令和4年(2022年)2月11日 第487回

芋焼酎、月一回のトドック4本が届く前に呑み切ってしまったので、スーパーで2.7㍑一本を購入。 序にレモンサワー7%・6缶も買って来たが、何か、味が違う。 よく見るといつもの「果実丸ごと仕込み」じゃなく、「新、定番の味」に変わっていた。 缶の模様も同じだったから油断したが、「果実丸ごと仕込み」はもう置いていなかったような・・・。 以前の味の方が良かった、と思うがメーカーの切り替えなんだろうナ、と淋しくも、チョッピリ腹立しくも思う。

 

 

 

伏尾美紀「北緯43度のコールドケース」(単行本新刊、Oさんから借用)

江戸川乱歩賞(賞金500万円)、作者は1967年北海道生まれ、産業翻訳者とあり、今回が初作品でイキナリの受賞である。 PR帯で、宮部みゆきが、→ストーリーテリング(物語を語る)の技は新人離れしている、と激賞している。 ・・・2日で読了した。  題名の意は、「札幌市の未解決犯罪・事件」かナ?  原題の「センパーファイ」(常に忠誠を、というアメリカ海兵隊の標語)を大幅に修正・改題したとある。

 

沢村依理子は弌英(いちえい)大学院で博士号を取得したアト、恋人の笠原が師事していた教授からのアカハラ(アカデミック・ハラスメント)に遭って、将来を絶望し、自殺した事にショックを受け、6年前に30才にして北海道警察の応募試験に合格した。 急性クモ膜下出血の妻を失った大学教授の父親は実家の恵庭市に一人暮らしである。 今回、警部補昇任試験に合格し、北海道警察本部の刑事企画課から、所轄の中南(なかみなみ)署係長に配属されたのだった。 本部の捜査一課にはプライドの塊といった凄みを見せる顔付の男ばっかりだった。 その中でも最も近寄りがたい古参の巡査部長と思っていた同い年の瀧本が半年早くここに配属されていた。 部下ではあるが捜査のベテランの瀧本に現場捜査のイロハを学んでいく事になった。 今日は正月明けの1月4日、盗犯係が任意で引っ張ってきた侵入窃盗犯を取調べ中の刑事が血相を変えて沢村達の強行犯係の元へやって来た。 窃盗に入った倉庫の中で小学校低学年の女の子の遺体があった、と窃盗前科のある及川正巳が言い出したと言う。 それを聞き付けた瀧本が顔色を為して、→俺が直接、話を訊く、イイな!と有無を言わせぬ口調だった。 沢村は瀧本のその勢いに、何か、とんでもない事が起き出すナ、と予感に震えた。

 

沢村と瀧本は取調室に入った、及川に対して瀧本は手帳から写真を取り出し、→この子じゃなかったか?と差し出すと、→イヤ、こんな小さい子じゃ無くて小学校に入る位の子でした、と必死に言う。 →渡瀬勝という名前に心当たりは? →いえ、知りません、 →もっと良く考えてみろ!と瀧本が詰め寄るその気迫に異常な興奮状態が見て取れた。 取調室の空気が震え、及川が竦み上がった。 まるで沢村の知る冷静なベテラン・瀧本はそこにいなかった。

 

