令和3年(2021年)7月21日 第436回

白鵬へのバッシングが凄まじい、カチあげという名のエルボードロップ、殴り合いのような連発する張り手に非難轟々、照の富士には、白鵬のようになるな、という注釈付きの横綱昇進である。 これだけ世間の厳しい目に晒されると、家族にも悪影響が降りかかると思う。 一才上の日本人奥さんと、一男三女の子供の内訳は、中学生の長女と長男、小学生の次女、産まれて間もない三女という、姉弟妹であるが、今の子供は残酷である。 中・小学生の三人が虐めにあわなければ良いが・・・。 奥さんだって、周囲の白い目が襲い掛かって来るだろう。 自分達だけの思惑で勝手に生きていける世間ではない。 周囲の助けがあってこその平穏な生活がある筈だ。 しかし、例え、無視されても余りある財力でそんなものは吹き飛ばしているかも知れぬが・・・。

 

文庫本5冊購入。 佐伯泰英「照降町四季(四)一夜の夢」(書き下ろし)、高田都「あきない世傳 金と銀(十)」(書き下ろし)、山口恵似子「食堂のおばちゃん(10)焼肉で勝負!」(書き下ろし)、小路幸也「隠れの子」(初出・月刊誌2020年)、知念実希人「神のダイスを見上げて」(単行本は2018年)、どれも一気読みのような予感がする。 

 

 

翔田寛「クライム・プランナー」(文庫本、書き下ろし、初めての作家である)

クライム・プランナーとは、虐め、詐欺、パワハラ等々、刑法上ではどうにもならない問題解決を図る為、智恵を使って相手を罠に嵌め自滅に誘う存在である。

 

午前5時、大柳(おおやぎ)竜司は携帯で起こされた、新見保、と表示されている。 →ヤギさん、大変だ、メイテンが首都高速に放り出された状態で発見された。 一遍に眠気が醒めた。 品川の消防出張所に勤める新見は、救急車で現場に駆け付けて、意識不明の被害者を見た途端に心臓が飛び跳ねた、メイテンだ、タクシーが見付けて通報してくれなかったら、トラックに轢かれて即死だったろう、と言う。 →全身、痣と傷だらけ、左脚も骨折、意識不明は脳震盪かも、左側頭部に大きな傷があった。 →品川総合病院だ、意識不明の本人よりも緊急外来の箸串(はしくし)ドクターは俺の伯父さんだ、アトから電話しておくから色々教えてくれるよ、ダチの事は放っておけないからナ。 ・・・老舗デパートで16,000円のメロンを買って病院を訪れた。 案内コーナーで、こちらに搬送された塙明展さんの件で、救急外来の箸串先生と約束済みです、と告げて会う事が出来た。 →車から放り出される前に酷い拷問を受けています、身体の全体に滅茶苦茶な酷い殴打のアトが見られます、本人と話せていないし身元も不明です、容体が好転した場合、身内のどなたかに連絡をして下さい、と頼られたが、もしかして遺体の引き取り迄考えているのかも知れない。 メイテンの身内なら、姉の睦美は知っている、顔を合わせたい相手ではないが・・・。 桐箱入りのマスクメロンとピン札で三万円入りの封筒は、箸串先生からの情報を全て訊き出せたのだろう。 絶対安静、面会謝絶、事件性アリ、という事で本人には会えなかった。 三日前の晩、メイテンは渋谷の大柳の店、「ホットドッグ・プラス・ワン」に現れていつもの通りのホットドッグを注文した。 アトから新見保も仲間達と来て、メイテンはカウンターに入って手伝ってくれたのだった。

・・・病院を出て品川駅に向かう途中、後ろから来た二人の男に両腕を捕まれて黒いクラウンに連れ込まれた。 運転手と助手席にもいて、男4人がかりである、まったく見覚えはないが、その筋の連中と判った。 平和島の倉庫に降ろされたら、助手席の40才位の男、黒ジャケットの無表情な二重の冷たい目が、→持ち物を改めろ!と掠れるような声に、内ポケットから抜かれた運転免許証が差し出された。 →痛い目に逢いたくなかったら正直に答えろ、塙たちを襲ったのはてめえ達か? →はッ? メイテンは俺のダチだし、首都高で事故に逢ったと聞いた、と答えたが、意外な質問だった。 オレは、→朝5時にダチから連絡が入った、ドクターに会えたのもそのダチのお陰だ、ダチは売れないから名前は言えない、それより、何がおこっているんだ? メイテンはこいつら4人とヤバイ仕事をやっていたんだろうか? そこを襲われてメイテンだけが攫われてボロボロにされた、って事か? 黒ジャケットが、→大柳、塙が意識を取り戻したら、ここに連絡を入れろ、と名刺を寄こす、「村雨会 平井一政」とあった。 広域指定暴力団の下部組織、尖鋭な武闘派と知られる村雨会、やっぱり、やばい連中だった。

