令和2年(2020年)8月2日 第345回

前回第334回と間違って書き込んでしまった。 UP時の確認のツメが甘いなァ。 正しくは第344回だった。 ・・・文庫本5冊購入。 山口恵似子「食堂のおばちゃん」は第8巻まで出ていた。 ⑤真夏の焼きそば、⑥あの日の親子丼、⑦うちのカレー、⑧あなたとオムライス、及び山本甲士「つめ」、以上5冊である。 J堂ではこの7月1日から紙袋が有償になった。 手頃な大きさで気に入っていただけに、環境問題に考慮して、と言う理由がこっちはビニール袋でないのに何か腹立たしい。 相手の術中に嵌りそうな気分が悔しい。 今度からは今までの紙袋持参かなァ。

 

 

堂場瞬一「驟雨(しゅうう)」(文庫本、単行本は2006年、驟雨とは夕立ちの意、Oさんから借用)

刑事・鳴沢了のシリーズモノ。 今回は警視庁から左遷的に配属された東多摩署での物語。 3人の犠牲者を出した幼女誘拐殺人の犯人・間島は、「あの人に命令された」と殺しを認めながらも、訳の分からないノラリクラリの弁明を繰り返し、このままでは弁護団から精神鑑定の要請をされて、裁判では極刑に追い込めない、と言う焦りが捜査本部にあった。 特に、警視庁から派遣された石井警部補は地団太を踏んでいた。 数年前に、彼は自分の子を誘拐殺害され、それが原因で離婚をしている人生破滅者だった。 そんな時に、国道に駐車されていた車が爆発し、横を通り抜けようとした鳴沢は辛うじて重傷を免れた。 ダイナマイトで車を爆破した犯人は、幼女誘拐殺人犯の間島を釈放しろ! 釈放しなければ次も爆破する、と脅迫状が届き、捜査本部に電話も入った。 愉快犯なのか? 爆破魔なのか? これに屈する事は警察の立場として到底あり得ない。 幼女殺人犯を釈放してマスコミや都民に洩れたら収拾がつかない。 しかし、二回目、三回目の爆破が続く。 幸いな事に死者はまだ出ていない爆破事件だった。 犯人は嘲笑う、次はアトが無い、間島を釈放しなければ大変な死者が出る。 それでも釈放しないのか! もし、釈放したら間島をどうする気だ? 間島は世間に抹殺されても当然の人間だが、だからと言って警察が野に放してイイ筈がない。 ・・・鳴沢達は殺された幼女の一人が暴力団幹部が溺愛していた娘がいた事を突き止めた。 母親が表に出ていて暴力団の父親はカモフラージュされていたのである。 ヤクザはヤクザの落とし前の付け方がある。 もし、そうだとしたら彼に私的なリンチで仇を討たせてはならない。 間島を守るか、釈放するか、一般市民をダイナマイトの犠牲に晒すのか、警視庁の困窮した苦渋の決断は?

 

 

深谷忠記「共犯」(文庫本、単行本は2012年、図書館から借用)

海老沢夏彦・早苗の一人娘、美菜はまだ3才だった。 東央大学大学院農学部の院生の夏彦(26才)が、保育園から引き取って来た娘を、裏門から入った前庭の池のベンチに置いて、研究室にカバンを取りに行った10分弱の間に、姿が消えた、と110番通報があったのである。 駆け付けたのは国立警察署の岩佐と室伏だった。 研究室の仲間や大学にも知らせて、池も、研究棟A・B館も大勢で隈なく探したが何処にもいなくて110番通報をしたらしい。 ・・・18年前に早苗の父は幼女殺人事件の犯人として逮捕された。 びっこを引いていた姿が目撃され、かつ、取り調べのキツサに音を上げ、一旦は自白したが直ぐ翻した。 有力な証拠も一切無くて、結局、検察庁の起訴が見送られたが、それまでの報道で犯人と決めつけられた早苗の一家は両親が離婚、早苗が引き取られた母は二年後に病死、その後早苗は養護施設、と言う過酷な運命が待ち構えていた。 しかし、そんな事情を百も承知で養子縁組をしてくれた久保功・民世の義父母が大学まで出してくれて、更に、海老沢夏彦との結婚を祝福され、美菜という可愛い娘を授かった早苗は、実の父の秘密を夏彦に打ち明けない儘、こんな幸せがあっていいのだろうかと、内心、恐れ戦いていたのだった。 ・・・早苗の父・春山達夫は看護婦の三ツ橋容子と再婚し、旧姓を捨てた。 春山が逮捕される前に大学生の国分哲士が一旦逮捕されたが、アリバイが完璧だったので直ぐ釈放された。 彼は当時の県警本部長の息子で、捜査本部の幹部が本部長を忖度し、哲士のアリバイの徹底確認を怠った。 だから、これ幸いと、新たな容疑者(びっこを引いていた、という夜目の目撃談のみ)の春山を、絶対自白させろ!と強烈な命令が下ったのである。 ・・・早苗は、養護施設や養子先の久保家に何回も訪れてくれた父を絶対拒否し、この18年間、一度も会ったことがなかった。 父の達雄は、娘が心を開いてくれないのは、取り調べの脅威に負けて、一度は嘘の自白をしたせいで、一家が壊れてしまったからだ、と痛恨の思いだった。 何とか、早苗のその辛さから立ち直させるのは真犯人を捜すしかない。 肺癌で余命少ない時間、どうやって? その思いを汲んで後押ししてくれたのが妻の容子だった。 ・・・さて、真犯人をどうやって探し当てたのか、そうして、そいつをこの美菜ちゃんの誘拐犯人に仕立て上げた方法は? 証拠品等々の警察に対しての仕掛けは? 協力者は誰だったのか? 正に、題名の「共犯」の神髄である。

