地球儀が回る。くるくると。
そうはいっても地球儀はその構造上回るように作られたものであり、誰かが回転力を加えている以上、それは当然の運動であると言える。
しかし僕の目の前を回る地球儀は、その固定台座とともに中へ浮かび、地球儀であることなど関係ないとでも言うように、一つの物体として適当な半径を持った円周を形作っているのだから、誤解を招かぬよう別の言葉で表現すべきであったのかもしれない。
僕は言葉無く地球儀を見つめている。仮に周囲に人がいたとすれば、何も考えずに茫としているように見えたかもしれない。けれどもここでも誤解を招かぬよう言っておきたいのは、この言葉を以って、僕は先程から一言も言葉を発していないとするわけではなく、周囲に人がいないと言いたいのでもなく、ましてや何も考えてないようで何か考えていると声高に主張するものでもない。だが勿論、その意図がなくともその主張たちが間違っているということにはならない。
そうして僕が口を開く。
「だから、さっきから僕の目の前を飛び回らせるのを止めろいっている。目障りだから」
「貴方が不快感を感じているのなら、私の利に適っているのだけれども、止める理由が何処に?」
人間試験に余裕をもって落第しそうな言葉を発したのは、僕と地球儀を挟んで向かいのソファに腰掛ける女。人間の括りから外れるようなやつが女性の括りに入れるのか甚だ謎なので、ここでは便宜的に女とだけ呼ぶ。驚くべきことに彼女には名前があるが、それを知る価値は誰にとっても無いので以降はエスとだけ表す。
「仮に、鬱陶しいからやめなければ殺す、と言えば止める理由になるか?」
「やれるものなら、という返答しか引き出せないわ。だって殺される可能性が低すぎて期待利得が正になるんですもの」
ギイィィン、と。二人の言葉から間を置かず、放たれた銃弾が硬質の物体に弾かれる音を上げる。僕の放った銃弾がエスの得物によって弾かれた音だが、続く、兆弾が部屋の調度品を破壊する音は考えたくないので無視。
後数発撃てばエスは対応できなくなることは分かっているが、これ以上家具を壊したくないので銃をしまう。そもそも彼女がその得物である碧羅を超能力で瞬時に動かしたことにより、意識の外に追いやられた地球儀は落下して残骸を晒しているので、当初の目的は達成したと言ってもいいんじゃないかとも思える。
「兆弾が僕に当たったら迷惑すぎる。どちらかの肉塊に運動エネルギーを吸収されることを強く望む」
戸口で青い少年が、興味のなさそうな視線を寄越しながら、さらに関心の死滅した声音で言葉を放ってくる。言葉のキャッチボールでいえば、90度角度のずれた大暴投なので、キャッチする義務はない。勿論投げ返す義務もないので、礼儀正しく無視。
「おっと、リベルとエスと間違えて人間大の不燃ごみに声をかけてしまったようだ。僕としたことが」
失礼なことをさらりとぬかしながら、ルヴェが戸口から姿を消す。
エスの瞑麗がひらりと舞い、開いたままの扉を通過、その刃を煌めかせながら姿を消した少年を追う。
刃と刃がぶつかる音が上がった後、何かが壁に突き立つ音。
エスの不快そうな顔から察するに、ルヴェが追尾を避ける為に瞑麗を壁に突き刺して固定したのだろう。
壁の修理費はどちらの収入から引くか考えて、どちらからも全額引くとお得だということに気づいた。ついでに兆弾で破損した家具の修理費はエスの収入から差し引く算段を立て、業者に電話を入れる。