令和3年(2021年)10月5日 第459回

男子プロは韓国系アメリカ人が優勝、おまけに賞金王TOPに躍り出た。 日本人が今イチ過ぎる。 無念! ・・・女子プロ第29戦は、黄金世代・勝みなみが6打差の圧勝! これで27勝2敗と圧倒的に日本人が強い。 賞金女王は稲見が52位、西村も4位と沈み、順位は其の儘である(稲見208百万円→小祝173→西村161と、西村が肉迫する、勝100百万円で7位に浮上) ・・・海外女子は畑岡が予選落ち、笹生が19位・19千ドル、ママさん横峯が64位・4千ドルだった。

 

 

金子成人「ごんげん長屋つれづれ帖(三)」(文庫本書き下ろし)

・・・(一)は410回に、(二)は421回にUP済みです。

お勝が勤める質補「岩木屋」は正月二日が店開きである。 暮れ7つ(午後4時)、羽織袴の20才位の若侍二人が荒々しく戸を開けて入って来た。 長身のサムライが指示すると、小柄な連れが抱えていた風呂敷包の結び目を解いた、一尺以上の絵付けの大皿が二枚である。 →当家が所有している家宝の大皿だが、故あって質入れせねばならぬ事態となった、名のある陶工による大皿と聞いている、ぜひとも二十両で預かってもらいたい、とお勝を睨む様に長身が言う。 奥で話を聞いていた主の吉之助が、→焼いた窯が判らないのであれば、せめて箱書でもあればよろしいのですが、このままではお預かり致しかねます、とキッパリ告げた。 更に、青磁の香炉を納めた箱を見せて、→このように、箱の表には品物の由緒が記されております、私どもも値が付けやすいのです、と追い打ちをかけると、重々しく唸り声を上げて小柄な連れに、→今日は引き上げる、市三郎、皿を持って来い、と表へ出て行った。 手代の慶三が、→あれは偽物ですか? 吉之助が、→ハッキリ言ってしまうとどんな騒ぎを引き起こすかも知れないと思って堪えたんだが、旗本の小倅に下手な因縁を付けられて酷い目に合うのは御免です。 すかさず、お勝が、→旦那さん、それで良かったと思います、といいコンビであった。

 

お勝がごんげん長屋に帰ると、家主の惣兵衛さんが長屋の皆に正月祝いに、「喜多村」の折詰を配り終えていた。 お勝が大家の伝兵衛さんにお礼に行くと、一休みしていた惣兵衛さんと「喜多村」の50才ほどの女中頭・おつねさんがお茶を呼ばれていたところだった。 →去年はお菓子だったから今年は夕餉のお供になるのがイイと思ってね、赤飯と芋・椎茸・こんにゃくの煮しめだよ。 →松が取れたらこの長屋に新しい住人が入るよ、一人は青物売りを生業にしている30半ばのお六さん、もう一人は足袋屋「弥勒屋」の、40半ばで番頭になった治兵衛さんがやっと通いの身分になれたんだよ、と伝兵衛さんが説明してくれた。 更に惣兵衛が、→実はこのおつねが辞めるんだよ、下総・佐原の乾物屋の養子に入っている倅さんが三人目の子が生まれるからぜひおっかさんの手が欲しいって言って来てね、目出度い話だから引き止める訳にも行かなくてね、と「喜多村」の主人は淋しそうに言うのであった。

 

正月8日、あの若侍二人ともう一人顎の尖った細めの侍が一緒だった。 今度は桐の箱に入れた箱書は伊万里焼と鍋島焼となっていた。 みっつほど年嵩の顎の尖った侍は凄みを利かせて、→二十両が無理なら十五両でも良い、と切り出すがお勝は落ち着いて、→これが本物なら二つで百両は下らない逸品でございますよ、ですが、この品は大皿二枚で一朱ですね、と静かに告げた。 更に、→この品は献上品ですから、本物だとしたら町中の売り買いで手に入るものではないのです、何処で手に入れられたのかお尋ね致します、出所不明な高価な品物はお役人に届け出なければなりませんので。 先の長身が吠える、→我ら旗本を盗人呼ばわりするのかッ、と刀の柄に手をかける。 お勝は、店内では他のお客様に迷惑だから、と表に出て対応する。 →桐の箱を用意するのに二分を使った、せめて一両はもらい受けたい、と情けない声を出す。 顎の尖った侍が、→洋之助、待て、この女の盗人呼ばわりは許さん、五両は頂く、嫌だと言うなら無礼討ちだ、とまたしても刀に手をかけた。 お勝は平然と、→根津権現社は五代将軍の時からゆかりのある事はご存じの筈、その門前町で氏子を斬ったとなると厄介な事になりますよ、と告げると三人は身体を強張らせた。 そこに20人ばかりの一団、火消し「れ」組が声をかけて来た、お勝さん、今年もよろしく願いますよ、お侍と表で何事ですか、と全員が三人を睨み付けると、→覚えておれ、このままじゃ済まさん、と言い捨てて足早に去っていった。

 

