令和2年(2020年)3月18日 第312回

文庫本3冊を購入。 映画化された、志駕晃(しがあきら)「スマホを落としただけなのに」(2017年文庫書き下ろし)、「スマホを落としただけなのに~囚われの殺人鬼」(2018年書下ろし)、「スマホを落としただけなのに~戦慄するメガロポリス」(2020年書き下ろし)、初めての作者である。楽しみである。

 

落語小噺~令和とかけて何と解く、慌てふためくと解く、その心は、もう、平静(平成)じゃない。 

高校野球の球数制限、150年昔の新選組からあった、ヒジ・カタ(土方)は大事だと。 

オリンピック選手の正月は、金が(謹賀)新年。

 

アメリカゴルフ、松山英樹が初日、天晴れなコースレコードで首位に立ったのに、コロナウイルスで二日目から急に中止、何たることだ。 賞金総額の50%を全員に等分支給、流石のPGAのスポンサーである。 一人550万円とは、予選落ち必至だった選手には寧ろ朗報だったかも知れぬ。 4月のマスターズも早々に延期が発表された。 ・・・国内女子ゴルフは、初戦から4大会が連続中止。 選手は練習に精を出しているが、気の毒なのはプロキャデイ、試合が無ければ無職と同じ、4大会で相当稼げたキャデイもいた筈なのに・・・。 選抜高校野球も学校の卒業式も中止。 学生にとっては残酷なモンだ。 

 

 

中山七里「ヒポクラテスの憂鬱」(文庫本、2016年四六版で刊行)

・・・ヒポクラテス~古代ギリシアの医者、医学の父と呼ばれる

1.堕ちる

デビュー三周年、16才・佐倉亜由美はオープニング曲を歌い終えた。 32,000人の観客は総立ちで「あ~ゆっ」と絶叫である。 亜由美は、「じゃ、二曲目行くよ~」と、何時ものようにステージの前方に走り出した。 が、一歩踏み出した途端に大きくよろけて前方に倒れ込み、そのまま、ステージを転がり続けて15m下に落ちていき、亜由美のヘッドセットマイクが、ぐしゃッという肉の潰れた音を拾った。 会場から悲鳴が上がり、ステージ真下に亜由美の体があったが、手足はあり得ない方向に曲がっており、即死だった。

 

この4月1日、浦和医大・法医学教室の栂野(つがの)真琴は、光崎教授とキャシー准教授とともに重責を担う助教となった。 その清新な気持ちの朝、埼玉県警捜査一課の古手川刑事が教室に入って来た。 彼が来る度に余分な解剖が増えて予算が減っていく。 その気持ちが、つい、顔に出てしまう。 昨夜、県警のホームページに書き込みがあった、「今後、県下で発生する事故死・自然死に於いて、そこに企みが潜んでいないか、見極めるが良い、私の名前はコレクター、修正者である」 「昨夜の佐倉亜由美の転落死、本当に事故だったのだろうか、コレクターは修正を望む」  ・・・浦和西署に安置されていた遺体の傍に県警の鷲見検死官が臨場していた。 真琴助教とキャシー准教授が解剖の為に遺体引き取りに行くと、亜由美のマネージャー・古久根とステージスタッフの小山田が葬儀の準備で来ていたが、再捜査の必要性があって遺体はお返しできない、と伝えると、事故じゃないんですか?と二人は目を丸くしていた。

 

