令和2年(2020年)7月6日 第334回

7回目の図書館、返却4冊、借入5冊、・・・4月から始まった図書館通いだが、寄贈した2回・20冊の礼状がまだ来ない(寄贈されたら礼状を出します、と言ったのは図書館の女性職員) コロナによる長い休館が続いたせいで事務仕事が混乱しているのか、忘却の彼方に置き忘れられているンだろうな。 自宅には、大きな紙袋に入れて3袋(50冊程)も用意済みなのに、依然としてその儘である。

 

マアジャンも辞めたので、月・木のロト6を毎回4,000円ずつ同じ数字で買い求めてきたが、1,000円6本とか、5,600円とか、1,000円だけ何回とか、数回の当たりがあった。 しかし、ここに来て4回連続の外れである。 やっと、目が覚めた。 この4月からの三か月間で累計・数万円のマイナスであるが、ゴルフも皆無だし、出歩かないから呑み会も少なく。 丁度良い小遣いの出具合だったのかも?

 

 

 

成田名璃子「東京すみっこごはん」(2018年書下ろし文庫)

瑠衣、ケイ、ハナの三人はSNSの売れっ子読者モデルである。 今日も古い商店街で自撮り棒を使って背景を考えてのカメラであった。 SNSにアップしてブログ記事を書く、途端に多くのナイス・ボタンが押されて人気の度合いが高まってゆく。 ・・・すると風情のある路地がある。 入ってみようよ、と誘い合って薄暗い中を進むと、民家のような古い一軒家に、「共同台所 すみっこごはん *素人がつくるのでまずい時もあります」と木の看板が下がっている。 和食屋さんかしら、入って見ない?とケイちゃんが言う。 彼女はお父様の会社に就職して悠々自適、ハナちゃんはタワーマンションに旦那様と暮らし、自分もエステサロンを成功させているキャリアウーマン、私だけが何も持っていない只の契約社員・32才、秋田の実家に似ているこんな民家に入る気がせず、「私、こういうの苦手」と断った。 その場を離れようと向きを変えたら、女子高生とぶつかりそうになった。 瞬間、この子は何だか、澄んだ子、と瑠衣は感じた。 「すみません」と小さな声で言いながらその店のカギを開けていた。 入ることを拒んだのはこっちなのに、実際はこっちの方が拒まれたような気がした。

 

瑠衣は会社を定時で退社して以前から気になっていた質屋を覗いた。 二週間前の、エルメスのクロコ革の長財布を確かめに。 新品だと100万円は下らない一流品がまだ売れ残っていた。 二週間も売れ残ると、いつもなら更に値が下がる筈なのに、予定額のリボ払い20万円を遙かに上回る値段のままである。 欲しいのにこれじゃ、手が出ない、早々に値切り交渉も諦めた。 店員からそんな安っぽく見られる訳には行かない。 ケイちゃんのように母娘がお揃いのエルメスの財布と、ゴールドカードで支払う姿が頭に過ぎる。 「また来ま~す」と明るい笑顔を繕って店を出る。 ケイちゃんやハナちゃんは趣味の範囲の読者モデルだが、自分の、派遣の事務職の狙いはこれをバネにして本職のモデルなのである。 衣装や交通費は自前であり、お金がいくらあっても足りない。 お粗末で無価値な人生、と思いながらもSNSのマイページのナイスボタンをボンヤリ眺めて今日も終わった。 恐らくフォロワーは、このモデルが食費を切り詰めるようなつましい暮らしをしているなんて想像もできないだろう。

 

 読者モデルの契約雑誌の撮影で集まったハウススタジオには、既にケイちゃんもハナちゃんもスタンバイ済みだった。 ケイちゃんが口を開く。 「ハナちゃんと瑠衣ちゃんと三人で今度の正月、ハワイに行かない? ウチの別荘があるから交通費だけ」 ケイちゃんは家族で行く、ハナちゃんは旦那と行く、だから、瑠衣ちゃんは彼氏と一緒にどう? 私達も会って見たいし。 お金は無い、彼氏も実はいない、普段からのそんな見栄を張った嘘が瑠衣を追い詰める。 そんな嘘があるとは知らず、ヘアメイクさんの「イイですねェ、ハワイですか」と言う溜息が耳に重く圧し掛かる。 

 