 

 

 

山口恵似子「食堂のおばちゃん③ ~愛は味噌汁」(文庫本2018年)

・・・第一話 歌と麻婆ナス

赤目万里は二三の娘・要の小・中・高の同級生であるが、二年前、はじめ食堂のアルバイトに入ってから料理の相性が良かったのか、積極的に新メニューに取り組み、今では欠かせない戦力となっていた。 13時過ぎの常連客、三原茂之と野田梓とゴーヤチャンプル談議を交わしている時、宝クリーニングのTシャツの新顔の女性客が来た。 野田梓が挨拶を交わす。 「ホントに来てくれたんだ」 昨日、美味しいお店と問われてこの店を教えたクリーニング店の新しい店員さんだった。 浜崎真弓と言います、煮魚定食にしようかしら? 目がパッチリのどことなく華やいだ雰囲気がある。 ゴーヤチャンプルの小鉢もサービスすると、美味しそうにペロリと完食した。 夜は何時もの常連客が揃った。 酒屋の辰浪康平、魚屋の山手正夫とその友、後藤輝明、そして、料理研究家の菊川瑠美、彼女はタワーマンションに一人住まいだが、新作料理の研究・発表に余念がなくて、忙し過ぎて自宅で食事を作るヒマがない。 超有名人なのに、はじめ食堂を大事にしている気持ちを隠そうともしていない、気さくな人なのである。 彼女が大フアンの「カラオケバトル」のテレビ予約をして来たから、ガッチリ食うぞ、飲むぞと腕まくりである。 音程、リズム、声量、ビブラート等々を機械が採点する番組で、情実が無く冷酷な判定が人気で、今夜は年間チャンピオン大会の出場者が決まるらしい。 二三が、じゃ、私も録画しておこう、と二階に上がり、万里も自宅に電話して予約を頼んでいた。 9時閉店のアトに帰って来た要が、3人の話を聞いて、今日は二階で録画を観ながら食事しよう、と言い出して4人はお膳を揃えてテレビの前に陣取った。 ホントに歌の上手な出場者が続き、最後の一人になると、「カラオケ大好きパート主婦、浜崎真弓さんです」と告げられて出て来たのが、何と、お昼ご飯に来てくれた宝クリーニングの彼女だった。 「いとしのエリー」を唄って、99.56で第二位、そして決勝で「黄昏のビギン」を唄って見事、優勝! 秋のチャンピオン大会出場決定! ・・・要と万里は囁き合った。 浜崎真弓と浜崎あゆみ、の一字違い、やばくネ。

 