 

連れ込まれた倉庫からモノレールの「流通センター駅」まで一キロもあった。 汗だくになった。 黒ジャケットから二瓶と呼ばれた海坊主に突き飛ばされて転がった右膝が痛む。 メイテンはどんなヤバイ仕事にクビを突っ込んでいたんだろうか? 武闘派で知られたヤクザのシノギにちょっかいを出したら、タダでは済まない。 シノギを荒らされてメンツを潰されたら死活問題だ、ヤクザにとってこれ以上ない恥辱であり、決して許しておけないだろう。 下北沢のメイテンのアパートに向かう。 外廊下に置かれた洗濯機の裏側に鍵がある筈だ。 しかし、部屋の玄関ドアが薄く開いていた、ドアを一気に開けると部屋の惨状が目に飛び込んできた。 押し入れも家具も全てひっくり返されていた、畳にもぶちまけられていた、押し入れの天井板迄外されている、何を捜したンだろう、唇を嚙みながら駅に向かった。 

 

・・・都立高校の中で二番目に校庭が広い高校、それが竜司達の高校だった、新見保、川島淳といつも三人組だった。 夏休み明け、アツシは登校しなかった、担任の森岡は何も言わない。 一週間経って川島の自宅を二人で訪ねた、出て来たアツシの右目の周囲が青黒く腫れ上がっていた。 親がヤクザの、度を過ぎた不良・須永譲二の三人組、公園で缶ビールを飲んでいるところを目撃したら、追いかけてきてイキナリ殴られた、センコーにチクるんじゃねえぞ!と脅かされた。 その翌日、担任に言い付けたが、事なかれ主義の担任は、目撃者がいないから須永達の仕業だと決めつけられないだろう、って相手にされなかった。 どうりでアイツはクラスの皆に何も言わなかったンだ。 アツシの公務員キャリアの父親も、須永のヤクザのオヤジの事を知っているのか、動こうとしない。 大柳は決めた、誰も何にも出来ないなら、こっちは頭を使って仕返しするさ!   

 

校則違反のバイク登校をしていた石井隆久は、コンビニ裏に止めている400㏄のタイヤがペチャンコになっているのを見て愕然とした。 更に座席シートがざっくりと切り裂かれ、お気に入りのヘルメット迄もが消えていた。 傍にフイルター無しの洋モクの吸い殻がある、これを吸っている同級生を思い出した。 アイツだ!

 

バイクに乗った大場靖が集合場所に遅刻して行ったのは夜8時過ぎ、丸山哲也が、遅いぞ、ヤスシ!と非難がましい口調だった。 リーダーの須永譲二が、→ヤスシ、いかしたヘルメットだな、と声を掛けると、破顔した大場靖が、→止めていた俺のバイクに引っ掛けてあったから頂いたのさ、と自慢気に答えていた。 遠くからバイクの轟音が聞こえると、アッという間に三人の周りを20台以上のバイクが取り囲んだ。 全員が白い特攻服で、赤や黄色のバンダナで覆面していた。 全て二人以上が乗っていて、後部座席に同乗している男達は、金属バットや鉄パイプを振り翳していた。 ぶっ殺してやる!と襲い掛かって来た、丸山哲也が横殴りにされて吹き飛んだ、大場靖に二台のバイクが体当たりして来て、靖は道路に投げ出され、群がって来た連中からの打撃で後頭部に衝撃が走り意識が闇に落ちた。

 

20日後、大柳は明大前の自宅の帰路に付いていた、父親と二人暮らし、近所に寡婦の伯母・静子が住んでおり、何くれと面倒を見てくれている。 角を曲がる時、後ろからビュンという風切り音がした、一気に駆け出すと、背後から猛然と追いかけてきた、何か、得物で切り付けられたのだった。 猛然と走り切り、獰猛な柴犬を飼っている近所の庭先に入り込む、追撃してきた人間が激しく吠えられてタタラを踏んでいる隙に逃げおおせた。 あれは恐らく須永譲二だろう。 

 

奴らからアツシを救う為にし掛けたのだった。 コンビニ裏に止めていたバイクは暴走族の石井隆久のモノである事は承知していた、そのシートを切り裂き、タイヤの空気を抜く、大場靖が愛用している煙草の吸い殻もバラまく、ヘルメットを盗んで大場靖のバイクに引っ掛けておいた。 石井隆久は暴走族の仲間を引き連れて須永譲二達のたまり場に駆け付け、大場靖が自分のヘルメットを被っているのを見て、犯行を確信して襲い掛かったのであった。 丸山が真っ先に血祭りに上げられ、大場もふくろ叩きにあったが、須永は逃げおおせたのである。 須永譲二は暫く姿を見せなかったが、10日後に出て来て坊主頭で顔に複数の痣があった、頭蓋骨骨折の丸山と、肋骨三本と脛の骨折の大場は入院した儘、親が退学の手続きを取った。 彼らが警察沙汰にしなかったのは自分達にも叩けば埃が出る弱みがあったからだ。 須永譲二は、暴走族に襲われて反撃する事もなく、仲間を見捨てて逃げ帰ったことを知った父親は激怒して譲二に折檻を加えた、ボウズに刈られた、という噂が広まった。 アツシは奴らから解放された。 

