1週間ぶりに1人で過ごす静かな放課後。
教室ってこんなに静かだったっけ。

おかげで問題がサクサクはかどる。



集中してなんとか難問の答えを導き出した。

ふいに顔を上げると目の前の机には誰も座っていなくて

今まで気にしたこともなかった遠くに響く運動部の掛け声に気づいた。


この中に相葉くんの声も混ざってるのかな
なんて耳をすましている。



大丈夫。
いつもの日常に戻っただけ。



相葉くんは今頃爽やかな汗を流しながら仲間たちと楽しくバスケットボールを楽しんでいるに違いない。

彼はキラキラしてる人達と一緒にいるのが似合うから、きっとここにいるよりもっと輝いているだろう。




分かっている。

放課後の教室で地味に勉強しているなんてほんの気まぐれに決まっている。
一緒に汗を流せば、本当は気の合う仲間と一緒に過ごすのが居心地いいって気づくはずだ。

下の名前で呼び合って喧嘩できるほど彼らの絆は強いんだから。




来週からはまた俺1人の時間になるのかな。


俺なんかと相葉くんでは不釣り合い。

あの時グサッとしたのは、
本当は自分でもそう思っているから。



「うーーーん!」



俺はいつも相葉くんが校門を出てからしているみたいに、腕を大きく上げて伸びをした。



「よしっ。やるか」



いいじゃん。

静かな放課後が好きだった。
ここ1週間は賑やかだったけど、俺もそろそろ飽きてきた頃だったし。


集中しよう。

俺はテキストをめくって、次の問題に取りかかった。










最終下校を知らせるチャイムが鳴って、鞄に荷物を詰めて立ち上がる。

相葉くんの座っていた机を元に戻して教室を出る。


渡り廊下で体育館の方を見ると、まだ部員たちが後片付けをしている最中だった。
練習試合が近いからギリギリまでやっていたのだろう。


俺はいつも通りの足取りで真っ直ぐ進む。

外はもうすっかり暗い。
この時間は気温もぐっと下がる。

今日は塾もあるし早く帰ろう。


自分のクラスの下駄箱からスニーカーを取り出して靴を履き替えて学生玄関を出た。



「しょーちゃん!」



驚いて、聞きなれた声の方へ振り向く。



「え、なんで?」



ジャージにTシャツ、首にタオルを掛けたスポーツスタイルの相葉くんが立っていた。


あぁほら。
やっぱりこの人は爽やかでキラキラしている。
スポーツとスポットライトがよく似合う。



「しょーちゃんがそろそろ来る頃だと思って待ってたんだよ」



だけど相葉くんは俺の隣が定位置であるかのように並んだ。



「バスケ部員の人達と帰らなくて良かったの?」

「部員と?なんで?」

「横山くんとか。相葉くんと一緒に帰りたいんじゃないのかなって」

「きみちゃんは逆方向だし、部員はあと少し片付けもあるみたいだから」

「相葉くんは片付けなくていいの?」

「俺は部員じゃなくて、スペシャルゲストだよ?試合の助っ人。それよりしょーちゃんに会いたくて待ってたの!」

「そうなんだ」

「あのね、ほんとにね、助っ人は準備も片付けも免除なんだよ!練習に参加しただけでも偉いんだから!バスケ部だけじゃなくて、サッカーも野球もバレーボールもそういうことになってるの!」



相葉くんが焦って言い訳して



「…ダメな奴だって思ってる?」



それから不安そうに聞いた。



「あ、違っ、そういうんじゃなくて」



助っ人のルールなんて俺には分からない。
俺がどうこう言えることじゃない。

だけど相葉くんが、俺と一緒に帰ろうとして待っててくれたことは分かった。



「しょーちゃん、もしかしてたまには1人で帰りたかった?」

「ううん!」

「ほんと?」

「相葉くんが待っててくれて嬉しい」



バスケ部のお友達よりも俺を選んでくれたみたいで、なんだかくすぐったいね。



「俺、相葉くんと一緒に帰れて嬉しいよ?」

「かっ…可愛いっ!!!」



1人が好きだったはずなのに。

自分でもよく分からないけど、素直に嬉しいと思える。



「くーーっ、ハグしてグリグリしたいっ!!」



そういえば、いつもだったら勢いよくハグしてグリグリされるはずの雰囲気なのにそれがない。

いつもより距離が離れている気もする。



「相葉くん、なんかいつもより遠くない?」

「そ、そりゃ、めちゃくちゃ汗かいてきたから…」

「え?」

「俺、すごい汗っかきなの。今、汗びっしょりだからあんまりしょーちゃんに近寄れないんだよ」



意外な答えに思わず相葉くんを見る。



「そんなこと思ってたの?」

「思うよー。くさいとか汚いとか思われたくないもん」

「思わないよ」

「いやいや、これはエチケットだから」

「ふふ。相葉くんって優しいんだね」

「えっ」

「気遣い屋さんっていうか。そういう所、すごくかっこいいと思う」

「ほんと!?」

「うん」

「好きになっちゃう?」

「もう好きだよ」

「…………!!!」



相葉くんは急に道路脇にうずくまった。



「え、ちょっ、大丈夫?」

「む…胸がっ…!」

「痛いの?苦しいの?救急車を…」

「呼ばなくて大丈夫」

「でも」

「病気じゃないよ。胸が締め付けられてるだけだから…」

「??」




相葉くんは優しい。


でも時々よく分からない事を言う。