毒、と続く。 相変わらずの宮部ワールドである)
日本女子第17戦は優勝5,400万円のビッグマネー、メジャー戦でないのがオカシイ。 キャデイが勝手に職場放棄して泣きだした大西葵が予選通過した。 意見が食い違って選手を放り出すキャデイとは前代未聞、きっと永久追放とかの厳罰に処されるだろう。 小祝さくら、原英莉佳が予選落ちした。 男子第9戦は、優勝1,000万円、同じ4日間なのにこの人気の無さはどうか!
PGAは小平が一人だけ、予選落ちしそうな二日間である。 LPGAは畑岡、渋野、西郷、古江、笹生の5人であるが、古江一人が予選落ち濃厚。 欧州は金谷、川村、比嘉の3人であるが、比嘉一樹のみ予選通過。 この土・日、ゴルフを楽しもうとしよう。
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令和4年6月25日