令和2年(2020年)4月2日 第314回
Oさんから文庫本2冊を借用。 東野圭吾「夜明けの街で」(単行本は2007年)、中山七里「恩讐の鎮魂曲(レクイエム)」(単行本は2016年)。 文庫本3冊を購入、薬丸岳「刑事の怒り」(単行本は2018年)、小路幸也「スローバラード」(単・2016年)、朝倉かすみ「ぼくとおれ」(単・2014年)。 U内科から単行本・小野寺史宣「ひと」と、文庫本3冊は、萩原浩「神様からひと言」(単・2002年)、桂望実「嫌な女」(2013年)、今野敏「マル暴甘糟」(単・2014年)、計4冊を借用。 さ~、貯まって来たぞ!
鏑木蓮「炎罪」(文庫本、単行本は2016年)
京都府警下京署の片岡真子は、非番で研修中に居眠りを咎められ廊下に追い出された。 「捜査に於ける犯罪精神医学の活用」 見出しだけで熟睡したのだろう。 講師は精神科医の新盛英信、「ここはお昼寝するとこじゃない、許しがたい、講義など無用です、廊下に出なさい」と容赦がなかった。 そこへ上司の中野主任から携帯で呼び出された。 連続放火事件でとうとう死者が出たらしい。 今日の未明2時半頃に火柱が上がった家は、下京区の山之内一蔵・67才と妻和代・59才の二人暮らしで、室内に灯油が撒かれていた、黒焦げの焼死体は男性らしいが、二人とも連絡が取れていない。 着衣の燃え方が激しくて直接灯油をかけられていた疑いがあり、最初から殺人の意識を強く感じている。 捜査会議で立ち上がったのは、研修で一緒だった府警一課の伊澤係長だった。 火災特殊班の指揮を執っているので捜査本部に加わった、との自己紹介だった。 歯形から焼死体は、精神科医・山之内一蔵さんで、奥さんは何処にもいない、息子の一史・30才(大学病院の脳外科医)は東京からこちらに向かっている。
NPO「陽だまりの会」(代表・榊原康子)は、経済的な事情で学校を辞めざるを得なかった子供たちに勉強を教えていた。 西城芽衣・16才も、元教師の池永寿一の補助を担っている日向雄太の教え子だった。 雄太も父親が事業失敗した借金で高一から働いていた。 日中は父親と工事現場、夜は居酒屋でアルバイトして借金返済に汗を流した。 その居酒屋で榊原康子に声を掛けられ、「陽だまりの会」に入会し、猛勉強の末、大検の資格を得て受験に成功し、洛北大学の法学部に籍を置いていた。 不合格が続き、今年5度目の司法試験に挑むべく、「陽だまりの会」で働いているのだった。 今日休んだ芽衣の事情を聞いた。 母親が離婚前に始めた夜の勤めでアルコール依存症に罹り、今朝、救急車を呼んだ、らしい。
その後も芽衣の休みが続いたので、雄太が母親の麻衣子が入院している病院を訪ねると、京都府警の伊澤刑事と下京署の片岡刑事が芽衣に話し掛けていた。 離婚した父親の長門繁さんが、妻だった麻衣子に面会を望んでいるが入院中なので、娘の芽衣を同行したいと要望中だった。 雄太も同行した下京署の応接室に長門さんがいた。 手には山之内クリニックの診察券が握られていた。 参考人取り調べの前に、放火もしてない、殺人もしてない、と元妻と娘に断言して置きたい、と頑なに言い張っていた。 昨年から頻発していた放火現場の全てが、長門さんの徒歩圏内にあること、防犯ビデオにも似た男が映っていること、野次馬の中にも目撃されていて、かつ、山之内医師の患者だったことが重要視されていた。 治療のトラブルがあって放火殺人を疑われているのだった。 長門さんは、三年前に勤めていた食品会社の管理責任のポストにあったが、カップ麺からイナゴが出てきて、それがネットで広まって辞めさせられた。 しかし、本人は絶対にあり得ない、と悔しがっていた事実があった。 仕事を失った父と、夜、働きに出た母がアルコール依存症に陥って、離婚まで発展した悲惨な家庭だった。
片岡刑事は三日後の火災現場に臨場していた。 下京消防署の亀谷さんは、ハロゲンヒーターのような残骸があり、時限発火の可能性があるという。 近所の杉島と名乗る女性が、「実は我が家の防犯ビデオに闇夜のカラスみたいな気色悪い姿が映っている」と申し出てくれた。 その時、携帯が鳴って伊澤からの報告があった。 解剖の結果、大量の睡眠薬と器官・肺に煤煙の吸引アリ、よって、睡眠中の放火死らしい。 但し、自死もあり得る。 しかし、精神医として自殺は止めなさい、と患者に説いている先生だったというから、どうなのか? ただ、妻は大学病院の脳神経外科に受診の件で25回も電話しており、それを言い出さなかった息子の一史に、片岡刑事は不信感を持った。 その母親は依然として消息が分からない。 火事の前の日の午後6時、町内会の方が500円募金をお願いしたら、ニコニコ顔で瓶の蓋をくれた、との事。 完全に常軌を逸している。 そこまで酷い精神状態だったのでは?との質問に、一史はただ驚いていた。 最近の一蔵さんは、病んでいる妻の事で相当参っていた、思い詰めていて心配になるほどだった、と近所の人が言ってるほどだった。 夫婦間の感情の交差はどれ程だったのか?
