令和2年(2020年)4月10日 第316回

築25年の我がマンション、浴室の壁の下方がブヨブヨしており、恐らく内部が腐っている、更に、ホントに掃除がし難い、だから、カラリ床の浴室に取り替えたい、と家内が言う。 私は風呂掃除などした事が無いからその苦労は知らない。 だから、100万円以上の大金を掛けて迄、やる事なのかと疑問だった。 工事日数も驚異のたった一日、と言う。 (ただ、今回発注したU・Bのグレードが高くて・・・給湯・給水廻り・・・それでも一日半で終わった) それだけのノウハウを持った業者に家内は如何にも一目惚れ、昨年、網戸と浴室換気扇工事の対応が抜群だったらしい。 こういう事に世帯主の口出しなどどこ吹く風、さっと決めて、さっと工事して、さっと支払って終わってしまった。 マンション4階下の方が、夫婦と娘婿で出来上がりを覗きに来た。 恐らく、あの方も決まるだろう。 ・・・出来上がったお風呂の按配は流石に快適であった。 

 

 

 

 

桂望実「嫌な女」(文庫本、単行本は2010年、U内科から借用)

弁護士・石田徹子(24才)は、遠戚の小谷夏子と結婚する積りでマンションを買ったと言う西岡章夫の部屋を見上げた。 徹子は、開設5年の、渋谷駅・南口の民事専門の荻原道哉法律事務所のイソ弁として二週間目である。 荻原からは、「一番必要な事は全ての関係者から話を聞くことだ」と指導されていた。 原告、被告、関係者etcである。 夏子は徹子の祖母の妹の孫である。 小学生になっての夏休み、初めて訪れた祖母の家に親戚の子供が沢山遊びに来ていて、三日前から来ていた夏子は既にグループの女王だった。 祖母が徹子と夏子に向日葵のワンピースを着せてくれて、「可愛い」 「ピッタリだ」と賞賛の声を掛けられたが、翌日、洗濯機の中にビリビリに切り裂かれた徹子のワンピースがあった。 犯人は夏子で、「私の方が似合っている」と泣き叫んだ。 あれ以来、先週17年振りに会った時、彼女はワンピースの事件を覚えていたのだろうか?

 

西岡章夫のマンションを辞してから、江戸川区の章夫の実家を訪ねた。 大きな農家の、母親・克枝が敵意を剥き出しにして眦を上げた。 「あの女は、男を手玉に取ってるよ、章夫は惚れているから言いなりさ、自分の思い通りにしていくんだよ」 「章夫さんが慰謝料100万円を請求している事についてどう思いますか?」 「章夫はやっと、悪い夢から醒めたし、結構な金額を貢いだンだから当たり前だろ」 ・・・離れた畑で作業中の父親・章光にも話を聞いた。 「夏ちゃんにだって言い分はあるんだろう、章夫は慰謝料も勝手にやっておった、知らんかった」 「夏っちゃんは優しい子だ、章夫が頼りないと気付いたンじゃろ」と、妻と反対に夏子のカタを持った。 ・・・夏子に紹介された章夫との共通の友人、中川栄子は、週三日、会社が終ってからこの喫茶店でバイトしていた。 「ここのマスターが章夫さんと同級生で、私が常連だった章夫さんを紹介したの」 「夏っちゃんはモテていたから、彼と婚約した、と聞いて吃驚した、もっと条件のイイ人、いっぱいいたもの」 「章夫さんのいいところも悪いところも優しいところ、と言ってた。 農家に嫁いでも野良仕事は絶対しない、とギャハハと笑っていたわ、章夫さんはその条件を呑んだそうヨ」 夏子は気持ちが冷めてしまったから別れ話を持ち出したが、章夫は納得しなかった。 夏子が一緒に住んでいた買ったばかりの章夫のマンションを出ると、引っ越し先のアパートへ押しかけてくるようになった。 そして、婚約不履行で訴えると言い出し、慰謝料を請求されても払えないので、丸く収めて欲しい、という夏子からの依頼だった。 マスターにも話を聞いた。 章夫が愛想をつかされてもしょうがない、という情報が欲しかったが、ギャンブル、酒乱、女の影等々、一切なく、むしろ、章夫が夏子を大事に思っていたエピソードだけだった。

 