翌13時過ぎ、三原茂之と野田梓にはカラオケバトルの浜崎真弓をさっそく報告した。 直後に本人がやって来た。 昨晩観ましたよ、優勝おめでとうございます、ありがとうございます、アレは二週間前の収録なんです、とクスッと笑う。 本人は昨日の内から結果を知っていたが、梓にも一子にも二三にも口外してしていなかったのであった。 「煮魚定食」を出しながら麻婆ナスの小鉢をサービスすると、恨めし気に、好きなんですけど、これ、駄目なんです、声に悪いと言われています。 辛いもの、熱すぎるもの、アルコールも・・・と悲しそうである。 「秋の大会で優勝する為に喉を良い状態に保ちます。 風邪を引かない、睡眠を充分に取る、食べ物にも気を付ける、いろいろ大変なんですが・・・」 「私、歌手になるのが夢なんです」 数日後、浜崎真弓から頼まれた。 普通の主婦が歌手を目指している姿をテレビ取材したい、いつもお昼ご飯をここで食べているといったら、ここも取材したいと言い出したらしい。 一子は「構いませんよ、浜崎さんのお役に立てるのならどうぞ」と少しの迷いもなく応じた。 三日後、撮影クルーがやって来た時、三原と野田しかいなかった。 テレビ局のインタビューはこちらにも及んだ。 料理研究家の菊川瑠美先生がここの常連さんで、以前から浜崎さんの大フアンで、先生からカラオケバトルの番組を教えて貰った、と二三が答えると、一子も「私もすっかり浜崎さんのフアンになりました、昔の流行歌も聴かせて貰いたいです」 万里は上がりまくって「浜崎あゆみを超えて貰いたいです!」と上擦った声だった。 撮影は30分ほどで終了、撮影クルーと去った浜崎を見ながら、野田梓が「創立記念日のアトラクションをどうしたらいいかな?と、言ってたお客様がいるから、その録画、貸して、今晩、来るから聴かせてみましょう、プロじゃないから小予算で出来るかも?」と持ち帰った。 翌日、野田梓は「録画を観たお客様は上機嫌、バッチリ気に入ってくれて、さっそく頼んでくれないかと言われた」 そこに浜崎真弓が来たので、梓がお願いする、「それは大変光栄です、ぜひ、歌わせて下さい」と、躊躇せずに快諾した。 「式典に来るお客様は70代が中心、50才アンダーはいないから、懐メロでお願い、いくら素人だからって交通費だけじゃこちらも困る、謝礼はこの位を考えている」と、テーブルで数字を示した。 「もう充分です、恐縮です」と頭を下げていた。 ・・・月曜日のランチ時、前日の日曜日に創立パーティーが行われた感想を聞きたくて野田梓をジリジリ待ち侘びた。 「もう、最高! テレビよりずっとイイ声でね、皆、聞き惚れていたわ、ご祝儀を包んだお客様もいて、社長さんに感謝されて私も鼻が高かったわ」 直ぐに浜崎真弓もやって来た。 「浜崎さん、大成功だったんですって!」 「ありがとうございます、野田さんにもすっかりお世話になりまして」 その夜、創立記念パーティの大成功を常連と喜びあっていると、真弓が二人連れでやってきて、「主人の裕治です」と紹介した。 そして、真弓がいちいちメニューの材料をチエックし始めると常連さんの誰もが鼻白んできた。 目の色が変わって来たのは大会が近付いているから判らないでもないが、あれじゃ、旦那さんが可哀そうだし、周りも鬱陶しくなってくるわね、と一子と二三は夫婦仲を心配し出した。 それは杞憂ではなかった、翌日、夫は一人で」現れ、ロクに食べずに日本酒をヤケ飲みの様に空けて行った。  昼は真弓が顔を出すが、段々険しさが強い表情になって来た。 夜は夫の裕治が日本酒の量が倍になって行った。 「あいつは、まだカラオケの練習です」 「あいつには俺が邪魔なんです、結婚しなければもっと早く歌手になれた、とハッキリ口にしたんです」 一子は、「浜崎さんは奥さんと別れたいんですか」 「あいつはもう俺なんか眼中にないんです、別れたがっている筈です」 「ハズと褌は外れるもんなんですよ」 一子は笑顔で言った。 ・・・翌日お昼、一子は、真弓に夫が憔悴して自棄になっている様子を伝えた。 あなたは憧れていた一字違いの浜崎あゆみにホントになれるんですか。 野田梓もキツく言った。 私は芝居の道を諦めて水商売に入ったけど、自分の演技で人を楽しませたかったの、でも、ホステスだって女優よ、銀座は夢の舞台、お客様は一夜の夢を見にいらっしゃるの、真弓さんは素晴らしい声と歌のテクニックを持っている、それを使って人を感動させることが好きだったんじゃないの。 今度は二三が真弓に近づいて、私達、みんな真弓さんを応援してますよ、チャンピオン大会で優勝してプロデビューして欲しいと思ってるわ、でも、それ以上にあなた方夫婦が幸せになって欲しいの、奥さんの唄で幸せになる人が大勢いますよ、だから、あなたもね。 真弓が頷いた、その拍子に涙がポロリと落ちた、すみませんでした、優勝する事だけしか頭になくて大切な事を見失っていました、今晩、夫に謝ります、もう一度やり直します。 おしぼりで涙を拭きあげて笑顔で去って行った。   

・・・以下、第二話・寂しいスープ春雨(詐欺に遭いそうになった後藤輝夫)、第三話・愛は味噌汁(万里の同級生・青木のニューハーフと育ての親のお祖父ちゃんとの和解)、第四話・辛子レンコン危機一髪(ランチの常連が食中毒、疑われたはじめ食堂が潔白を証明するが、その裏には裏切りの愛憎劇があった)、第五話・モツ煮込みよ、大志を抱け(万里の料理の野望が拡大する一方なので、目を覚まさせる為に一子が取った行動は、今はムッシュ涌井と名高い、亡き夫の愛弟子だった帝国ホテルの涌井料理長に、はじめ食堂で料理を振舞って貰う事だった)、と続く・・・ ほのぼの感、満載である。 

 

 

大相撲、我がI町出身の幕下28枚目、一山本が5勝2敗。 5連勝のあと2連敗。 全勝優勝した元・幕内の千代の国、元・幕内の宇良に連敗した。 やはり地力が違うのか、残念! 来場所は再十両を狙える番付に上がると思うので、大怪我から立ち直った一層の雄姿を見せて欲しい。 今場所優勝した幕尻の前頭17枚目の元・大関の照ノ富士、大怪我で序二段迄落ちて這い上がって来た見本がある。 今場所の幕下・千代の国も宇良も幕内からの陥落だった。 そんな目で観戦していると大怪我に打ち勝った連中がゴロゴロしている。 大相撲はホントに感激談が溢れている。 (ここまで約5,800字)

 

                        令和2年8月2日