・・・意気消沈した帰途、あの「すみっこご飯」に偶然に差し掛かった。 あの女子高校生が近付いてくる。 「あの、良かったら中に入って説明を聞いていきませんか?」 落ち込んでいる身には救いのような言葉だった。 「私、沢渡楓です」 「ああ、小柳瑠衣です」 「ここはくじ引きで当たった人が料理を作ってみんなで食べます、レシピがあるし、みんなも手伝うし、もし当たっても何も心配はいりません、月会費1,000円、一回毎に300円です、初参加の人は300円のみです」 驚いていると、高校生・純也君、ふっくらとした中年女性・田上さん、柄の悪そうな男性・柿本さん、結構な強い雨の中、早々5人が集まったので早速くじ引きとなり、何と、瑠衣が当たってしまった。 この店に備え付けのレシピ帳の中から食べたい!と思ったクリームコロッケを決めると、この雨の中、純也、お前が食材の買い出しに行け!と柿本さんが初参加の瑠衣を思いやる言葉を投げ付ける。 食材費1,500円の買い出しである。 瑠衣はクリームコロッケを料理した事がない。 柿本さんの口汚い罵りの中で必死に料理するが、手慣れた楓ちゃんがタイミング良くフォローしてくれたのである。 高校生と思えない出汁の取り方で美味しそうな味噌汁も完成した。 田上さんは文句の多い柿本さんを睨み付け、だから、アンタはシブガキと言われるのよ、と牽制してくれた。 レシピに「注意!衣の小麦粉はしっかり叩いて空気を出す事、破裂しちゃうからね」と書いてあったのに、瑠衣は見逃してしまって、一個を破裂させてしまった。 出来上がったクリームコロッケは散々だった。 柿本さんの「食えたモンじゃないな」と毒舌を吐くも、純也君は、「美味しいでしょ!」と柿本さんが食べ残したものも平らげてしまった。 流石、育ち盛りの高校生である。 瑠衣も焦げ目が残る出来栄えに落胆したが、柿本さん以外の全員がキチンと食べ切ってくれた。 心優しさが身に染みた。 イイひとばっかりだ。

 

いつもの三人でハワイ旅行の打ち合わせである。 「実は彼氏と別れちゃったの、私、一人で参加するわ、失恋旅・・・」と自嘲気味に嘘を吐くと、ケイちゃんは瞳が濡れてハナちゃんも心配そうな顔で簡単に信じてくれた。 彼氏の浮気に悩まされていた、出会いは軽井沢の別荘だった、幸せじゃなかったと、白々しい嘘がすらすらと口をついて出てゆく。 家に戻った途端に秋田の母から電話があった。 「ああ、逸子」 「その名前やめてくれない、もう逸子じゃないから」 「ええと、瑠衣だっけ、お金を貸して、ガスが止められそうだし、灯油を買うお金もない、実の親が凍死したらアンタだって厭でしょ、美容室や服を買うお金を少し回して・・・」 SNSをチエックしているのだろう。 「あれはモデルの仕事で必要な出費、贅沢しているわけじゃないわ!」 母の金切り声が耳に突き刺さる。  「頼むからさっさと送ってよ、薄情な子、さっさと結婚してもっと仕送りして頂戴」 根負けして3万円を振り込む事にした。 ・・・今月の撮影はブランド品のレンタルで乗り切れるだろうか?

 

又もや雨の夕刻、すみっこご飯の戸を開けると、短髪の30代半ばの男性がいた。 厨房で立ち働いている姿が妙に馴染んでいる。 次に、背の高い男性とOLさんらしき女性が駆け込んできた。 それぞれ、一斗、奈央と名乗り、結婚を約束しているカップルだった。 そして楓ちゃん、柿本さん、先に来ていた人が、「俺は金子です、よろしくな」 奈央が「この方は、プロの料理人なの」と教えてくれた。 6人のくじ引きは金子さんに当たり、全員が喜びの声を上げた。 金子さんは何を作っても美味しくて、下手なお店に行くよりず~ッとお得なの、と奈央が目を輝かせる。 ・・・金子さんが作ったクリームコロッケは絶品だった。 更に、海老しんじょう、ナスの煮浸しが皿に盛られていく。 一斗・奈央のカップルが「いつか、金子さんが働く料亭で贅沢してみたい」と漏らすと、「結婚が決まったら来ればいい」 「庶民には無理だってば・・・・」 「見損なうな、俺の祝いだ、招待するよ」 瑠衣には羨ましく楽しそうな三人の会話だった。 今度は奈央が瑠衣に振って来る。 「瑠衣ちゃんて、お洒落よね、スタイリストさん?」 「いいえ、ただの事務のOLです」 「センスがイイから私の買い物に付き合って欲しいくらい」 こんな仲間とクリームコロッケを食べているだけで不思議な安らぎの中にいる、一体、こんな気持ちはいつ以来だろう? 読者モデル、辞めようかな・・・。 楓ちゃんが寄って来た。 「あの、また来てください、女の人少ないですし、洋服のお話も聞きたいし」 瑠衣はイキナリ思った。 もう、エルメスの財布もいらない、ブランドの服もバックもいらない、ナイスボタンもいらない、ハワイにも行かない、今まで無理して背伸びしていた、自由に生きる、逸子に戻る気分はどうなのか、ケイちゃんとハナちゃんに宣言する姿を想っていた。

