令和元年(2019年)9月29日 第288回

我がⅠ町の隣村のT中学校の同窓会が定山渓で開催された。 男9人、女9人の参加だった。 ホテルの無料バスに10人が乗っていた。 常連の4~5人が足腰の痛さや、運転の自信の無さ、別用あり等々で顔を見せなかったが、我々は、そんな年齢と体になって来たのだ、と納得する次第。 函館から一人、我がⅠ町から二人だった。 翌日は快晴だったので、急遽、予定を変更して、Ⅰ町帰りの車に同乗してドライブ、Nの奥さんの弟が持っている別荘を見せてもらった。 温泉管理組合が管理する源泉からの温泉があり、高台からの眺望も見事だった。 広いテラスにバーベキューパーティーも出来る、立派な別荘だった。 20人は軽く宿泊できる広さであるが、一階・二階に、それぞれ一か所しかないトイレは、20人には無理かも知れない。 一棟貸25,000円で貸し出しもしているらしいが、5~6人くらいの小旅行なら良いかも知れない。 Ⅰ町からの帰途は、トイレ付きのバスで、昼食の食堂でゆったりビール、道の駅でⅠ水産が新発売したニシンの加工食品を買い込み、缶ビールでゆったり! ご機嫌だった。   

 

中山七里「秋山善吉工務店」(文庫本、単行本は2017年)

刈り上げた白髪、肉の削げた頬、80才・善吉爺さんは、「食い物を好き嫌いするな、ウチの子になったンだから、食べ慣れろ」と、洋食好きの中二の兄・雅彦を突き放す。 小4の弟・太一は、母・景子が余り作らなかった、サバの味噌煮も、豚汁も、とても美味しく箸が進んだので、自分で吃驚していた。 爺ちゃんから、「おい、太一、もっとゆっくり噛んだらどうだ」と窘められ、言われたとおりにひと口ひと口を噛み締めると、美味しさが倍増した。 思わず、旨い!と口に出すと 春江婆ちゃんは上機嫌で顔を綻ばせた。 ・・・二階の部屋で兄弟が寝ようとしていた時、母親が入って来た。 「いつかは三人で住める家庭を作りたい、だから、お母さん働き口を探します」

 

転校生は教室の好奇の目に晒されるものだ、と太一は実感した。 何故、転校して来たの? 何処に住んでいるの? 得意科目は? 太一の名前はジャニーズから? 幾つもの質問が容赦なく飛んできた。 「大工の爺ちゃんの、工務店に住んでいる」 大工! クラスの殆どがサラリーマン家庭らしく、随分、珍しがられた。 隣に座った千琴ちゃんが、「余り目立たない方がイイよ」と忠告してくれたが、さっそく、4人のグループから声を掛けられた。 リーダーは図体の大きな中学生のような増渕彰大、「俺らのグループに入れ」と、頭ごなしだった。 断ると襟首を摑み上げ、「後悔すんなよナ」と、同じ10才と思えない、捨て台詞だった。 千琴に聞いたら、彼らの執念深いイジメに遭ってクラス替えになった子がいたらしい。 ・・・二週間が経って、美弥という子がクラスの女の子に囲まれていた。 棉生地のワンピースが洗濯で縮み、慌てて登校してから寸足らずの不格好に周りから指摘されたらしい。 太一が教えてあげた。 元に戻る木綿の洗濯の仕方、母親の手伝いをして得た知識だったが、4人とも、目を丸くして畏敬の視線に変わった。 翌日、大喜びで美弥が近寄って来て、元に戻った!と、ぶんぶん、太一の腕を振りながら、最大級のお礼を言った。 それを昏い目付きで睨んでいたのが増渕彰大だった。 千琴が言った。 「美弥ちゃんの気を引くと、嫉妬する奴がいる」 正に、彰大がそれだった。 逆恨みとは、もう、アトの祭りだった。 ・・・二日後の昼休み、彰大が近付いてきて、「お前の家、火事になったンだってナ」 「お前の父ちゃん、全身炭化で焼け死んだって、良く、本人と解ったナ」 へらへら笑いながら、言葉の暴力が続いた。 教室は、シン、と静まり返った。 最後の一言が堪えていた太一の安全弁を吹き飛ばした。 「お前の父ちゃんが自分で火を付けたんだろう」 彰大に殴りかかったが、躱されて、逆に足蹴にされたまま、立ち上れなかった。 「これで犯人確定な、お前は放火魔の息子だ」 「俺ら、正義の味方だから、犯罪者の息子を徹底的にやっつける、俺らの奴隷になるなら許すけどな、明日から覚悟しとけよ」

