令和2年(2020年)8月11日 第348回

11回目の図書館、4冊返納のみ。 借りたい本は無かった。 20年前の未読はあったが古すぎてその気にならない。 U内科から単行本3冊借用。 今回、小料理付き飲み放題の落語会は欠席した。 只、S先輩からお誘いがあったので、終了後の何時もの「スナックM」には顔を出す事にした。 ・・・16時、「すすきの・王将」で生ビール2杯と、みそ炒めホルモン及びかに玉で腹ごしらえして、「スナックM」では最後までS先輩と二人だけだった。

 

47都道府県の人口順位は北海道は8位である。 9位の福岡の方がコロナの罹患者が多い。 沖縄(人口140万人)の罹患者が、北海道(520万人)の罹患者の半分を超えた。 開放的な土地柄だから3密が過ぎるのかも知れない。 恐らく、この数日で抜かれるだろう。  

 

 

山口恵似子「食堂のおばちゃん④ ~ふたりの花見弁当」(文庫本、2018年、初出は月間誌)

第一話 おせちのローストビーフ

12月29日、はじめ食堂は常連さんだけの忘年会、3,000円会費で食べ放題、飲み放題、定員は30名弱だが入れ代わり立ち代わりその倍の人気振りである。 昼定食の常連、三原茂之は高級シャンパン2本、野田梓は日本酒、一代1本を差し入れしたが、余りの人気振りに吃驚して早々に引き上げて行った。 流石、気配り満点の二人である。 魚政の山手政夫がその豪華料理に、「これで3,000円たァ、もってけ泥棒だよなァ」と目を見張る。 昨日仕事納めだった要も今日はエプロン姿で働いている。 こんな時にしか店を手伝えない。 夜の常連客の山手正夫、後藤輝明、辰浪康平、菊川瑠美が最後に残った。 一人生活の後藤と菊川に料理の残り物をタッパーに入れて、それぞれ6個入りの紙袋をお土産に持たせた。 二人は心から礼を言って正月のご馳走です、と満面の笑みである。

 

正月三日、ニューハーフの三人組が万里と要と五人で神社初詣するのではじめ食堂に集合、一子が焼き上げた、おせち代わりのローストビーフを振舞う。 二階から下りて来た要は、一子お祖母ちゃんに借りた和服姿で全員の眼を引いた。 似合う、似合う、素敵!とみんな大はしゃぎである。 五人揃って浅草寺に行った。 二三は要に松屋の虎屋で黒砂糖羊羹のお土産を頼んでいた。 万里とニューハーフ達は家電販売店でパソコンを物色していた。 すると、二人の中学生が万引きしたのを万里が発見、父親が校長をしている私立中学校の学生服だった。 四人でそっとアトを付けると、待ち換えていたのはタバコを燻らせている五人の不良高校生、中学生が差し出したデジカメをひったくると、ちッ、これだけかよと小突いている。 「ゲスのやりそうな事ね」 和服姿のジョリーンは中学生に諭した、「今度こんな連中に因縁を付けられたら、警察の生活安全課に駆け込みなさい、奴らの格好を言っただけで警察は誰であるか直ぐ判るから、こんな不良は普段から目を付けらているから」 不良高校生は「なんだと、このバケモンが」と言いながらナイフを抜いてきた。 しかし、電光石火の早業、万里が二、三回の瞬きの間にジョリーンは5人をねじ伏せていた。 一人は上段廻し蹴りを喰らって吹っ飛び、白目を剥いていた。 実は自衛隊・特殊部隊出身のジョリーンなのだった。 悲鳴を上げて不良は逃げ出して行った。 中学生も目を丸くしている。 「さっき言った事忘れないでね、生活安全課よ」 「はいッ、有難うございました」と、二人は最敬礼して走り去った。 虎屋の羊羹を買っていた要だけがジョリーンの大活躍を見逃したので、一生分、損をしたと猛烈に悔しがった。 ・・・その夜、万里の両親、赤目千里と郁子夫婦が桐箱入りの高級メロン二個を下げてやって来た。 万里から話を聞いてお礼に伺いました、ウチの生徒を助けてもらって有難い事です。 万里はここにお世話になってから、すっかり精神的にも逞しくなりました。 以前なら万引きを目撃しても知らぬ振りしていた筈です。 それが皆さんと一緒だったと言え、見過ごさないで立ち向かってくれました。 こちらの仕事は万里は本当に楽しそうです。 新メニューをいつも考えていますし、また、いつもこちらの昼メニューを頂いて来ますので、我々夫婦は料理無しの楽をしながら、毎日楽しみに美味しく戴いております。 何から何までお世話に成りっぱなしです。 「いえ、いえ、万里君に来てもらって助かっているのは寧ろ、我々の方です、立派な息子さんを育てられたお二人に感服しております」 千里も郁子も目を潤ませている。 直ぐ厭きがきて短いアルバイトばっかりだった万里でしたが、今では脛齧りも無くなって、そんな風に言ってもらって感無量です。

