令和2年(2020年)4月21日 第318回

数年振りに、家内の両親の永代供養をお願いしている、室蘭S寺(納骨堂)を訪ねてお参りしてきた。 以前は、春彼岸・お盆・秋彼岸の年3回とも、帰途、白老町のサーロインステーキを必ず食していたが、今回事前に調べると、以前は5,000円以内だったモノが7,000円を超えていた。 これじゃ、手が出ない。 しょうがない、もう一つの好きだった、室蘭・Nの味噌ラーメンにした。 結婚式を挙げ、転勤もあって通算15年ほど過ごした第二の故郷が益々、遠くなりにけり、である。  

 

 

志駕晃(シガアキラ)「スマホを落としただけなのに」(文庫本、単行本は2017年)

*作者は、ニッポン放送のエンターテイメント開発局長だという(2017年当時、1964年生まれ)

シリーズ3作を全部買ったが、インターネットに無知な自分には本当に怖い話ばっかりである。

 

稲葉麻美は恋人の富田誠のスマホに電話した。 誠と違う声が「もしもし・・・」と応えた。 「富田誠の携帯じゃないですか?」 「あなたは稲葉麻美さん、拾った携帯なので、警察に届けるかどうするか、今考えていたところです」 誠と麻美の二人の顔写真が待ち受け画面になっていて、麻美の名前が解ったらしい。 麻美は警戒して、「連絡先が解ったらもう一度電話します、富田本人が直接受け取りに行くかも知れませんし」 受けた男は、「自分好みのイイ女だ、けど、このにやけた男にゃ会いたくない、もし、そうとなったらこのスマホは捨ててしまおう」と呟いた。 間もなくスマホが振動して「営業三部」と表示されたが、富田本人か、富田の会社の誰かが掛けてきたのだろう、無視した。 実は、このスマホは昨夜タクシーの座席で触って、てっきり自分のスマホと思い、何気なしにカバンに入れたものだった。 同じ形と色だった。 スマホにはパスコードの入力画面が表示された。 自分のパソコンに、「稲葉麻美のプロフイール」と打ち込んでみると、相当数の写真が現れた。 富田の待ち受け画面の美人振りと地方在住者を除くと、それらしき稲葉麻美は7人に絞られた。 その内の一人にフェイスブック35人の友達がいて、その中に富田誠のにやけ顔を発見した。 富田誠の基本データーを覗くと、出身高校・大学、B型、生年年月日が知れた。 彼の誕生日1204をパスコードに入れると、富田のスマホは、あっさりとロックが解除された。 プライバシーをこれだけ世間に晒しているとは、富田の自殺行為そのものである。 

 

スマホだけで連絡し合っていたので、麻美は誠の会社の直通番号は知らなかった。 大手家電メーカーの代表電話にかけて探して貰うと、営業三部の本人は外出中だった。 外出から帰ったら、麻美の派遣会社「花山商事の稲葉」に電話が欲しいと言付けた。 しかし、夕刻5時になっても電話が入らない、もう一度富田の携帯に電話を入れた。 男は待ち構えていたように応答した。 「富田本人と連絡が付かないので、私がそちらに伺います」 「今、横浜なんです、東京に戻るついでに、そちらにお届けしますよ」 麻美は東横線の祐天寺に住んでいたが、躊躇した。 駅名を知られたくない、と警戒心が涌いた。 「自由が丘のコーヒーチエーン店で一時間後に」待ち合わせた。 ・・・男は、麻美と富田のLINEのやり取りを一つ一つ読んでいった。 付き合い出して一年、軽井沢、沖縄、箱根などに宿泊旅行をして、週末は富田の家で過ごしていた。 写真アプリを覗くと、ツーショットが多かったが、昨年の沖縄旅行らしい黒い水着姿があり、くびれたウエスト、程よく盛り上がったバスト、美しく長い黒髪、更には、驚きのアンダーヘヤーとその奥の大事な部分まで見えていた。 撮影された彼女は嫌がる風もなくにっこり微笑んでいる。 麻美と言う女は性に関してオープンな考えの持ち主なのだろう。 この写真は黒髪フェチの男のどす黒い欲情に火をつけた。 この黒い茂みをこの手で触れてみたい。 これほどの美人がこんな男に・・・。 男は富田誠のスマホを自分のパソコンに繋ぎ、「1204」のパスコードを入力した。 解析ソフトを起動させて、そのバックアップデーターを全て自分のパソコンに保存した。 これからの二人の会話も見放題、撮った写真も見れるし、位置情報も取得出来る。 麻美と富田誠の二人の様子が筒抜けで知ることが出来るのである。