 

心を痛め付けられていた太一を真っ先に気付いたのは雅彦だった。 「どうしたの、お前」 イジメに遭っている事を告白すると、「俺もやられたことがあるけど、徹底的にやり返せ、相手が四人なら、急所を狙え、鼻の頭、弁慶の泣き所、キン玉、あいつらに勝つには、やり返す以外の方法なんか無い!」と過激だった。 「中学生の俺が加勢してやろうか、相手が四人なら、文句はないだろう」 太一は気が進まず、「もうちょっと、頑張ってみる」 「そうか、でも、もう限界だと思ったら無理をするな、絶対、自分が弱ってゆくンだけなンだ」

 

翌日、さっそく、彰大のイジメが待っていた。 「犯罪者の息子を矯正する、僕のお父さんは自分の家に火を付けました、と大声で言え」 反発した太一は、「俺は犯罪者の息子じゃない、父さんだって犯罪者じゃないッ」と怒鳴り返した。 途端に、後ろ髪を引っ張られて倒され、脇腹に蹴りが飛んできて息が詰まった。 「言えったら言え!」と、蹴り続ける。 「お前らみたいな、4人でしか出来ない卑怯者の言う事なんか、誰が聞くか」 「今から躾けてやる、秋山、犬になって俺の靴を舐めろ」と、靴先で太一の口を蹴って来た。 彰大の足先を掴み、思いっきり、捻り上げると、彰大が、無様に情けない声を上げてひっくり返った。 始業のベルが鳴ると、四人は泡食って散会したが、入って来た先生は、「秋山、どうしたァ、授業が始まったぞ」と、何が起こったのか知ってるくせに見ぬ振りだった。 教室の皆も見ぬ振り、知らぬ振り、で自分の味方は誰もいない、と確信した。

 

彰大に刃向かう為に武器を持つ、そう決めて工務店の工具箱を開けた。 刃先の鋭い鑿があった。 これだと彰大達を威嚇出来る、と思ったら、背後の爺ちゃんから声が掛かった。 「何をしている、その顔はどうした? 転んだ位で出来た傷じゃないな」 途端に、口惜しさが込み上げてきて、堪えていた涙と嗚咽が洩れだした。 暫く経って、ようやく涙も嗚咽も治まって、ボツボツ、爺ちゃんに彰大達の仕打ちを打ち明けた。 「その彰大ってのは弱っちィだな、弱い奴しか狙わない、強い奴は弱い人間を叩かないモンさ」 「雅彦はやり返せ、ってか。 あいつらしい」 「彰大は弱い奴だ、それを叩くのはもっと弱い奴だ、お前は鑿を持ってそんな奴らの仲間入りか、ホントに強くなりたくないのか」 「それには、弱い奴を護ってやれ、そいつと友達になれる、仕返しをする力より、護る力のほうがずっと、強い」

 

翌日も彰大達は待ち構えていた。 「首輪を買ってきた、犬になれ」 しかし、善吉の言葉を聞かされた今、何にも怖くなかった。 「やるならやってみろ、お前らなんぞ恐くはない、弱い人間が寄って集って襲って来るのは、お前らも恐いからだろう、強い人間はそんなことをしないのさ」 呆然とした彰大が吠えた、しかし、何にも恐くなかった。 弱い犬がキャンキャン吠えているのと同じだ。  「彰大は強い振りをしているだけ、時々、心細くなるンだろう」と、哀れにさえ思えてきた。 始業ベルがなると、「放課後、覚えていろ!」 捨て台詞が滑稽だった。 教室の空気が、恐怖と期待と好奇心に満ち満ちていた。 この空気こそがイジメの正体だった。 誰かが理不尽に虐待される、その状況を消極的に楽しみ、イジメが表面化したら、犯人を糾弾すべく、虎視眈々と窺っている、つまり、一粒で二度美味しい、という理屈だろう。

 

