「ねぇしょーちゃん。いいでしょ?」

「絶対やだ」

「なんで」

「無理だから」



今日は朝からずっとこの会話で、
現在は帰りのホームルームが終了したところ。

うちのクラスのホームルームが終了した瞬間にドアから駆け込んできてさっきからずっと俺にまとわりついている。


が、わりといつもの光景なので、最近はクラスメイトもあまり気にする風はない。

今日もまた飽きずにやってるなー、くらいのものだろう。



「ねぇお願い。見に来てよ!」

「無理だってば」

「なんで?俺めちゃくちゃ活躍するのに。昨日なんてゴール12回も決めて、そのうち3回はスリーポイントだったんだよ」

「それはすごいけど」

「しょーちゃん来てくれたらもっと頑張れるよ。見たいでしょ?俺が大活躍するとこ」

「そりゃ、気にはなるけど」

「俺やっぱりしょーちゃんと離れたくないもん」

「なんで?」

「好きだからに決まってるでしょ!」

「……」



相葉くんに聞いてもまともな答えは返ってこない。

たしかに運動神経抜群な相葉くんがバスケで大活躍しているのはちょっと見てみたい気もするし、1日くらい勉強しなくても問題ないけど、そういう事ではないのだ。


これ以上は埒が明かないと嘆息する。
もう少しつっこんだ回答をしなければ納得してくれないようだ。



「そう言ったって相葉くん、コートの中でしょ?」

「ふふ、コートは俺のステージだからね」
 


キメ顔でなんか言ってる。


 
「でしょ?そしたら俺1人じゃん」

「見学も結構いるよ」

「余計にやだよ。バスケ部員みたいなキラキラした集団の中に俺1人で入れないもん」

「なんで?」

「なんでって、浮くでしょ、絶対」

「そう???」



相葉くんは不思議そうな顔をした。

きっと相葉くんみたいな人には俺みたいな人間の気持ちなんて一生分からないだろう。



「とにかくほんと無理だから。俺、人見知りだし。相葉くんの活躍は見たいけど、やっぱり無理だよ。ごめんね」

「分かったよ……。これ以上無理強いはしない」

「え、ちょっ、なに??」



相葉くんはがっくりと肩を落として俺にしがみついた。



「相葉くん?」

「だからしょーちゃんの匂い嗅ぎだめしとく」

「はっ!?」

「だって練習後は汗びっしょりになって近寄れないもん」

「どういうこと!?」

「はぁ~~~~♡」

「いや、ガチで怖いから」



なんか俺の首元すんすんしてるけど!?




「やっぱりここにおった!もう時間や!」

「あ、ほら、お迎え来たよ」

「チッ」



時計を見る。

もうすぐ部活開始のチャイムが鳴る。



「そろそろ部活始まる時間だね。着替えた方がいいんじゃない?」

「雅紀、行くで!」

「やだっ、離れたくないよ~」

「苦しっ」



ぎゅっと力を入れた相葉くんを横山くんが引き離そうと引っ張る。



「こら離れろっ!櫻井くんに迷惑やろ!ほんまごめんな、こいつすぐ連れてくからな」

「あ、うん」

「きみちゃんの鬼ーっ!バカーっ!しょーちゃんとの時間を邪魔すんな!!」

「アホか!!」



う、うるさっ…。

耳元で2人がギャーギャー騒いでいる。



キーンコーンカーンコーン…


ようやく待ち望んだチャイムが鳴った。



「相葉くん!試合を引き受けたんだから、助っ人として役目を果たして、頑張ってくるんだよ?」

「しょーちゃん…」

「ほら、時間になったよ。頑張ってきてね」

「うん…。しょーちゃんは寂しくない?」

「勉強がはかどるよ」

「ひどっ!少しは悲しんでよ!」

「ふふ、今日もたくさん活躍して、あとで話聞かせてね。デート楽しみにしてるからね」

「うんっ…!!」



相葉くんは名残惜しそうにほっぺにチューをしてから、意を決したように離れた。



「俺、頑張ってくる!行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

「昨日の場所で待っててね!」

「はいはーい」



横山くんが「うわ離れた!櫻井くんスゲー」と小さな声で行って相葉くんを連行してゆく。

引きずられながらいつまでも振り返っている相葉くんに手を振る。



はぁ。
無事に部活に行った。良かった。


ようやく静かになった。
1人を持て余す広い教室と静寂。


だけど昨日ほどの寂しさがないのは、相葉くんがこれほど俺の事を気にかけてくれているからかもしれない。

相葉くんにとって俺はもしかしたら特別な存在なんじゃないかと勘違いしてしまいそうになる。




世界史のテキストを開くと勇者のイラストが載っていて、それが相葉くんに見えた。


ふふ。

今日もたくさん活躍してたくさんお話してくれるかな。

キラキラした王子さまが語るキラキラしたストーリーはまるで別世界で起きたおとぎ話のよう。



今日のデートはどこに連れて行ってくれるんだろう。
シャープペンを手にしても気持ちが弾む。


こんなワクワクした気分で放課後を過ごすのは初めてだった。