浦和医大に戻ると、光崎藤次郎教授が「遅い!」と猛禽類のような目付きで待ち構えていた。 執刀が始まった。 開頭すると損傷度合いは甚大、転落死した事実は否定できない、更に開腹すると、子宮に胎児あり、妊娠8週目と思われる。 直接の死因は頭蓋骨骨折による脳挫傷であるが、妊娠の事実に驚愕した真琴であった。 教授は胎児組織を採取してDNA鑑定の手配をキャシー准教授に指示していた。 ・・・古手川刑事はプロダクションで古久根マネージャーを尋問していた。 妊娠8週目、DNA鑑定により、アンタのお子さんの確率99.9%、間違いないな!と一喝。 マネージャーは必死に、「8週目とは知らなかった、知っていたらコンサートは中止させていたし、マスコミ対策もした、彼女の事は真剣に考えていたし、堕胎させるなんて絶対ない」と言い張るが、これは殺人の立派な動機になる。 人気絶頂のアイドルが妊娠、しかも16才、アイドルとしては致命的なスキャンダル、コマーシャル協賛企業やテレビ局から莫大な違約金が発生する、また、所属プロダクションから責任を問われ、違約金の請求もされる、だから殺した。 どうやって転落死させたか? フアンの偶像を己の性欲の対象にし、更に、マネージャーとして売り物に手を付けた、これを知ったら熱狂的なフアンの動機も発生する。 

 

古手川刑事と真琴助教は会場だった「さいたまスーパーアリーナー」調整室のモニターで、亜由美の転落の瞬間を凝視していた。 迫(セリ)と呼ばれる昇降装置が、亜由美の走り出した直前に5㎝程下がり、亜由美の足は空を踏んだまま、つんのめって落下した。 セリは事故が起こった直後に元に戻っていた。 「それを操作出来たのはお前だ!」と、ステージスタッフの小山田を糾弾した。 「ステージで転んで流産すればイイ、と思って・・・まさか、死んじゃうなんて」 「彼女の使用したトイレの直後のゴミ箱を漁ると、市販の妊娠検査薬の陽性反応を見た。 その相手だと確信したマネージャーを赦せなくなって・・・、あゆはみんなのアイドルなんです」 歪んだフアン心理が悍ましい。 「お前は指先一本使っただけだが、それでも殺人だ、夢の中でうなされろ!」 小山田は顔を覆って獣のような声で嗚咽を洩らした。 犯した罪の大きさに怯えていた。 「コレクターと書き込んだのはお前か?」 知らない、と答えたのは古久根マネージャーも同じだった。 じゃ、コレクターとは何者か?

 

2.熱中(のぼ)せる

4月半ば、埼玉県内に限らず、各地で熱中症患者が搬送されている。 連日30℃超えの日々が続いているから無理もない。 埼玉県警のホームページに、また、コレクターからの書き込みがあった。 「熱中症、すべての犯人が太陽なのだろうか? どれか一つは太陽に被せられた冤罪ではないのか? 物言わぬ犠牲者に救いの手を。 コレクターは修正を望む」 該当しそうなのは東京都内の75才男がジョギング中の死亡、さいたま市の三才女児が自宅近くで意識を失って、搬送中に死亡。 関西・中部を除くと、この二件だろうか? ・・・27才・瓜生悟志がシングルマザーの比嘉久瑠実と同居、その連れ子が美礼ちゃんだった。  ベランダで遊んでいた筈の美礼ちゃんがグッタリしていたので、救急車を呼んだ。 午後三時十二分、その寸前まで悟志も久瑠実も部屋にいた、と言う。 しかし、アパートから車で10分のパチンコ屋に、この二人が午後二時四十分までいた監視カメラがある、と突っ込むと、悟志は途端に狼狽え始めた。 パチンコ屋の駐車場で二人が車に乗り込んで10分間も動かない(美礼ちゃんがぐったりしていた事に仰天?)、そのアト、車は急発進、久瑠実から緊急連絡が入ったのが午後三時過ぎ、恐らく自宅に着いてからの電話だろう。 猛暑の中、締め切った車の中に、二時間も閉じ込められていた美礼ちゃんが、熱中症になるのは当たり前、二人でパチンコに耽っていた事を隠滅する為の猿芝居だった。 ・・・しかし、話を聞いた光崎教授が「遺体を解剖する、遺体が真実を語る」と強引に決めた。 果たして解剖された美礼ちゃんの胃の中にあったモノは? ・・・確かな真相がそこにあった。 ただ、コレクターは誰なのか、まだ判らない。

 

