令和2年(2020年)8月22日 第351回
Oさんから借用3冊、何れも馳星周。 単行本は今回の直木賞「少年と犬」、文庫本2冊「ブルーローズ」上・下巻(これは、2006年刊の単行本をU内科から借りて読了済みだった)、「少年と犬」は一晩で読了した。 流石に直木賞だ、先へ先へとページが進んだ。 ・・・歯医者と床屋、16時20分に終えて、床屋のマスターに教えられた旨い・安い、天ぷら屋を目指して30℃超えの中を歩いたが17時開店だった。 残念! では、と、以前から気になっていた歯科医院の傍のホテルに、「焼き鳥、串カツ」と染め抜かれた大きな暖簾が下がり、「90分飲み放題、生ビール付き 690円」の看板もある。 しかし、そこも17時からだった。 生ビール付きの意味を知りたかったがしょうがない。 炎天下の中を20分歩いてこの始末、生ビール、すっかりその気が失せて、自宅での風呂上がりの缶ビールと6:4割の芋焼酎に代えた。
安東能明「消えた警官」(2020年文庫書き下ろし、作家は1956年静岡生まれ)
第一話 護符の年輪
綾瀬署の警務課長代理・柴崎警部は、部下の中矢巡査部長が引き取って来た紙の束から一枚を取り出した。 3年前のパトロールメモで、当時の小幡巡査の名前と印がある。 江守家に投函されたもので、「巡回、異常はありませんでした」と書かれてあった。 ゴミ収集所に捨てられていた32枚、何故、江守家は今頃捨てたのか? 3年前、江守隆史宅に空き巣が入り、そのアト、地域課がパトロールしてメモを置いていたモノだった。 小幡巡査は当時・29才、既婚者で子供が一人いるにも拘らず、その後、突如、失踪したのであった。 幸い、拳銃等の持ち出しは無かったモノの、監察が調べたが未だに見つかっていない。 借金や揉め事は無く、悩んでいいる風もなかったし、失踪するような兆候もなく、妻は必ず帰ってくると、断じて捜査願を出していない儘であった。 しかし、解雇に当たる分限免職処分となり、既に警視庁に籍はない。 幸い、マスコミには洩れず今日に到っている。 これは、刑事課長代理・小河内警部からの情報だった。 小河内警部の部下の高野朋美巡査は27才、最近、メキメキと力を付けて来たと評判が高い。 ウラの自転車置き場で高野巡査が炎天下の中、ひき逃げに遭った自転車を熱心にスポークを一本一本虫眼鏡で観察している。 塗膜片を探しているらしい。 一か月前、19時に69才の男性(萩野元文さん)がひき逃げに遭って頭蓋骨骨折の重傷を負ったが、未だ、入院中である。 その日、宿直だった高野巡査を始め20名体制で捜査に当たったが手がかりひとつ見付けられていない。
柴崎警部と中矢が訪ねた江守家は築30年超の家だった。 18時半、江守隆史と妻の裕子、父の安男が在宅だった。 パトロールメモの廃棄は、「この間、改築した時にゴミを纏めて引き取って貰った時かしら?」と、記憶が曖昧であった。 3年前のゴミだから無理もないか・・・。 安男はガス会社を退職したアト、子会社に再雇用され、ガス機器の設置や展示会の説明応援等々に従事しているらしい。 署に帰って坂元真紀署長(37才キャリア・独身)に報告、小幡巡査の失踪の話にも及んだが、失踪理由が曖昧な儘ではそれ以上の話の進展はない。 ・・・翌朝は高野巡査に同行して、ひき逃げ現場に行った。 「人が変われば異なる証言も出ます」と、執念を持った高野巡査の聞き込みであった。 「二日前に鑑定から報告があって萩野さんの靴にタイヤ痕が出ました」 ・・・聞き込み先から出て来た高野巡査が首を傾げている。 現場から離れた方向違いのウチだったが、「急ブレーキを二回聞いた、一度目小さく、4~5秒アトの凄く大きな音」だったそうだ。 更に高野は道路脇の植木の中から5㎝程のプラチック片を見付けた。 新しく舗装された道路との境目も調べたが何もなかった。