 

第二話 福豆の行方

月曜日の14時近く、ニューハーフ三人組がご来店、節分の日に、メイの彼氏から楽屋に恵方巻の差し入れがあったと話のタネになって盛り上がった。 メイの彼氏は寿司屋で修業中の半人前だけど、何れは店を持ちたいと夢を語り、以前から、メイも味噌汁の店をやりたいと皆にも打ち明けていたので、意気投合したらしい。 万里がけし掛ける、共同の店を開いて、青木(メイの本名)は汁物担当、彼は寿司担当でやると、開店資金が半分で済むぜ、メイは即座に、ウン、今度彼に話してみる、と嬉しそうだった。 ・・・彼氏の名前は新庄拓馬・25才。 最初ははとバスツアーで来店したが、帰りに免許証落としたのをメイが気付いて追いかけて渡したの、凄く感謝されて、次の日、指名してくれたの、その翌週も。 ウチの店、結構高いのに・・・ ノロケ話は堰を切ったように出てきて、幸せの絶頂感が溢れ出ている。 知り合って、もう半年になる。 年下なの、恥ずかしい~とメイは身をくねらせる。 超有名な銀座の茜寿司、高卒後~調理師学校~回転ずし、そして何日も毎日のように通って今の店に弟子入りを許されたとの事だった。 聞いていた辰浪康平が、「今時、根性がある奴だな」と感心する。 今年になって同棲を始めたので新婚さん気分満開である。 でも、私との事がバレたら恋愛にうつつを抜かしている場合か、と破門になる、と言う。 ・・・万里がメイに遊びに来るように誘われた。 同級生に彼を見て欲しいのだろうと皆が言うので、気乗り薄の儘出かけた。 麻布十番の名店・美春寿司からテイクアウトをお土産にして。 拓馬は人懐っこい気さくな奴だった。 初対面の人にするりと入り込む独特の呼吸があるようだ。 そういう店に行ったのだから、メイが男だと判りましたよ、でも、過去はどうでもいいんです。 今のメイがすごく好きです、・・・私もビビッと来ちゃった、と臆面もなくノロケている。 寿司折を開けると、「なんだこれ、茶色いぞ」と拓馬が言う。 赤酢を使っている酢飯であった。 名店の寿司屋に勤めていて赤酢を知らんのか、万里の胸に不安が兆した。 ・・・翌日、一子と二三に報告した、あいつ絶対怪しい、口が上手くてタイミングも良くて、青木はメロメロだが、俺には寄生虫に見える、と言うと、二人は、昔そんな感じの詐欺師がいた、と同時に叫んだ。 もしかして詐欺師のカモにされてんのか。 動かぬ証拠を見つけてメイの目を覚まさせなくちゃ。 メイ・拓馬・万里三人で撮った写真をスマホに取り込み、要のツテでこんな従業員がいるかと茜寿司に確認すると、やはり、拓馬の嘘ッパチだった。 そして数日後の月曜日ランチタイムが終った頃、メイが幸せいっぱいの顔で現れた。 門前仲町のお寿司屋さん、イイ出物があったの、居抜きで使えるの、半分ずつ出資するの、私は1,000万円、何れ二人の店になるンだし・・・。 万里は背筋がヒヤリとした。 「青木、お前は騙されている、茜寿司じゃ誰もあいつを知らない、従業員じゃない、昨日の夜、お前が働いている時、拓馬はこの女と会っていた」と隠し撮りしたスマホを見せた。 メイの顔が強張った、表情が凍結した。 一子は温めのほうじ茶を置いた、ゆっくり飲みなさい、少しは気分が良くなるわ。 今の話を二人でしてみて、その時の態度や顔色で真実が判ると思うわ、と優しく諭した。 メイの目からポロリと涙が零れた。 まだ、金は渡していないと言う。 良かった! 万里はいきり立った、あの野郎!ぶっ殺してやる! メイは万里の手首を抑えて、ゆっくり首を振った。 「大丈夫、喧嘩なら万里君より私の方が強いから」