子供の遺体は、南区南沢の「あきやま整備板金工場」の古い倉庫にあった。 統括係長の奈良が事実上の現場の指揮官である。 沢村と同じ警部補だが奈良の方が先任だった。 奈良と瀧本は同じ高校の柔道部で、後輩先輩の仲だった。 工場の隣に二階建ての事務所があり、及川がそこを物色中にエンジン音がしたので、ブラインドの隙間から外を窺った。 倉庫の前に停車した車から一人の人物が荷物らしきものを取り出すと倉庫内に運び再び車で走り去った。 その間、10分程だッたと言う。 事務所玄関の常夜灯だけでは顔も車種も特定できなかった、と及川の供述である。 12月30日御用納め、及川の侵入は焼き破りという方法で、硝子をバーナーで焙り冷却スプレーで瞬間的に冷やすと、ハンマーで叩き割っても殆ど、音がしないそうだ。 元旦の朝、除雪機のキーを取りに事務所に上がって来た社長が硝子の割れに気付き、警察に通報したが、特に盗られたモノは無く、警察も事務所の指紋を採取しただけで、倉庫までは調べていなかった。 そのことを目撃した及川は、→もしかしてあれは金目のモノか?と事務所での獲物が無かったので、倉庫を覗いたのだと、一応、納得出来る話だった。 倉庫は二つあって新しい方は頑丈な鍵が掛かっていたが、取り壊し予定の古い倉庫はガラクタばかりなので施錠していなかった。 遺棄されてから今日で5日が経過、その間積雪があって除雪もされており、ゲソ痕、タイヤ痕は鑑識として発見するのは無理だった。 鑑識課員が、→検視官が呼んでいます、と瀧本が指名されたが、沢村も付いて行った。 遺体収納袋のファスナーを開けると少女は衣服を身に着けていなかった。 検視官は訊かれる事を察したように、→性的暴行の痕跡はない、と先に口にした。 ビニール袋から白い繊維状のモノが二つ、→口の中と爪の間からこの繊維が見つかった、それが仏さんの包まっていた毛布だ、と隅のビニール袋に指を差す。 人気のキャラクターのサニーちゃんが描かれている。 →後頭部のここに外傷があった、死因の特定は解剖結果を待ってからだ、と直ぐ知りたい瀧本に冷静に検視官は待ったを掛けた。 →栄養状態は悪くない、虫歯も一本もない、大切にされていた事は間違いない。 →おれも今年の3月で定年だ、もし、この子が本当に陽菜(ひなた)ちゃんなら何としてもホシを挙げたいモンだな。 陽菜ちゃん、島崎陽菜・・・ 沢村の記憶から5年前に起こった誘拐事件が引き摺り出された、だから瀧本は渡瀬勝の名前を及川にキツク詰め寄ったのだ。 身代金の受取りに札幌駅に現れた渡瀬は電車に撥ねられて死亡すると言う衝撃的な幕切れを迎えた。 それから一ヶ月間、全道の警察署を挙げて延べ一万人の警官を動員して、公開捜査を行ったが、陽菜ちゃんを見付けられない儘、現在に至る、道警史上に残る有名な未解決事件のひとつで、当時、瀧本は捜査本部のど真ん中にいたのである。 及川に突き付けた小さい子の写真こそ、肌身離さず持っていた誘拐当時の3才の陽菜ちゃんだった。 だから瀧本は異常な執念に燃えていた。

 

しかし、この遺体が陽菜ちゃんだとしたら、共犯者がいてこの5年間を育てていたことになる。 身代金目的で攫った子供を大切に育てた挙句、どうして今になって殺す必要があるのだろう。 瀧本から見せられた写真は白いTシャツの図柄がサニーちゃんだった。 犯人はその好みを知っていてわざわざあの毛布を選んだのだろうか? 奇妙な話になって来た。 瀧本の胸中は痛いほど解る。 解決できなかった無念さと、無事に発見してやれなかった少女への悔恨の気持、それらが複雑に入り混じっているのだろう。 白い息が漏れて、酷くくたびれている姿を晒していた。

 