「喜多村」の大旦那・惣兵衛さんの顔聞きで、お勝は旗本・建部家の用人、崎山喜左衛門から権現社の楼門に呼び出しを受けた。 20年前に御奉公に上がっていた屋敷で、建部左京之亮の手がついてお勝が産み落とした源六郎は後嗣だったが、今、側室の子と跡目を争うお家事情になっているらしい。 それは最早お勝の知った事ではないが、実子であることは間違いなく、だからこそ、当時お勝を追い出した責任を感じている崎山用人が、わざわざ知らせて来る道理であるが、迷惑この上ないお勝であった。 今回の知らせは、お勝の幼馴染である近藤沙月の夫が師範をつとめる近藤道場に源六郎が通っている、と幼馴染の関係を知っている崎山用人だからこその苦衷であろう。 お勝とことさらに近付こうとしている訳ではない、これからもそれがしとの交誼は続けてもらいたい、と汗を拭きながらの弁解であった。 産まれて直ぐに追い出されたから、幼名・市之助はその辺の事情を知らずにいるだろうし、今のお勝を見ても実母だと一切、判らない筈である。 何の心配もないだろう。 

 

おつねさんが、藪入りの16日に倅の待つ佐原へ旅立つことになった。 見送りに行徳河岸まで出向いたお勝は帰り道、思い立って近藤道場を訪ねた。 住まいの方から回り込んで、おはよう、と声を出すと、→やっぱり、お勝ちゃん、と嬉しそうに沙月が現れた。 沙月の二人の子、元服を終えた16才の長男・虎太郎、13才のおあきちゃんはお勝の長女・琴と同い年、そんな話の序に道場に通って来ている建部家の跡取りの感想を聞いた。 最近の旗本の若侍の悪い評判が多々あり、お勝の質屋での出来事も話して、だから建部家の跡取りはどうなのかな?と思ったの、とそれらしく訊き出す。 →源六郎様は礼儀正しいわよ、気立てもイイし、身分の隔てなく挨拶をされてるわ、供侍がいるけど、稽古後の身体を拭く時も自分で井戸の釣瓶から汲み上げてるわよ、何なら、稽古の最中を覗いてみる? お勝は声を掠らせて、じゃ、ちょっとだけ、と言いながら後に従った。 →ほら、主人の勇五郎様を相手に打ち込みをしている若者よ、紺の稽古着に黒袴。 建部左京之亮に似て、顔も身体も引き締まっていて、遊蕩に耽っている気配は窺えない。 お勝は満足して安心した。 主人にも会って行ってよ、源六郎様にも紹介するわよ、と言う沙月を振り切って帰って来た。 源六郎が、昔の奉公人に会った、と崎山用人に知れたら大変なことになる。

 

帰路、背後から駆けてくるいくつかの足音に気付いた、三人の若侍が手に手に棒切れを持って向かって来た。 お勝を取り囲んで、→よくも虚仮にしてくれたナ、恨みをやっと晴らせる、成敗するにはもってこいの場所だ、と棒切れを振り回して来る。 咄嗟に小太刀の技を駆使して体を躱し、棒切れを奪って別な相手の小手に打ち込むと棒切れが地面に落ちた。 →おのれえ!と、目を釣り上げて刀を抜いた相手に、お勝は大声を張り上げた、→お前さん方、戦の積りで掛かっておいでなさいよ! すると、いつの間にか集まって来ていた数人から怒りの野次が飛んだ、→女一人に刀を向けるのか、卑怯者、侍の面汚しめが! 途端に狼狽えた三人の内、あの大皿を抱えていた市三郎が咄嗟に逃げ出した。 お勝が、→残ったお二人、今度顔を出したらただでは済ませませんよ、と凄むと、後ずさりしながら這う這うの体で駆け去って行った。 向こうから羽織袴姿の侍二人がお勝に近付いて来る、近藤道場の稽古中だった源六郎だった。 笑みを浮かべて、→見事な小太刀の技でした、とひと言掛けて供侍と共に歩き出した。 羽織の背中には建部家の家紋が染め抜かれていた、眩しい程だった。 実の母子の初めての出会いだったが、知らぬは我が子だけだった。

 

夕餉が豪華だった、味噌汁には蕪と小松菜、焼いたメザシ、蓮根と牛蒡のきんぴらである。 お琴が、お向かいのお六さんから余り物だって青菜を頂いたの、と言うので、お礼に向かった。 →嫁ぎ先を追い出された時、手職がなくて苦労したけど、天秤棒を担ぐ力だけはあったのさ、と苦労の跡など微塵も見せず、爽やかに言い切った。 その時、慌ただしい足音がして、お琴ちゃん、と切羽詰まった娘の声がした、お琴とお勝が向かいから同時に出ると、志保ちゃん、とお琴が驚いた、→あたしたち、家から逃げて来たの、と三つほど下の男児と手を繋いで俯いていた。 お勝は家に入れて事情を聞いた、男の子は五十吉・10才、と紹介された。 志保ちゃんの口元が青く腫れていたのは、→お父っつあんに叩かれたんだ、と怒りの籠った声で五十吉が言った。 →お父っつあんとおっ母さんが喧嘩する度に、喧嘩を辞めてと止めると、うるせえ黙れッ!てオレや姉ちゃんを引っぱたくんだ、と悔し気に顔を歪めた。 →お琴ちゃん、あたし、もうあの家に居たくないの、と志保ちゃんが泣きそうに呻き声を出した。