雄太は竹本沙梨(大学3年生、教師をめざしている、滋賀の両親も教師)と付き合って一か月半になった。 彼女の住む伏見のマンションで今日も手料理に与っていた。 しかし、沙梨は西城芽衣に入れ込み過ぎている雄太に不満を漏らし、不機嫌になった沙梨は、「今日はもう帰って!」と追い出したのだった。 事務所に戻ると、その芽衣から電話が入り、「おとうさんが自殺未遂・・・」と言う。 病院に駆けつけて、片岡刑事に問うと、「送検されて勾留が認められ、留置所で衣服を捻じってロープ状にして格子に・・・・」との事だった。 警察の完全な手落ちである。 意識不明のままの状態が続いている。 下京署は大騒ぎになった。 臨時招集したのは府警の伊澤係長と精神科医の新盛だった。 新盛はボロクソに署員を詰った。 「最も警戒しなきゃならないタイミングと場所だった」と鼻息荒く攻め立てた。 片岡も中野主任も、留置係の若い署員と頭を下げっ放しだった。 「娘を長門さんに会わせた事が自殺の引き金になったかも知れない」と、新盛医師は片岡真子刑事を直も詰る。
午後8時、片岡刑事は芽衣のアパートを訪ねた。 マスコミが張っていた。 「今回の失態を認めてはどうですか」と声が飛んでくる。 5~6人を擦り抜けて、「芽衣さん、下京署の片岡です、マスコミがいます、中に入れて下さい」 芽衣は言う、「放火の原因はネットに流れたカップ麺のイナゴだろう、首になって母親がアルコール依存症になって、自殺未遂は警察の責任だ、訴えろ」と書き込まれて、ネットの誰もが敵に見えます。 お母さんも入院したままだし、雄太さんからは児童相談所に相談して、勉強に専念してはどうか、とも言われているらしい。 「犯人はお医者さんを殺して、家を燃やして、おとうさんまでこんな目に遭わせた、憎い!絶対、捕まえて下さい」
山之内クリニックの受診者は延べ233名だった。 それを28名迄絞り込んでアリバイを確認している最中に、今度は芽衣ちゃんの自殺騒動が持ち上がった。 雄太から片岡刑事に、「西城芽衣と連絡がつきません」と電話が入り、急遽、芽衣の家に急いだ。 家の前にいた日向雄太とメンテナンス会社に事情を話し、届けてもらった合鍵で中に入ると、浴槽に手首を垂らしたお湯が真っ赤だった。 片岡刑事は、「寂しかったね、痛かったね、でも大丈夫やからね」と芽衣の耳元に囁き掛けた。 ・・・病院で目を覚ますと、「ごめんなさい、何もかも嫌になって・・・」と涙を零して謝罪した。 毎日、両親の病院を往復しているので、「病院も嫌」と言う。 片岡真子の家は芸者の置屋である。 「私の家にこない?」と誘い、芽衣は有難くお世話になる事になった。 アトかたずけの為に芽衣のアパートに戻ると、テレビがDVD再生画面になっており、スイッチを入れると、長門繁をカウンセリング中の新盛医師が映し出された。 全面可視化を叫ばれる世情から警察が貸し、てくれたモノであろう。 新盛に、明るい事を思い出して話してください、と言われて、家族3人でハワイに行った楽しかった日々を語った顔には恍惚感が溢れていた。 その数日後に自殺を図ったと考えると彼の嬉々とした表情が却って辛かった。