・・・誘拐事件は手稲区の住宅街で起こった。 小樽市に隣接する区である。 国道5号線から一本入った一角に、島崎尚人・すみれ夫婦と当時三才だった陽菜、及び直人の母・歌子の四人家族だった。 祖母の歌子は習い事で外出、母・娘が裏庭で遊んでいる時、→宅配便です、とチャイムが鳴ったので玄関に向かうと誰もいなかった、悪戯だと思って庭に戻ると、娘がいない、付近にもいない、雨が降って来た時、帰宅した姑と探し回ったが見つからない、午後4時、交番に駆け込んだ。 所轄の軽川署の調べで、その時刻、付近を集配していた運送会社が無かった事が判明した。 いたずら目的か、営利誘拐か、道警捜査一課は悩んだが、いたずらにしては計画的過ぎるので、営利目的の誘拐事件の疑いを濃くした。 特捜班が島崎家に詰めて三日後、犯人は父親が勤める市役所に島崎宅の電話番号を訊いたのだった。 その夜、ボイスチエンジャーで加工された声で身代金5,000万円を要求する電話だった。 島崎家の資産は不動産が主だったので、馴染の信金から土地を担保にして金を借りた。 そして、→受け渡し場所は札幌駅の北口、父親が一人で持って来い、黒い旅行バックに詰めて5時半に、フラノエクスプレスの旅行パンフレットのスタンドがある、そこに置け、仲間を取りに行かせる、もし、警察が仲間を捕まえたりしたら娘は帰らないからナ。 捜査一課はそこで犯人を確保せずにアトを付ける作戦を取った。 現金を入れたバックの底にはGPSを忍ばせた。 帰宅ラッシュが始まる時間である。 島崎尚人は悄然とスタンドの傍に立っていた、そこに、→島崎さん?と一人のサングラス・マスクの男が声を掛けてきた、→バック、早く!とイライラした声で島崎からバックをもぎ取った。 →娘は無事なんでしょうか、娘を返して下さい、お願いします、 →解ってるから、早く行って、行って・・・、とハエを追い払うように手を振った。 男は途中トイレに入ると、バックの代わりにナップザックを背負って出てきた、捜査員がトイレを確認すると、マスクとサングラス、バックが投げ棄ててあった、お金を入れ替えたのだった、これじゃGPSが効かない。 男は突然自動改札機を飛び越え2番ホームに駆け上がって行った。 改札機のアラームがけたたましい。 男が警戒中だった捜査員の手を振り解こうとするが、捜査員も死に物狂いで力をふり絞っていた。 そこへ電車の警笛が聞こえ進入してくると、急ブレーキを掛ける音が響いたが男は気付いていない、必死に逃れようとして身を翻したが、一瞬、電車の下へと吸い込まれていった。 悲鳴と捜査員の怒号、無数に舞い散った一万円札でホームは大混乱となった。 格闘していた警察官は其の場に呆然と立ち尽くしていた。 男は400m程引き摺られ、どうにか、車両の下から引っ張り出したが既に心肺停止の状態で死亡が確認された。 男は白石区に住む33才の渡瀬勝と判明、消費者金融から800万円の借金があった。 更に自宅からボイスチエンジャーとトバシの携帯、JR時刻表が見つかった。 その後、いくら探しても共犯者の手懸りさえ見つからず、公開捜査に踏み切っても陽菜ちゃんの行方は一切不明だった。

 

白石区と手稲区は車で一時間近く離れている。 渡瀬はどうやって島崎家の幼女を知ったのだろうか? 聞き込みで判った事は、→島崎家の周辺で渡瀬が下調べをしていた、父親が市役所勤めをその時知ったらしい。 しかし、誰が共犯で、何処で5年間も人に知られずに育てられたのか? かつ、今になって、どうして殺害・死体遺棄という行動に出たのか、沢村は謎が深まるばかりであった。 恐らく、瀧本も同様だろう。

 

・・・1月10日道日新聞の朝刊一面に、→DNA鑑定で確定、遺体は5年前の誘拐被害女児、とデカデカ載った。 続いて1月12日道日朝刊、道警、甦る5年前の失態、火消しに躍起も高まる批判、札幌駅の人員配置の誤り、早々に渡瀬の単独犯行と断定等々のミスが重なった、と手厳しい内容だった。 ・・・西区西町一番交番勤務の藤井巡査長が巡回から戻ってきた。 机の上には今朝の朝刊が載っている。 「誘拐事件の犯人死亡は手柄を焦った若手捜査員の失態か」の記事が目に刺さる。 虚ろな目でそのページを凝視していた藤井の手が静かに腰のホルスターに伸びて拳銃を抜き取った。 自分の喉元に宛がう。 →本当に申し訳ありませんでした、と呻く様に呟き、引き金を引いた。 ・・・誘拐犯人を取り逃がして死亡させたと自分を責めていた警察官が交番内で自殺した、という報道が為されて三か月後、誘拐事件と死体遺棄事件の捜査本部はひっそりと解散した。 事件は又しても未解決に終ったのだった。

(ここまで全384ページの内、第一章の僅か77ページまで。 さて、どんな共犯者がいて、どうやって陽菜ちゃんを5年間も周囲に怪しまれずに育てる事が出来たのか、その動機を知って読者は愕然とする、沢村や瀧本はこの真犯人に辿り着けるのか、任意の事情徴収で状況証拠・一切を否定する気の強い容疑者をどう落とすのか、容疑者に付いた人権派の強力な弁護士が悉く捜査に立ちはだかる、沢村に転職の話がふたつも舞い込んで来た、間もなく38才になる、揺れる心と強く芽生えてきた刑事魂。 第二章~六章とエピローグは、乞うご期待!である。 凄い新人作家が現れた、第二作が楽しみである)

 

あれほど積雪続きだったのにこの一週間穏やかである。 この先も穏やかな予報である。 どうか、此の儘、続いて欲しいと心底願う。

(ここまで5,00字越え)

 

令和4年2月11日