3.焼ける

新興宗教「福音の世紀」教祖・黒野イエス(本名・光秀)が自分の教会に放火され、焼死した。 現場から灯油を撒いた痕跡が出たのである。 焼死体は本人と思われるが検死に立ち会った鷲見検死官は、「殆ど炭化した酷い状態、光崎教授に解剖をお願いに来た」、が生憎出張中だった。 その後、古手川刑事も同じ要請で顔を出した。 この宗教にはキナ臭い話があるらしく、教祖は5年間で500人の信者を得るほどのカリスマ性を持っているが、やはり宗教について回るお布施については、そのあくどさに、「殺してやる!」と息巻いている多数の家族がいるらしい。 また、教団ナンバー2の座を巡って、内部の抗争も頻発しているらしい。 アリバイの無い容疑者は3人、①母親の虎の子・2,000万円を奪われて被害者の会を結成し、激しい抗議活動を行っていた男、②教祖・黒野の信奉者で愛人の関係にあったナンバー2の女、③彼女の元恋人の男が憎しみに燃えてその座から引き下ろそうとしている、と古手川は明かした。 遺体を引き取りに向かうと、信者の団体が「こちらに教祖の聖体を引き渡せ!」と猛抗議の最中だった。 30代半ばの女が髪を振り乱して、「司法解剖で聖体を傷つけることは許しません、師父との魂の結びつきは血の繋がりも濃く、戸籍よりも深遠なものです」 女は事務局長・本条菜穂子、男は広報部長・相馬定、本条の元恋人であった。 キャシー准教と真琴助教が、「司法解剖しなければ犯人を逮捕できない」と警察に代わって話に乗り出すと、「犯人は教祖への殺意を露わにしていた被害者の会の甲山高志です、直ぐ逮捕しなさい」と相馬が詰め寄って来た。 独りよがりの自分達だけの都合を声高に主張するオカルト教団、しかし、古手川刑事は、毅然として、「これ以上は公務執行妨害で逮捕する」と言い切り、蕨警察署から追い出したのであった。 そして、「事務局長の本条は蕨署の幹部の娘」と、古手川刑事が憂鬱そうに白状した。 父親とは絶縁状態にあるらしいが、現場の刑事は確かにやりにくい。 被害者の会のホームページに、「インチキ黒野に鉄槌を! 信者から搾取した財産は数億円、星野に、直接鉄槌を下そう!」と過激な文言が並んでいる。 遺体を搬送しようとすると、信者と名乗る300人程が署を取り囲んでいると言う。 まさに、狂信の顔付だった。 古手川は配達員の服装になって、遺体を入れた大きな袋をカートで運ぶ。 ベタな正攻法が信者を掻き分けて配送車に辿り着く。 しかし、古手川を追ってきた本条菜穂子が、「私が殺しました、逮捕して、その遺体を教団に返しなさい」と迫っていた。 その時、教室から出てきた光崎教授が一喝した。 ここは、医者の聖域だ、大人しく、結果を待っていろ!

 

解剖すると、大腸癌が肝臓や骨盤にも転移、末期症状で手術も無意味、溢死の状態が認められる。 自殺だ。 神に仕えてきた自分が癌で手遅れの状態になっている。 宗教家が絶望するには充分な理由だな、と教授は呟く。 ・・・放火は誰か? その隠したかった真相は? 古手川は見極めたが、今回の事件はコレクターに関係が無かったのだろうか?

(ここまで、全330ページの内、133ページまで)

以降、4.停まる、5.吊るす、6.暴く、と続く。 最終章でコレクターが判明し、その大きな罪もあからさまになる。 驚きの人物であった。  

 

 

 

元会社のOB会・総会は毎年4月中旬に開催されていたが、今回はコロナによって、早々に中止の知らせが届いた。 同じ理由で、どこのホテルの全ての宴会も悉く中止の憂き目に遭っており、その損害たるや、莫大なモノであろう。 この3月は企業の決算時期でもある。 コロナ倒産が続出する報道が待ち構えている恐怖感が現実味を帯びてきた。

(ここまで、約4,600字)

 

                                令和2年3月18日