#2.
「ヒトとして」の”巨人の星”だぜ
”こんなせっぱつまったときに・・。”と
思いながら、ぼくはこの大会前日のことを
考えていた。
それは、練習を少し早目に切り上げ
オオタとふたりで川の土手を
肉屋で買ったいもコロッケを
くいながらあるいていたとき・・・。
腹が減ると猛獣と化すオオタが、
ひと息つき、ヒトへもどった。
「あんさぁ、りょうすけ・・。」
「あん?」
「”巨人の星”の、飛雄馬、ね。」
「ああ・・。」
「なんで飛雄馬っつうか、わかるか?」
「そりゃあ、星一徹にきいてこいや。」
「なるほど、製造元へお問い合わせっと。
えっと、デ・ン・ワが・・って、オイ!」
「はははっ!上出来!賞品として
この”食いかけコロッケ”をつかわす!」
「かたじけない。」
「んで?」
「(もぐもぐ)へ?」
「飛雄馬。」
「お、おお、それよ。
うちのおじさんがいうにゃあ
あの飛雄馬は”ヒューマン”
つまり”人間”らしく、っつうことで
付けた名前らしい。」
「へえ。ま、たしかに主人公は
野球バカじゃなくて、
人生で裏切られたり、挫折したり
恋に落ちたり・・・。」
「そ!そこが大事なんだ!」
「どこだったかな?」
「恋だろ、恋!」
それは凶暴なくまが、
リルケの詩集について
語りはじめたようなもので・・
腹ん中のいもコロッケが
アッカンベェして笑いころげた。
「コホン・・失敬。
で、だ。その恋がどうした?」
「はじまってしまった!
俺の心の中で!
イン・マイハート、
フォーリン・ラブ、ナウ。
わかるか?りょうすけくん!」
いもコロッケが、
”ギブ・アップ”の旗を掲げて
口から出そうだったので
「わ、か、る」とだけ
やっとこたえた・・。
「よし、わかつた。
まずおれはどうすればいい?」
「わかっちゃないなー。
まず”お相手は?”だろ?」
「そ、そうだな。だれなんだ?」
「・・・美奈子、だ。」
「・・って、うちの・・」
「そうだ。
マネージャーの美奈子だ。
ゆうべ、9時20分に電話で、言った。」
「お前らしい、直球勝負だな。
それで、美奈子は?」
「とりあえず、この大会が終わるまで
待ってほしい、と言われた。」
「まあ、そうだろうな。」
「どうだ、おどろいたか!」
「え?あ、ああ。」
「”恋に予習なし”とは
よくいったもんだ!ははは・・」
誰が言ったか知らないが・・。
・・おどろいていた。
なぜなら、この大会前、
その美奈子に僕は
告白されていたのだ。
この土手の下にある
神社の境内に呼ばれ・・
「キャプテン、ごめんなさい。
この大事な時に・・・。
言わずにおこうと
決めてたんだけど・・・。」
少し涙ぐんだ美奈子の目は
それでも真っ直ぐに
ぼくをみつめた。
そんな彼女に、
ようやく僕が言えたのが・・
「とりあえず、この大会が
終わるまで、まってくれ。」だった。
この一球が
投じられた瞬間、
それぞれの
何かが始まり、
何かが終わる。
ぼくたちには
それらをこわがってる
”時間”は、ない。
オオタ、美奈子、
おれたちの
ど真ん中直球勝負だ!
~つづく~