片岡と伊澤は、山之内一蔵の葬儀に出席していた広島の関口豊治さんを訪ねていた。 山之内からもらった手紙に気なっている文面があると言う。 今年は喪中だったので賀状を出さずにいた。 そこに山之内から奇妙な手紙が来た。 「クリスマスイブに、仙台の勤務医、小津結花君がマンション・7階から転落死した、事故か自殺か、判らない。 39才の独身の美貌の持ち主だったが、優秀な精神科医で、決して自殺するような愛弟子ではなく、我が愛娘のように思っていた。 豊治さん、頼みがある、仙台で調査出来る人を教えて欲しい、もし、自殺だったら僕の責任だ、精神科医として教え子の一人も説き伏せる事が出来なかった事になる、真実を知りたい!」 関口は保険会社を退職し、調査員嘱託として残っていた。 仙台の仲間に問い掛けたが誰も応じてくれず、自分がやるしかないか、と思っていた矢先の放火死だった、と言う。 片岡真子は、府警の捜査一課の高藤課長の取り計らいで、仙台署を訪ねていた。 小津結花事件を担当している前久保刑事に詳細な説明を受けていた。 本人の周囲にはトラブルが無かった事、酒に弱かった本人の血中アルコール、0.15%は相当の酩酊状態と、ベランダの手すりが1m30㎝の高さ、傍にあったガーデニングテーブル等々の状況から、自殺が濃厚、となっていた。 彼女の実家は仙台市の隣、栗原市で農業を営んでいるらしい。 前久保刑事の了承を得て、訪問することにした。 実兄の小津琢磨は、「中学時代、スキーのジャンプで足を折ってから、高所恐怖症になって未だにベランダは苦手と言ってたし、電話ではあくる日に人と会う約束があるとも言ってたし、深酒なんか考えられない」 「自殺を撲滅したい一心から研究を重ねていたから、そんな妹が自殺するわけがない」 ・・・翌日10時、兄・琢磨立ち合いで結花のマンションを検分した。 仙台北署から借用した死体写真はピンクのワンピース、赤いガーネットのピアス、下着も真っ赤、と結構、派手ないで立ちだったが、クローゼットの中の衣服は地味なモノが多く、兄も、「いつもズボン姿が多く、アクセサリーも法事の時の真珠位しか見た事が無い」と言う。 「断言できませんが男性と会う約束があったと思われます」 「・・・男、あいつにそんな相手がいたのか」とくしゃくしゃの顔になって嗚咽を洩らした。 「私はその男性を探してみます」 「あくる日の客ではなく、当日の客の為のお洒落だと思います」
財布に残っていたレシートから、近くの輸入食品店で、20時09分、3,200円の赤ワイン、4,000円のペアグラス、2,000円のカマンベールチーズを買っていた。 真子は店に出向いて訊いた。 小津結花は、普段からドイツのソーセージとライ麦のパンの常連客だった。 確かに彼女の冷蔵庫にも残っていた。 ワイン党の客がある、私はそんなに飲めない、だからワイングラスも買う、彼女にしては初めての事だった、店主は服装まで覚えていないが、いつもの地味な格好だったと思う。 ・・・だから、彼女は帰宅後に着替えた、訪問客の為に。 イブにチーズとワインを楽しみ、結花は転落して、男は消えた。 ・・・片岡刑事はもう一日延長して、小津医師の病院仲間を訪れた。 心療内科の高倉医師、脳神経外科の三木医師、どちらも品のイイ女性だった。 小津医師はワインにアレルギーがあり、酩酊するほど飲んだとは絶対信じられない、薬を入れられた? 決して自殺をする人ではない、と二人は断言した。
(ここまで、全439ページの内、245ページまで、妻の和代の死体が驚きの場所から発見される、そして驚愕の意外過ぎる犯人・・・こんな事って許されるのか、それは罪深い犯人だった)
我がマンションの定時総会、水道管の赤錆防止装置を二年続けて否決された責任を取って、理事5人が全員辞任した。 多数の委任状を集めていた二人を中心に新しい理事も選出された。 否決されたら総辞任と先に決めていた事がどうやって漏れたのか、それを予知していた如くの新しい理事の決定だった。 どうして反対するのか判らない。 委任状を集め廻っていた二人も、狂ちがい! としか思えない。 まあ、ボランティアだった理事長職から解放された、と喜んでおこう。 (ここまで約5,200字)
令和2年4月2日