 

しかし、譲二からの襲撃はその後二回、一回は目出し帽でパイプで殴りかかられ、二回目は京王線明大前のホームで突き落とされたが瞬時に退避スペースに潜り込んで間一髪セーフだった。 大柳のバイト先はショッピングセンター内のうどん屋の下働きである。 ショッピングセンターの上階はマンションで、今、外装工事中である。 午後9時過ぎ、バイトを終えて自転車置き場の大柳にブン!と唸り音が聞こえた、咄嗟にマンションの非常階段を駆け上がった。 一気に6階まで走り上がった時、背中に激痛が奔り、疼痛に堪えて振り向くと追いかけて来た須永譲二が仁王立ちしていた。 実は大柳はこの間、徹底的に身体を鍛えていた、独学ではあるが授業を貶めてもその時間を最優先した。 鍛錬の繰り返しは、空手を使い切る暴力性の高い須永と立ち向かう為だった。 須永の打撃が止まらない、意識が朦朧となって来た時、止めを差そうと首に両手が掛かった、大柳はこの瞬間を待っていた、髪の毛を掴み、抜けろとばかりに渾身の力で引っ張り、須永が激痛で緩んだ所に右手指二本で両目を突き刺した、ぐわッ!と叫んで手を離した隙に8階まで駆け上がる。 階段の踊り場で、サバイバルナイフを出して迫りくる須永の切っ先が、大柳の胸先に入る瞬間、素早く身体を反転させると、片目しか見えなかった須永はタイミングを誤り、手摺を乗り越すように前のめりに回転すると、暗い空中を落下し、遙か下の方からドスンと鈍い音がした。 須永の油断と慢心が勝敗の帰趨を決したのだった。 大柳がマンションで殺されかけて、襲撃犯・須永が過失で墜落死となってこの事件は解決した。 しかし、どうやって、これほど大柳の日常を知っていたのか、と疑問が湧いていた。 新見保が病院に駆け付けて来て、→昨日、アツシが投身自殺した、ヤギさんが襲われて病院に運ばれた時、アツシから電話があって、須永達が暴走族に襲われた理由をアツシを脅かして訊き出したらしい、ヤギさんの事を話してしまったって泣きながら・・・。 その時から、大柳は、ダチは絶対見捨てない、と誓ったのだった。

 

実は大柳・33才は3年前に離婚して今、6才になる娘の美波の養育費(月5万円)の支払いが4ヶ月分も滞っていた。 旧姓に戻ってレジ打ちで生計を立てている高見沢純子から猛烈な催促が来ていた。 今月分は箸串医師の袖の下に使ってしまった、何とかしなければ、生涯頭が上がらない静子伯母の耳に入ってしまう。 店の前で、品川署刑事課の俵藤巡査部長が待ち構えていた、→塙の野郎がとんだ目に遭ったそうじゃないか、マンションで三人組に襲われて、出入りしていた三人組も姿が消えた、その中に塙によく似た野郎の目撃があった、散らばっていた高齢者リストとか、状況からして特殊詐欺の拠点だろう、塙を締め上げてきっとお前をお縄にしてやる、と捨て台詞で去って行った。

(ここまで全337ページの内、92ページまで、俵藤巡査部長がお縄にしてやる、と息巻くのは何故か? 友人と二人で立ち上げた店舗設計事務所は順調だったが、その運営にその筋の嫌がらせが始まったのがキッカケで会社は倒産、その時もクライム・プランナーで仇を取った。 メイテンが意識を回復し、事件の顛末が見えて来た、何と、警視庁刑事からの情報が襲撃した半グレに渡っていたのだった・・・ 結構な長編で、最終章迄全体が見えてこない、読み応え充分である)  

 

 

全英オープンで優勝したコリン・モリカワ(24才)は、祖父母が日本人、祖父母が渡米後に生まれたのがコリンの父親なのだがアメリカ人として育ったので、日本語はまったく話せない、だから、コリンも話せない。 解説の戸張が、オリンピック代表で日本に来るから、モリカワの漢字を聞いてみたい、と言ってたが、父親が知らなければコリンに聞いても判らないだろうナ、と思う。 森川、盛川、守川、森河、杜川等々、結構あるし・・・。

(ここまで5,400字越え)

 

   令和3年7月21日