 

自由が丘のコーヒー店にはあのハスキーボイスのような男は見当たらない。 すると、店員が「稲葉麻美さんですね、お電話が入っております」と告げに来た。 しかし、その電話は切れていた。 「あと、このスマホを稲葉さんに渡して欲しい、と預かっています」 黒い見覚えのあるスマホを手渡された。 ジキにスマホが震えた。 富田からだった。 「なんで麻美さんが? どこかに置き忘れてきたと思っていたのに」 麻美は笑顔になってスマホとの会話が弾んで、出て行った。 その様子を店の奥で新聞で顔を隠していた見ていた男はパソコンを開き、位置情報でスマホを追った。 開いたパソコンには、麻美のバストの先のツンとした乳首と、片膝を立てた奥のアンダーヘヤーがくっきりみえる。 何回見てもぞくぞくする。 祐天寺で下りた所を見ると、ここが彼女の住処だろう、男はほくそ笑んだ。

 

・・・神奈川県警刑事部の毒島は部下の加賀谷と、丹沢山中で発見された全裸の女性の遺体現場に臨場していた。 埋められていた死体を野生動物が掘り起こして頭蓋骨を咥えたらしく、それを山菜取りのおばあさんが見つけて通報したのであった。 死体の下腹部は滅多刺しにされていた。 犯人は変質者だろう。 ガイシャは永い黒髪の持ち主だった。

 

男はもう数ヶ月経った部屋で、西野真奈美のイイ匂いの下着を自分の顔に当てていた。 ショーツ、ブラジャー、洋服もバンプスも全てがお気に入りだった。 彼女の下着を身に着けると、猛烈に興奮した。 テレビでは、丹沢山中で発見された若い女性とみられる殺人事件らしきニュースを報じていた。 男は、あの山は何かと都合の良い場所だったが、これでもう使えないなと思った。 そして、この部屋も早々に引き払わなければならないだろう。 安全を考えれば、今すぐにそうするべきで、その後は、じっと田舎の家で大人しくしているのが最適だろう。 ・・・稲葉麻美と富田誠のLINEでは、レデ・イガガのコンサートのチケットが手に入らない、誰か、テレビ局の友達はいない?と、麻美が誠にお願いしていた。 主催者の関東テレビに就職した大学同期の山田宏の連絡先、知らない? 男は、山田宏に成りすましてフェイスブックに登録した。 大学名、関東テレビ局勤務、と入力し、富田誠に向けて「友達申請」を出した。 すると、即、富田から友達承認メッセージが届き、「入手困難なレデイ・ガガのチケットを何とかなりませんか?」 食い付いてきた! 「事業部に聞いてみます」と返信した。 一時間後、山田宏に成りすました男は、「今日、機材席が解放されて、主催者優先で二枚をゲット出来ます、押さえますか?」 富田は、即、クレジット番号とセキュリテイコード、郵送先の住所を知らせて来た。 男は定価の10倍のオークションサイドで落札し、富田に郵送した。 ナニ、これ位の金額ならすぐに回収できる、それ以上に、麻美の体がモノに出来るチャンスなのだ。 ・・・定価で手に入ったコンサートチケットで楽しく鑑賞した富田と麻美は終演後も興奮していた。 流石の誠クン、と褒められてイイ気持ちが倍増する。 寄った居酒屋で、「実はスマホ追跡アプリに登録した、もし、スマホを紛失したら、自分のパソコンで居場所がわかる、麻美さんのスマホもそうしたら」 「うん、お願いする、その時、誠クンのスマホも一緒にね、私も探してあげれるでしょ」 位置情報が麻美に筒抜けになるのはちょっと・・・と渋る。 「何よ、疚しい事をしていなければいいでしょ」 富田は急いて言う。 「プロポーズの話、考えてくいれている?」 一緒に居れば楽しいし、体の相性もイイし、彼のステイタスも上の中だろう。 でも、もう少し慎重に考えたい。 「私は結婚は一回きり、と決めているからもう少し待って」  じゃ、一か月の内に俺の実家に来てくれるか、返事を頼む。 赤羽に住む父親60才と母親56才、母親は心臓に持病がある。 早く、相手を見せて置きたい。

 

・・・二人目の遺体が発見されたのは、一人目から300m離れた場所だった。 昨夜の大雨が土砂を流して遺体が現れた。 やはり、下半身が滅多刺しに遭っていた。 全裸で埋められていて遺留品は一切無かった。 そして、髪は黒のストレートヘアだった。 そして近くに、丁度、人を入れられるような穴が3か所に掘られていた。 次の犯行の為に用意しているのだろうか?