一週間後、柴崎警部は小河内警部と連れ立って竹ノ塚署の奥山生活安全課長を訪ねた。 かっての小幡巡査の上司だった。 奥山課長の話では、「飲食店の改築工事で出た建築廃材を不法投棄した事件があったが、被疑者は身代わり犯人だったのを小幡が見抜いて、お陰で冤罪を防げた、なかなか、デキる奴だなと思ったよ。 ただ、失踪する2~3か月前から給料を入れてなかったそうだ。 家族三人で出かけて家庭円満な状態だったから、オンナじゃなさそうだった」と、結構な内容だった。 ・・・その足で小河内警部は、「タイヤショップ」に寄った。 茶髪の若い男に「ウチの女刑事が来ただろう、これ、何の部品だ?」と持ってきたビニール袋を出して凄んだ。 高野巡査が見つけたプラスチック片である。 ヘッドライトカバーの特注改造品であり、売ってる事がバレないように店長から口止めされていたのだろう。 「部品を買った奴の名前を教えろ」 高飛車に出た小河内警部は、西綾瀬・笹尾聖太の納品書コピーを手にしたのだった。 高野巡査は管内20軒ほどのショップを一人で黙々と探し続けている。 ・・・三日後の18時半、西綾瀬のアパートで待ち受けていた柴崎と小河内・高野は、笹尾が乗って来た車の右バンパーを指差して観念させ、事故を起こした現場に案内させた。 「事故は7月7日だな、笹尾聖太、お前は6月9日速度違反で捕まって、30日間の免停中だったな、逮捕されるから通報しなかったンだな」 笹尾が衝突したのはセダンだった。 ちょん、と当たった程度で、相手の顔も車のナンバーも覚えていないが、あっちに人が倒れていたのが見えたので、その車が轢いたのでは?と思った。 相手と同じ方向に向かったが逆方向だったので切り返している内に見失った、と言う。 この検証に見物に来ていた老人が、「ひき逃げ事件があったその週には舗装工事をやっていた、やけに早いな、と変だと思ってた」 柴崎は、足立区役所の知人・吉村に電話をして確認すると、舗装工事は7月14日、事故の一週間後だ、200万未満の随意契約だから電話一本で済む半日工事だった。 区議会議員の井口さんからの要請だったらしい。 ・・・翌日、井口議員の事務所に出向いた。 江守さんからの要望だったと言う。 ナニ、江守? 議員は、「ガス会社に勤務していた時の先輩です」 すると父親の安男か。 ・・・8月29日金曜日18時過ぎ、青井駅の階段を上がって来た江守安男を待ち構えていた柴崎と高野は、7月7日の引き逃げ事件を厳しく問うて、安男は全てを白状した。 廃棄されたパトロールメモの意味も・・・。 さて、その真実は?
第二話 火刑
柴崎がそろそろ仮眠に入ろうかと思っていた午前二時過ぎ、「有料老人ホーム東和青幸園です、ボヤで入所者が火傷しました、私はキダと申します」 高野巡査と急行すると、エプロン姿の、髪が乱れたままの若い男が木田と名乗った。 302号室の火傷した認知症の梅津喜代さんを、看護師が人工呼吸中だと言う。 小柄な、胸に西里のネームプレートを付けた若い女が、「死んじゃうかも!」と声を張る。 木田が、替わって・・・と引き摺り下ろした。 ベッドサイドに焦げたタオルケットがある、これが燃えたんですか?と訊くと、西里が「ハイ」と呟いた。 柴崎は、80才前後の老女の口元に耳を当てがったが、呼吸はしていなかった。 パジャマの首回りが焦げていた。 駆け付けた救急隊員がAEDを施術しても息を吹き返さなかった。 担架に乗せて運ばれていった。 柴崎は、部屋の中、クローゼットを始めあらゆるところを確認したがライター・マッチらしきものは発見されなかった。 ただ、ナースコールが外されていた。 西里が柴崎の問いに答えた。 205号室の排泄の介助中に、悲鳴が聞こえたので梅津さんの部屋に飛び込んだ、タオルケットが、全身が燃えていたので、クローゼットから布団を引き出して上から被せて消しました。 梅津さんはタバコは喫いますが部屋では禁煙です。
富永施設長が午前4時過ぎにやって来た。 でっぷりした体形の50才前後で、所作の一つ一つがとても責任者には見えない。 綾瀬署から刑事課と鑑識員が5人臨場、さっそくそれぞれの捜査が始まった。 それからの2時間は目の回るような忙しさが押し寄せて来た。 49人の入所者の朝ご飯から排泄その他の介護である。 介護士に話を聞くどころではなかった。 ようやく落ち着いた8時過ぎ、救急隊から梅津さんの死亡報告があった。 木田も西里も、「燃えていたから必死で消した」と言ってるが、誰が火を付けたのか判らない、火を付けた人がいるとすれば殺人事件です、と言われて、富永施設長は初めて事の重大さに気が付いたようだった。 職員13名、アルバイト5人でケアしているが、夜勤は二人だけだった。 入所者49人の殆どが認知症を患っていた。 実務については施設長よりも断然、宮野介護主任が詳しいので、と事情聴取を替えてもらった。 鑑識員がベッドの下からタバコの吸いガラを見つけてきた。 ・・・宮野康彦は44才、短髪で痩せていた。 勤続3年、車通勤で未婚。 業務割当表とシフト表の作成、職員の研修と家族への対応等が主な仕事と言う。 