 

「喜多村」近くの不動店に志保・五十吉の両親、仲三とおきわ夫婦をお勝は訪ねた。 大家の九郎助さんを交えて事情を訊くと、→夫婦喧嘩のアト、仲三さんも子供達もいなくなったと、おきわさんが泣き付いて来ましてね、と言う。 二人を迎えに行く、というおきわには、姉・弟が帰りたくないと言ってるから、今晩はごんげん長屋に泊めます、とキッパリ言い置いた。 気を利かした手習い師匠の沢木栄五郎が町小使・藤七さんの部屋に移り泊まり、栄五郎師匠の部屋へお琴と志保・五十吉姉・弟が泊まることになった。 ・・・夜が開けておきわがごんげん長屋に顔を出す、お勝は夫婦の問題に首を突っ込む事にした。 仲三はウデのイイ藍染職人で仕事一筋の男だったが、二年位前から根津の岡場所に入れあげている女がいる、と白状したのである。 おまけに素人賭博に手を出して結構な借りがあって、大勝ちして一気に返そうとますます嵌っているらしい。 そんなことが次々に解って夫婦でぶつかり合って言い合いが堪えなくなった、と言う。 その内、今の染屋もしくじってしまうのじゃないかと、おわきは戦々恐々としているのだった。 首を突っ込んだ序だ、とお勝は染屋の「染庄」を訪ねて、庄五郎親方にこれ迄の経緯を語った。 二人の子たちの事で話があると仲三への伝言を親方にお願いした。 茶店「おきな家」で待っていると、親方から言われて来ました、と抑揚の無い声で現れた。 岡場所の女の事を尋ねると、→四月になったら年季が明けるんで一緒になる約束をしている、と言うではないか、おきわには言ってないともいう。 「大黒屋の娼妓でひな菊」を訪ねた、女将のお梶に頼み込み二階に上がり込んだ、ひな菊は手練手管で甘い言葉は当たり前、一緒になる気はこれほどもない、とハッキリ口にした。 →これ以上仲三さんの金遣いが荒くなると、二人の子供が可哀想なんだよ、これで仲三さんと切れてくれないかねェ、と一分銀2枚を差し出すと、素早く摘まみ上げたのだった。

 

六日後、酒に酔った仲三がごんげん長屋に怒鳴り込んで来たが、栄五郎先生や藤七さんにひっ捕まって自身番に連れていかれた。 お勝は、志保・五十吉のためにも一回、キツイ目に遭った方がイイと思って反対しなかった。 ひな菊を刺した男が捕まって自身番に連行された、丁度、仲三も留置の儘だった。 ひな菊を刺した清吉という男は、→あの女狐に騙されてしまった、年季が明けたら一緒になると甘い言葉ですっかり賭場で借金を作ってしまった、と作造親分に白状しているのを聞いた仲三は、オレも騙されていたのか、とすっかり目が醒めたのだった。 そこにおきわと五十吉が連れてこられた、アンタっ!とおきわが叫ぶと同時に、五十吉が袂から取り出した火箸を翳して仲三に向かって行く、お勝が咄嗟に五十吉を抱き留めた、いけないよ、五十吉、→大っ嫌いだ、こんな奴、お父っつあんじゃねェ!と泣き叫ぶ、自身番の全員が声もなかった、五十吉の鳴き声だけが途切れない。

 

お勝とおきわが「染庄」の庄五郎親方を尋ねると、仲三が住み込みさせてくれ、と言ってきた、ウデのイイ奴がもっと働いてくれるにゃ何よりだ、と承知したんだが・・・、と言い出したのでこれ迄の顛末を知らせた。 おきわは武州の草加の叔母さん夫婦に厄介になって、仲三が心を本当に入れ替えるまで江戸を離れる、その見込みが無いと思ったら夫婦別れを勧められてもしようが無い、とハラを括った申し入れをしたのである。 お勝が草加に旅立つおきわ母子三人を見送ってから、「染庄」に立ち寄って藍染川に眼をやると、冷たい水に両足を浸けて一心不乱に布地を洗っている仲三の姿があった。 おきわ母子が草加から帰って来るのは案外早いかも知れない、という気持ちがお勝に沸き上がって来た。

(ここまで、四話・全248ページの内、二話・148ページまで)

 

 

同期生・Mの音頭で、Oさん・Hさんと4人で小料理「S」で懇親する事にした。 緊急事態宣言明けで楽しく飲めるとは嬉しい限りである。 ・・・このコラムの訪問人数が日曜日40人を超えて過去最高を記録した。 今までは、金・土曜日が多いかなァと思っていたが、日曜日とは意外だった。 

(ここまで5,600字越え)

 

令和3年10月5日