 

麻美は、大学で同期だった加奈子と小洒落たレストランで、「富田からのプロポーズ」を話題に食事中だった。 加奈子は、イカスミパスタをスマホで撮ってフェイスブックに載せるという。 人に見られるのは張り合いがあるし、イイね!は、やっぱり嬉しいの。 それで最近気になっている人がいるという。 同じ大学からM商事に入った武井さんの友達がコメントを書き込んでくる、武井さんに尋ねたら、彼は東大卒の、今は売れない弁護士、だという。 ちょっと変わり者だけど悪い人じゃない、と言うから今度二人で食事をするの、と言う。 エッ、直接知らない人と、驚きである。 その弁護士に、こんな素敵なレストランで食事しているのは大学時代の友人です、と説明して麻美とのツーショットも載せたいの。 麻美、スマホ貸して。 私とのツーショット、この写真をアプリから選択して左の四角いマークをタップすれば、フェイスブックに登録できるし、コメントも「銀座のイタ飯店で加奈子と食事中、ペンネが絶品」と書き込んでみた。 間もなく、麻美のスマホが震えた。 「イイね」が5件も来た。 アッという間に2桁を超えたら富田からも、「美味しそうだね、加奈子さんによろしく」とあった。 反応の速さにまた、驚きである。 ・・・夜11時、自宅のパソコンを開けてみると、「イイね」は15件に増えていた。 なんか、楽しい。 友達承認を見ると、承認待ちの写真が7枚も並んでいた。 一人だけ、6人目の顔に見覚えが無かったが、アトの6人は知っている人ばかり。 用心して6人だけ承認した。

 

 

男は、「銀座のイタ飯」をツーショットの写真と併せて投稿した麻美のフェイスブックを覗いていた。 加奈子のフェイスブックには300人もの友達がいた。 その中から、休眠状態になっている同じ大学出身者をコピペして本人に成りすまし、麻美に友達申請をした。 今度は富田誠の友達から休眠状態の男性を探し出し、同じように成りすまして麻美に友達申請をした。 富田には、もう既にこの世にいない西野真奈美の写真付きで友達申請をした。 直ぐ、承認されたのは言うまでもない。 他の男性数人にも西野真奈美に成りすまして友達申請をし、フェイスブックのやり取りで男は楽しんでいた。 彼らは全て鼻の下を伸ばしているのだ。 美人相手だと、男は誰もが同じである。 ・・・男の母親はネぐレストでうつ病を併発していた。 「ママ、ごめんなさい」と言いながら何度ぶたれた事か。 西野真奈美は永くて真っ黒な髪の毛の持ち主だった。 その髪の艶やかさは男の母親のものとそっくりだった。 もちろん、麻美も同じような黒髪だった。

 

麻美の友達は増え続けていた。 その中に、富田誠と同じ大会社の人事部の小柳守からのコメントが多くなってきた。 派遣先で富田と知り合った会社なので、小太りの善良そうな男の事もぼんやりと覚えていた。 また、武井雄哉からの友達申請に吃驚した。 彼は大学の先輩で抱かれた相手だった。 卒業後、M商事に就職し、ニューヨークに行った、と聞いていたが、今は戻って本社にいるらしい。 プロフイールには、未婚 の文字も見える。 「お久し振りです」とコメントを付けて承認すれば良さそうなモノだが、麻美はなぜか躊躇した。 富田からのプロポーズに揺れ動いている今、武井の存在は大き過ぎた。 ・・・週末、富田の部屋で寛いでいる時、来週まで80万円支払らなければならない、買った覚えのないカードの請求が来た、セキュリテイコードが流出してカード詐欺に遭った。 カードは直ぐ止めたけれど、一度は払わないといけないらしい、ブラックリストに載ったら大変な事になる、ボーナスで返すから30万円貸してくれないか、との相談を持ち掛けられた。

 

・・・3人目の遺体が発見された。同じ山中であり、又もや黒髪、全裸、下半身滅多刺しは同じであった、証拠が残らないように犯行を重ねる秩序型の連続殺人である。 毒島と部下の加賀谷は周囲の地図を見ながら推測した。 まさか、全部で10人も埋まってないよナ。

 

(ここまで、全391ページの内、127ページまで、男とは誰か、麻美に降りかかる惨劇は避けられるのか、丸裸にされた富田の私生活、落としたスマホと誕生日パスコードが全ての発端だった、男が成りすました数々の戦果、・・・スマホから知られた、大きな危険に陥る悲惨さが恐ろしい)

 

(ここまで、5,400字越え)

                                  令和2年4月21日