翌朝、出勤すると、8つ年上の事務員の藤田みゆきさんが掃除の真っ最中だった。 荻原先生が最近、近くの喫茶店でモーニングを摂っているようだ、別居されたような感じがする、内緒ですよと囁いてくれた。 10時10分前に荻原が現れた。 昨日の様子を訊かれたので、夏子に有利な話は父親の章光だけ、と報告した。 荻原は、「関係する人には、何回も会って心を開かせなさい、争っている以外で、腹が立ったのはどんな時か、おやッと思ったのはどんな時か、この二つの質問は思いもしなかった話を訊けることがある」とアドバイスを貰った。 その日の夕刻、企業法務の勉強会に出席した。 体格のイイ男が話し掛けてきた。 坂口博之と名乗り、この勉強会に始めての女性だね、らしい。 

 

翌日、不意を襲って章夫のマンションを訪ねたが不在だった。 不動産屋の看板があったので、訪ねてみた。 40代の横尾と名乗った男は、「婚約者の夏子さんとお二人を部屋にご案内しました、土地の売却もウチです」 「土地の売却?」 「私だって、すっかり騙されました、最初はお嬢さんが一人で来られて、次は婚約者と二人で来ました、土地がたくさんあるンだから、隅っこを売って貰ってマンションを買おうヨ、と夏子さんが詰め寄ってましたよネ」 「1月24日に土地の権利書を持って来て、ここを売ってマンションを買いたい、との事だったので、こちらは一生懸命売り先を探しました、2月27日、土地も売れてマンションの支払いも終わりました、翌日、土地を買われた方が、測量屋を連れて見に行ったら、「ウチの土地に勝手なことをするな!」と怒鳴り込んできた方がお父さんの章光さんで、書類を見せたら腰を抜かさんばかりに驚いたそうです、何を隠そう、章夫さんが権利書を改ざんしたンです、お父さんの署名も捏造でした、書類は正規のモノでしたし、ウチに非はありません」 「2月24日に夏子さんから訊かれました、結婚前でも私に名義変更が出来るのか? そのすぐアトでしたね、土地の権利書がバレたのが。 名義変更のアトでしたら今頃、彼女のモノになっていましたね」 ・・・腹の立った事は無かったが、おやッと思ったことは、大福をお勧めしたら、夏子さんは半分ちぎって章夫さんに渡し、一個半を平らげた章夫さんの口の粉を拭いて上げて、随分思いやりがあるな、と思いました。 ・・・駅へ向かう途中、小沢写真館のショーケースに夏子と章夫の写真が飾られていた。 館主は、途中で言い合いになって女性が泣き出したンです、痴話喧嘩そのままで、終わってから二人で手を繋いで帰りました。 腹が立ったことは、「女性が一人でやってきて、自分一人だけ切り離した写真が欲しい、と言い出したンですが、切り取れば不自然になるからご自分だけの写真を取り直した方がイイですよ、と言ったら、真っ赤になって怒り出しました。 20分経って落ち着いたら、このツーピースがイイんだ、今、染みが付いてしまっていると引き下がらないので、じゃ、5万円・前金でやりましょう、と答えたら、今度も真っ赤になって、高い! まけて!と叫び出しましたが、こちらは譲る気は一切無し、で諦めて帰りました」 おやッと思った事は、「この写真は外しておきます、と言ったら、外に出て写真を眺め、この写真は良く撮れているから此の儘にして下さい、だけど、実物の足の方が何十倍も綺麗でしょ、と自慢し始めて・・・ なんか、突き抜けてるって感じました」 

 

次は居酒屋に京子ちゃんを訪ねた。 名刺を出して夏子の名前を出した途端、「夏っちゃん、捕まったのかい?」と言う。 「結婚詐欺じゃ滅多に捕まらない、と言ってたのに、弁護士さんが来たから、しくじったかって思ってさ」 「夏ちゃんの口癖は、私はこのまま終わるような女じゃない、と必ず言ってるのさ」 「西岡章夫さんの事は聞いてたよ、結婚なんかしなくてもマンションを手に入れる方法があるンだってさ」 「夏ちゃんはさ、天才なんだよ、男に夢を見させる天才、生来の詐欺師さ」 「男に、宝くじ100万円当たったらどうする、って聞いて、海外旅行、と答えたら、話をその先にどんどん進ませてさ、夢を膨らませてさ、二時間も楽しい時間を過ごすのさ、そして、来月の家賃が払えない、と呟くと、男は黙って手持ちの金を出すのさ」 ・・・夏子が結婚詐欺? その被害者が章夫? まさか・・・。 京子ちゃんはさらに言う。 「ウチの店の客からプロ野球・日本シリーズの掛け金を集めてさ、阪急が勝ったけど、夏子と連絡が付かない、と賭けに勝った客が騒ぎ出した、商店街に網を張って、やっと掴まえた夏子が金は無いというから、男に電話をさせて、熊田嘉昭と言う男が金を持って駆け付けてきた、それ位、男を引き付けていた」 「普通はもう二度と店には顔を出せないと思うけれど、一週間後に、ママー、元気~!と店に来たのよ、あの女は凄いよ。 呆れた厚顔さだよ」