西里はこの4月からの新人、木田は31才で4~5年になるが、ポカも多い。 宮野からは余り情報が無いのでこれで終了し、首にタオルを巻いてキビキビ動き回っている介護士に話を振った。 「橋本」のネームプレート、小太りの彼女はさばさばしていた。 施設長は本部から余されてきた人、介護の実務は無いし、いい迷惑です、とズケズケ言う。 前の田原施設長は全員をキッチリ把握していたし、我々の悩みも良く聞いてくれたけど、今は職員の出入りも激しくなって、「まあ、君達の代わりはいくらでもいる」と豪語する理事長の言葉をマトモに受けている駄目なヤツ、と辛辣であった。 宮野主任がしっかりしているから持っているようなモンです。 梅津さんはヘビースモーカーで、同僚が病室でタバコの臭いがしたと言ってるし、そう言えば、西里さんが入って来てから財布を盗まれたり、現金が無くなった、とか騒ぎが起きて来たし、昨晩も喫煙室のライターが無くなって、スタッフ全員、誰も知らないと言った騒動があった、と言う。 ・・・上河内警部と署に戻る車で、梅津さんの23~24才位の孫がいて、週一くらいに病室に入り浸っており、禁止されているのに泊っていく事もあるらしい、と聞かされた。 宮野主任が大目に見ている、とスタッフの不満も漏れ聞いたと言う。 宮野主任の立場として厳重注意をしたが、逆に介護の仕方について小さな文句を付けるようになり、却って藪蛇だった。 泊ると必ず酒を飲むし、スタッフ相手に悪態を吐いたり暴言を吐いたり、ピザを持ち込んだり、食べ散らかして床をゴミだらけにしたり、西里さんも結構やられてました。 祖母の介護職員に対して酷い所業である。 梅津智也、美容師、その写真も手に入れたので事情聴取が必要だろう。 京成高砂駅前の美容院を訪ねて梅津智也に質問をした。 施設での宿泊は禁止されていましたね? 知らねェよ、そんなの、とシラを切る。 祖母ちゃんのおでんとかの好物を出さないから、持ってゆくしかないでしょ、・・・違う、持ち込んだのはピザなのに、こいつは嘘を吐いている。 やはり信用ならない。 西里についても介護の不満をタラタラ言い放題だった。 更に、祖母ちゃんは殺されたんだろう、きっと、あの西里だろう、早く捕まえろよ!と吠える。 スタッフに対して感謝の欠片もない。 高野から連絡が入った。 ライターが見つかった洗濯室のゴミ箱から、西里さんの指紋が検出された、任意同行して取調べを開始した、と。 取調室のマジックミラーのウラの監視室には上河内警部や坂元署長、助川副署長も聴取を見ていた。 西里は疲れ切った表情で、取調官の功を逸る誘導尋問に答えている。 三秒間、ライターの火を付けた、と認めた。 しかし、あの難燃性のタオルケットに三秒間で火が着くだろうか? 更に署長を始め、監視室の全員があの誘導委尋問は拙い、と口を揃えた。 それでも逮捕状を取って再尋問を開始すると言う。 ・・・柴崎はもう一度スタッフの供述書を丁寧に読み返した。 あった! 入所者の手当だと言って倉庫からエタノールを持ち出した奴がいる、「ホントに祖母も祖母なら孫も孫ですよ」と憎々し気に言葉にした奴もいた、後日、そいつの車が、事件当夜コインパーキングの監視カメラに捉えられていた。 何故だ? いつもは職員専用の駐車場に停めるのに? ・・・鮮やかに柴崎と小河内は、西里に罪を被せようとした真犯人を逮捕した。
第三話 目撃者 交通課の不始末が恐喝のタネとなっていた
第四話 紐の誘惑 高三の女高生が自殺? しかし、使われた紐に謎解きがあった
第五話 消えた警官 と続くが、最終章で、とうとう小幡巡査に辿り着く。 なぜ、失踪したのか? 失踪してからこの数年間、どうやって生活していたのか、そして逮捕された犯した犯罪とは?
・・・初めての作家だったが、結構な読み応えがあった。 過去に数冊の刑事モノが出されているが、手元に読むモノが無くなった時、買ってこよう、一番手かも知れない。
イギリス・スコットランドでの全英女子オープン、去年は渋野日向子の晴れ姿だったが、今年は予選落ちだった。 がっかり!だが、日本人、まだ3人も予選に残っている。 楽しみにテレビの深夜放送を楽しもう。 ・・・アメリカでは男子プレーオフ第一戦、このシーズン上位125名が4戦を戦う。 第一戦、松山は取り敢えず最初の70人に生き残った。 このテレビも楽しみであるが両方で寝不足になるだろう。 (ここまで、5,600字超え)
令和2年8月22日