放課後、待ち伏せされる警戒をしていた。 徹底的に逆らって、もし、首輪をさせられそうになったら、彰大の指を噛み切ってやる、決意だった。 しかし、帰宅途中の小さな林から彰大の取り巻き三人が必死の形相で逃げ出してきた。 林の中から、「助けてェ」と、彰大の声が洩れ聞こえてきた。 足を踏み入れると、6年生らしき4人に囲まれていた彰大があの首輪を嵌められてリードで繋がれていた。 「ほら、ワンって鳴け!」と、蹴られていた。 自分と同じ目に逢っている、と快哉を挙げたかったが、爺ちゃんの言葉が蘇った。 「護ってやればいい」  太一は肚を決めた。 「クラスメートなんだ、放してやってよ」 リーダーらしき体格のイイのが、「こいつはイジメが得意らしいな、お前、やられていないのか」 それでも懇願すると、「お前、生意気だな」とイキナリ平手が飛んできた。 倒れた太一を立ち上らせて、もう一度、平手が顔を叩いた。 今度は拳骨で右頬に、更に左頬にも一発、「謝れ、先輩に謝れ」 「嫌だ、何にも悪いことはしていない」 拳固が滅茶苦茶に飛んできたが、酷い痛みの割には、不思議と屈辱感がなかった。 爽快でさえある。 そのうち、太一の鼻血が出てきたらしく、「お、お前が悪いンだからな」と、怯えた声になって、一目散に4人で駆け出して行った。 「彰大、後ろを向きな、首輪を外してやる」 途端、達成感で胸が溢れた。 震える声で、「助けてくれなんて頼んじゃいないぞ」 「このこと、クラス中に言いふらす積りだろう」 背中から嗚咽が聞こえてきた。 「感謝なんか、しないからな、またイジメてやる」 ・・・太一の顔を見た善吉爺ちゃんは、何も言わずに、軟膏を差し出し、「塗っておけ、効くぞ」 翌日の教室では誰もが驚愕した。 人相が変わっている、タコ殴りだ、と姦しい。 太一は気分爽快だった。 人を傷付けるより、護ったほうが数段気持ち良かった。 自分が強くなった気もする。 彰大の取り巻き三人が、「昨日の続きだ」と息巻いて来たが、彰大が、三人にデコピンをくらわし、「太一をイジメるのは俺だけだ、俺の許しが無い限り、太一をイジメるのは許さん」と、教室中に宣言したのである。 目が合った彰大は眼を逸らした。 「敵を作るより、友達を作る方がよっぽどイイ」 太一は心底思った。 (以上、第1章~太一、奮闘する) 

第2章~雅彦、迷走する (ヤクザ絡みの厄介事に巻き込まれるが、善吉爺ちゃんがケリをつける)

第3章~景子、困惑する (仕事を見つけた母だったが、モンスター・クレーマーの餌食になりそうな時に、爺・婆の活躍がある)

第4章~宮藤、追及する (刑事が、火事の原因捜査で秋山一家を追い詰める、「どんでん返しの中山」の異名通り、本筋のミステリーがここから始まる・・・)

第5章~善吉、立ちはだかる (宮藤が訊き込んだ善吉は、昔気質の職人、法被を着た不言実行、古き良き昭和ひとケタ、(影の自治会長)、とすこぶる善人だった。 火事の時の善吉のアリバイ、太一から聞き出した爺ちゃんの印象、・・・etc、宮藤の執拗な聞き込みだった。 ラストは衝撃的である、乞う、お楽しみ)

 

 

 

女子プロゴルフ第30戦、23才・柏原明日架が初優勝! 何回も優勝を逃していて悲願の涙の優勝だった。 二打差を追った柏原がtoday-4で、逆転優勝。 前日までのtop3の日本人は、全員オーバーパーだった。 これで、22勝8敗。 楽しませてくれる、快調な女子ゴルフである。 ・・・男子プルロゴルフ第13戦、41才・武藤俊憲がtoday-7と伸ばし、二位に5打差をつけての圧勝だった。 4年振りの優勝との事、お見事! 二位・今平、三位・石川と日本人が、ワンツースリーフイニッシュを決めたのもご満悦だった。 これで、11勝2敗。 ゴルフ秋の陣、楽しみになって来た。

 

我がゴルフは41回を終えた。 アト、1~2回かなァ。 10月に入ると一遍に寒くなる。 長袖や、上に羽織って迄、する気にはならない。 秋風が冷たいし・・・。

 

(ここまで、4,800字超え)

 

                                                            令和元年9月29日