 

夏子に会って結婚詐欺の疑いを質した。 夏子は何一つ認めなかった。 「章夫と結婚する気もなく、マンションの件も否定した。 しかし、事務所のみゆきさんは、「本業が結婚詐欺って感じですね、章夫さんのは失敗したケースだと思う」と、容赦ない。 ・・・章夫は無人販売所に野菜を並べていた。 「夏子さんとの楽しかった思い出話を聞かせて下さい」 「夏っちゃんに小旅行に連れて行って貰たった、今から熱海で一泊、と突然決めて行き当たりばったりの・・・ 俺はここから逃げ出しかった、長男からも逃げ出しかった、という事に気が付いた」 「俺の嫁に納まってくれ、なんて無理な頼みだったンだろうか、オヤジにも言われたよ、未練がましい事するな、もう諦めろと、けどそう簡単にいかないサ」 ・・・その後、章夫は慰謝料の請求を断念した。 それは原告が夏子への思いを断ち切る決断でもあった。 その時の徹子の実費請求は5年経っても支払われていない。 今回、5年振りに、結婚して名古屋にいる夏子から依頼が来た。 5年前の未払金と今回の相談料の振り込みを確認してからでないと、話さえ聞かない、と言ってやたら、即、振り込まれて、事務員のみゆきさんが喜びの声を上げた。 荻原先生は、「今度はどんな話かなァ」と面白そうだった。

 

結婚した相手は熊田、日本シリーズの時に金を持って馳せ参じた男だった。 幸一と名付けた子を胸に抱いて、行き付けの美容院から謂れのない借金を返せと言われて往生している、旦那は、植物学者で全国を調査していて不在勝ち、守ってくれる人がいない、と言う。 じゃ、警察に相談したらどうかと提案したら、即座に、それは嫌だと言った。 夏子の事だ、警察に相談できない別の理由があるのだろう。 ・・・岩井卓の美容室は暇だった。 スタッフの若い女もソファで雑誌を広げていた。 ツケを返済しない、電話にも出ないから夏子の自宅に押しかけて呼び鈴を押し続け、出てこない夏子に腹を立てた岩井は玄関ドアがへっこむほど何回も蹴り続けたらしい。 夏子は、その目撃者がいると言っていた。 煎餅店の店主は、「商売はそれほどでもないのに、外車を2台も3台も持ってる、てどんな副業か?って噂がある」 今度は美容院の奥さん、「しょっちゅう臨時休業の札を出しているし、ウチより客は少ないし、よっぽどお金持ちのスポンサーがいるンでしょ」 「洗車で持ち込んだ外車に傷が付いた、とイチャモンを付けた話があった」 夏子の家の近くに公園があった。 同じ様な年頃の子を持つ、夏子を知っているという女に訊いた。 「夏子さんの御主人を御存じですか」 「もの静かな人で、いつもゆったりしていますよネ、お花見の時に隣のグループが喧嘩が始まった時に、夏子さんがすっと中に入って、モノの数分で収めてしまった、その時も黙って見ていただけでしたネ」 昔から、これで終わるような女じゃない、と宣言していた夏子は意外なほど平凡な幸せを得ていた。 ただ、最近、車を処分したご主人に対して往生しているって愚痴を言ってた、夏子が3回も事故を起こしたので、もう、運転するなとご主人が厳命した、事故は相手の方がむち打ちとかなったらしいが、保険が出るンで大丈夫、と夏子は言ってたそうだ。 相手は3回とも美容師だった、とも。 もしかして、岩井と共謀の保険金詐欺ではなかろうか? 3回とも保険会社が違っているし。 それが何かの原因で仲間割れ?

(ここまで、全470ページの内、124ページまで、男を手玉に取る悪女振りが延々と続く) 

    

 

 

同期のMから連絡が来て、K社長の所で待ち合わせてタイヤ交換、無料、更に昼飯・スープカレーまでご馳走になった。 有難し。 昨年11月からきっちり5か月間、走行距離はたった469㎞だった。 前回が2,100㎞だたったので、年間2,600㎞足らずである。 今年からゴルフも辞めるので、これからは年間1,000㎞前後だろう。 タイヤも履き潰し、車も乗り潰しで続けて、果たして、何処まで持つか!

(ここまで5,200字越え)

 

                                    令和2年4月10日