 

その夜、メイはいつもの三人で来店した。 何故か、康平も一緒だった。 「マンションに帰ったら、あいつ、丁度、通帳と印鑑を物色中でさ、ボコボコにされて出ていくか?と脅したら、すぐ逃げ出したわ、あはは・・・、とメイは空虚な笑いである。 さばさばとした口調、気丈な振舞いだった。 普通の男の人に心から愛される日が来るんじゃないか?と待ち焦がれるニューハーフの心が痛い。 夜の居酒屋が満席になった頃、IT企業の藤代社長と臨月になった大きなお腹の真那さんが現れた。 風采の上がらない50才男と、15才年下のモデル出身の妻は、今や、人も羨むオシドリ夫婦になっていた。 妊娠中にとてもイイ、と一子が勧めてシジミの味噌汁でご飯を食べて行った。

 

第三話 不倫の白酒

要がベストセラーを書き続ける時代小説家・足利省吾の担当になった。 今年70才になる。 担当していた先輩が脳梗塞を発症し、復帰は困難となったので、一番下っ端の要がその担当責任を負わされた、と言うのが真相らしい。 粗相して逆鱗に触れたらクビになる、と要が怯えている。 ・・・ランチの常連客、永野つばさは祝日の前夜に、先輩の送別会・27人を、銀座よりもはじめ食堂でやりたいと仲間に申し出て了承された。 値段は居酒屋、味は割烹レベルという事が知られているから最もだ。 その彼女が夜の居酒屋に初めて顔を出した。 感じとして店の雰囲気とどういう味の料理かを確認する為に、ご意見番を連れて来ました、伯父です、と一子や二三に挨拶する。 珍しく会食の席が無かった元・帝都ホテル社長の三原も顔を出した。 朝も昼も軽かったからお腹の余裕は充分らしい。 酒と食事を満足して先に帰る三原が、一子と二三にこっそり告げる。 「あの方は足利先生ですよ」 二人は吃驚! 「まさか」 文学賞の受賞パーテイは帝国ホテル、その後、足利先生は選考委員にもなったので、毎年のようにお顔を拝見していました。 一子が鮪の頬肉フライをお運びすると、ここはいつ頃からですか? と訊かれ、厨房を眺めて親子三代ですか?とも問われた。 全ての事情を聴き終えた先生は、こんなに和気藹々なのに、波乱万丈なお店だったのですね、と甚く感心している。 そして、「ここは普通のモノが普通に美味しい、亡くなったお袋が作ってくれた料理を思い出しました」 二三は永野つばさに言った、素敵な伯父様ですねェ、送別会もよろしくね、つばさは自慢する、格好イイでしょう、洋服の趣味がイイのは私のコーデイネートなの、伯父さんの前ではつばさは小学生みたいに可愛い。 ・・・出張から帰宅した要に夕刻の出来事を知らせると狂喜した。 二三が、「二人は実の親子のようだったわ」 「そうなの、足利先生の妹さんと娘と同居しているの、妹さんはつばさが生まれてすぐ癌で夫を失ってから、それ以来、妹母娘を引き取って面倒をみているの、だから、足利先生は独身を通しているの、けど、最近、妹さんが亡くなったので、今は娘さんだけね」

