そしてコンサートが始まった。


まずはベートーヴェンの6つのバガテル Op.126

バガテルというのは形式にとらわれない小品という意味なのだが、ベートーヴェンのはソナタや弦楽四重奏曲などのスケッチ的な要素もあり、決して侮れない作品である。因みにかの有名な「エリーゼのために」もバガテルの一つだ。そしてこのOp.126は、交響曲9番合唱の後の晩年に書かれたものであり、彼自身も「自分の書いた最高のバガテル」と語っているように充実したものとなっている。


小品集といいつつも、これは6つを通して演奏することが前提となっており調性にも関連性がある。1番のト長調の甘美なタッチからルイサダの世界に引き込まれた。付点のリズムをちょっと強調し、ニヤリとさせられる。彼の演奏にはそういう「あざとい」ところがあるのだが、CDだとちょっと・・・と思うところがライブだと、ほど良くなる。


2番のト短調は速いパッセージを楽々と弾き、ミスタッチの心配などどこかへ行ってしまった。3番の変ホ長調はまたも情感たっぷりに聞かせる。彼はそんなに沢山の音色を持ったピアニストではないと思うが、そこはやはり超一流のピアニストの一人。聴衆も彼の演奏に引き込まれている。4番のロ短調(私の好きな調 )は前ノリで切迫した演奏。中間部の長調になるところとの対比も明確である。5番のト長調はまた甘美な音色と「ためた」演奏で惹きつける。この曲の持つ明るさの中の暗さが、天井からの一筋のライトアップも相まって神々しささえ感じた。本当に聴きに来て良かったと思った瞬間である。そして終曲の6番変ホ長調、Prestoの速いパッセージから始まり、ゆったりとしたテーマが歌われる。しかし、その穏やかさを打ち消すような3連符が低音部に現れるが(ソナタ32番第2楽章と同じアイデア)それは全体には広がらず、やがて冒頭のPrestoが唐突に繰り返され曲は突然終わる。それは過去との決別のようでもある。弾き切ったルイサダも満足の表情が浮かんでいた。


ちなみに、このバガテルが今日のベストパフォーマンスだと思った。よく練られ、作りこまれていた。ここで、上海出張の奥さん到着。バガテルを聞けなかったのは残念!


シューベルトの即興曲は取りやめになったので、2つめはシューベルトのソナタ「レリーク」だ。レリークとは「遺作」という意味だが、実際には最後の作品ではないらしい。一応4楽章まであるが、完成されているのは1・2楽章のみで、実際に演奏されたのもこの2つ。それでも30分くらいある大曲である。これも馴染みのない曲だったので、かなり予習したつもりだが、正直よくわからなかった(汗)。構成が複雑なのと、全体的にとりとめのない曲(特に1楽章は転調を繰り返し、リズムもシンコペーションを多用するなど難解)なので感想は控えたい。


ルイサダはその難解さに光を当て、独自の解釈を披露しようとしているのだが、いかんせんこっちがついていけず・・・。もう少し聴きこんでみようと思う。


前半終了 休憩へ