韓国へ②
一旦ソウルの対象者勤務の百貨店を出た後、彼女の退勤の時間まで時間をつぶすことになった。カフェに入ってお茶をしながら、工作で海外にまで来ているんだな~という思いが胸に広がった。私は海外が好きだったし、一人で行くことも全く抵抗がないと面接のときに告げたので私しかいないとなったと言われた。実際に海外に来ているワクワク感だけではなく、海を越えても私が行っている工作という行為は通用するのか?という実証実験を行うという意味でもこの工作への期待は私も大きかった。友達同士でお茶を飲んでいる女の子、カップルで会話する男女、一人でPCで何か作業をしている男性、こんな風景は日本のそれと変わらなかったが、今私が日本から「別れさせ屋の工作員」として韓国に来ているなんて思っている人は一人もいないだろう。そんなことを考えてスマホで本など読んでいたらすぐに夜になった。20時頃裏口から出てくると思うという調査結果を基にして、19時30頃某百貨店の裏口付近に戻ると調査員の男性が待機していた。ここで先ほどの対象「ステファニーさん」にもう一度話しかけるのだが、海外案件ということもあり、担当者からはどうやって接触するかは当日私が考えてやってみて欲しいと言われた。恐らく彼女は私を見たら先ほど接客をした客だということはすぐに思い出すだろう。その上で関係を構築するのであれば、彼女に何か助けてもらってお礼をすると言って連絡先を聞き出すのがよいと思った。私は、財布を失くしたという設定にして、彼女に話しかけることにした。ただ、ここでお金を貸してほしいなどと頼むと、断られる可能性があるため、あくまで警察や遺失物をした場合どうしたらいいのかを聞くだけにするということにした。そこでの彼女の対応を見て、後はアドリブで話を詰めていこうと思った。接客中はにこやかで感じがよかったが、それはあくまで客だからである。退勤後のプライベートな状態になって全く同じ対応をしてくれるとは限らない。これは工作員になってから私が学んだことだった。基本的に人というのはそこまで親切ではないという考えの元、工作は組まなければいけない。すると、通用口から女性が出てきた。ステファニーさんだった。彼女が歩いてくる導線上で少し涙を目に浮かべて困った様子でさまよった。そして、彼女と目が合ったので「あの…」と話しかけると、彼女も驚いた様子で私を見た。「先ほどの●●(韓国人女優)さんですね!どうしたんですか?」涙ぐむ私を見て心配そうに声をかけてきた。「実は、お財布を落としてしまったみたいで…今お金がなくてホテルにもどうやって帰ったらいいのか分からなくて警察を探していたんです。ここから一番近い警察はどこにありますか?」「お金を落としてしまったんですか!それは大変なことですが、警察署の人は日本語を話せないかもしれません。ホテルは何というホテルですか?」「××ホテルです」「なら、ここからタクシーですぐの距離ですね。私がタクシー代を差し上げます。そんな遠くないので心配しないでくださいね。大丈夫ですよ!」「え~本当ですか???ちなみに、ホテルに戻れば金庫に残りのお金があるので、お金は返します!」「そんなに高い金額ではないのでいいのですよ。でもお金が全てなくなってしまったのではないなら良かったですね」こう言って彼女は笑顔で私に10,000ウォン札を渡した。私はそれを受け取ると、明日必ずお礼をしたいので連絡先を教えて欲しいと言ってみた。すると彼女は、ラインを交換しましょうと言い、携帯を出した。QRコードを読み取り、ラインを交換した。ミッション成功だ。そして道端でタクシーを止めると、運転手に韓国語で私の宿泊先を伝え、笑顔で手を振りながらタクシーに乗せてくれた。「必ず明日お礼しますね!!ラインします!!」そう扉が閉まる寸前に言い、私はそのまま宿泊施設にタクシーで帰った。ホテルの部屋に着いてすぐに担当者に連絡した。ラインの交換に成功したことを伝えると、「素晴らしい!!」と返事があった。私は、お金を借りている状態なのでこれからラインをして明日返済のために会えないか打診をしてみると報告をした。そして、その後すぐにステファニーさんにラインをした。「先ほどは本当にありがとうございました。ステファニーさんのおかげで今ホテルに着きました。ステファニーさんは明日お仕事ですか?私は明後日まで韓国にいますので、借りた10,000ウォンと、お礼をさせてください。お時間があるときにステファニーさんの居る場所まで行きます」こうラインをした。すると、返事はすぐにきた。「こんばんは!ホテルに着いて良かったです!安心しました!お金のことはいいですよ。私は明日、15時~休憩の時間でデパートの外に出ますから、少し会いましょう。お時間はいかがですか?デパートの一階の○○(韓流アイドル)のポスターの前に来てもらえればすぐに行けますから」「大丈夫です。では、15時にデパートの一階の○○(韓流アイドル)のポスターの前に行きますね。本当にありがとうございます!」こうやり取りをして、担当者にすぐに報告をした。「相変わらず仕事が早くて最高」と返事があった。私は、翌日ステファニーさんと食事でもいければいいなと思いながら、ホテルで眠りについた。