 

送別会当日、17時半から21時まで貸し切り、何時もの夜の常連さんには気の毒だった。 大評判の料理が続く中、最後の主賓・松木係長の挨拶で修羅場が起きた。 「つばさ、君と別れたくない、妻とは別れる、だから、捨てないでくれ!」と、割れるような声で叫んだのである。 食堂は水を打ったように静まり返った。 誰もがショックのあまり石のように固まって動けない。 「何言ってんですか、変な事言わないで下さい、私、知りません!」 そう叫ぶとつばさは松木を突き飛ばして走り出て行った。 一人残された松木は、つばさの手練手管に引っかかって深みに嵌ってしまった、と言う。 イイ気なもんだわ、この人は会社を辞めるからいいとしても、同僚の前で不倫をバラされたつばささんはどうするのよ、大体、女にフラれておいおい泣くなんて男の風上にもおけないわ、と二三は心穏やかではない。 祝日の翌夕、足利省吾がネクタイ姿で謝罪に来た。 苦渋に満ちた顔をしていた。 「本当にお恥ずかしい話しです、不倫をしていたなんて今でも信じられません、恐らく、つばさは会社を辞めるでしょう」 一子はもしかして?と訊くと、やはり、「今度、65才になる方と結婚します、昨年末、打ち明けた時、妹もつばさも賛成してくれました」 判りました、あす、つばささんをここへ寄こして下さい、お力になれるよう、話してみます、と一子は請け負った。  翌日、足利からお店にキチンと謝りなさい、と言われたつばさは殊勝に頭を下げた。 一子は、「つばささんは伯父さんに結婚して欲しくないんですよね、お父さんであると同時に憧れの人で、心の恋人でもあるんですよね、そのお気持ちは良く判りますよ、伯父さんは男性としても魅力的な上に、ご家族思いですもの」 「でも伯父さんを困らせる為に不倫に走るなんて、良くありませんよ、傷付いたのはあなた自身でしょう」 「貴女は伯父さんから離れて暮らしなさい、伯父さんが今度結婚する方は65才です、お二人とも高齢者で御似合いです」 伯父は老人じゃありません! と言い張るが、一子は、いえ、立派な老人です、伯父さんは共に老いてゆく相手を選びました、あなたは大人になる事です、子供の世話から伯父さんを解放してあげなさい。 ・・・初めて自分の愚かさを知ったつばさは肩を落として小さく頷いた。

 

第四話、 二人の花見弁当(二原と奥さんの思い出弁当)

三原茂之の提案でタワーマンションの中庭で、はじめ食堂のランチと居酒屋の常連がお花見でお招きに与った。 マンション集会場から借りたテーブル・椅子が用意されていた。 辰浪康平が酒を見繕ってきた。 はじめ食堂は食器やコップを一揃い、三原は帝国ホテルから豪華弁当を手配していた。 ニューハーフ3人、はじめ食堂から4人、ランチの野田梓、居酒屋の常連が康平と、山手正夫、後藤輝夫の4人、菊川瑠美だけは都合が悪かった。 4時間の花見が終ってから、はじめ食堂の4人と野田梓は15階の部屋でコーヒーをご馳走になり、眺望の良さと三原の生活の一端に触れてご機嫌だった。

 

第五話 サスペンスなあんみつ

一子と二三が店の休みにスイートを味わっていた時の、業務上横領・文書偽造の罪で逮捕された男と、それを直前に気付いて逮捕させた女の物語、逮捕現場ではドキドキの二人だった。

 

(ここまで、6,000字超え)

 

                               令和2年8月11日