 

そんな事を考えていたら、柿本さんが、「わ!」と叫んだのは雨漏りがしたからだった。 結構な量が床へと落下してくる。 永久予約席と書かれた椅子をどける。 椅子の裏には扉があった。 柿本さんが電話した相手は、ここの常連だった中尾工務店の社長だった。 駆け付けてくれた中尾さんは、「由佳さんの椅子、その儘だな」 そこの扉を開けて二階の様子を見よう、と中尾さんが向かった時、「一緒に楓ちゃんも上がったほうがイイ」と一斗さんが勧めた。 すると、中尾さんは「楓ちゃん、あの楓ちゃんか、君を抱っこした事があるンだよ」と殆ど、泣き声みたく言った。 楓ちゃんが階段を登ろうとすると、「何か、ここ見覚えがあるような・・・」と言う。 すかさず、柿本さんが、「毎日、見てたんだよ」と声を震わせた。 亡くなった母親の由佳さんと住んでいた二階だったらしい。 楓ちゃんを抱えたシングルマザーだった由佳さんが、小料理屋だったここで働き、経営者の老夫婦から引き継いで食事処を切り盛りしていたようだ。 楓ちゃんが三才の時に由佳さんが亡くなったので、母親の思い出は薄い楓ちゃんだった。 釘に糸を巻き付け雨漏りの個所に釘を打ち付ければ、糸を伝って雨漏りが落下するので、飛び散らないでバケツに入る、と瑠衣が田舎の知恵を披露し、皆が成るほど!と感嘆した。

 

二階にはレシピ帳と同じノートが雨漏りの被害に遭わずに残っていた。 楓ちゃんが一人で見れるように気を利かしてみんなは一階に降りた。 しかし、皆で見たい、と楓ちゃんが言い、全員が覗き込んだが真っ白で何も書き込まれていなかった。 一階のレシピ帳は由佳が楓に残した母の味、彼女の味を直接知っている人が受け継いでいけば、いつか、楓ちゃんに伝わるだろう、という柿本さんたちのロマチックな思いだった。 (ここまで全325ページの内、111ページまで)

 

 

Oさんから借用3冊、中山七里「カインの傲慢」(単行本・新刊)、及び文庫本で、堂場瞬一「驟雨(しゅうう)」(単行本は2006年)と「帰郷」(単行本は同じく2006年)である。 図書館の返済期限があるからそっちの5冊が優先で、こっちに目を通すのは結構、アトになるだろうなァ。

 

今年初めての狸寄席。 客席は前後・左右1m以上離されていた。 演者の誰もが出演場所が閉鎖(東京や大阪の寄席)や、落語会が延期になったりで、4か月振りの舞台で嬉しい!とホッとした様子だった。 何もかもコロナ禍である。 18時に終了したので、○○”barの300円ビールへまっしぐら。 又もやグラン・シエフのN氏がず~ッと話し相手になってくれた。 嬉しい事にこのブログを覗いてくれていた。 有難し! 鰹の洋風味、スペアリブ、共にいい味だった。 ビール4杯で3,000円弱。 ほろ酔い気分で気を良くして、3,000円で呑み放題、歌い放題、数種のつまみ付きのスナックMへ顔を出したが、驚いた事に最後まで我一人だった。 店はず~ッと休まずにやって来た話は聞いていたが、コロナ禍が変にまだ続いていた・・・。

(ここまで、5,000字超え)    

 

                                令和2年7月6日