「おっはよ!」
「相葉くん、おはよう」
「ねぇしょーちゃん聞いてくれる?バスケ部のみんながね、ひどいんだよ!」
相葉くんと友達になって約1週間。
今日は開口一番にこの話題だった。
「どうしたの?」
「週末にね、バスケ部の練習試合が入ったんだけど、今日と明日の放課後、部活に参加して欲しいんだって」
演技がかったトーンで悲しそうに言う。
「練習試合を引き受けたんでしょ?」
「うん。俺ね、試合好きなんだ」
「だったら練習も参加した方がいいんじゃない?」
「えっ!?俺がしょーちゃんとの放課後デートに行けなくてもいいの?」
「いいよ」
「ひどいっ!しょーちゃんひどいっ!!」
即答すると相葉くんは嘘泣きしながら泣き崩れた。
てゆーか、あの勉強会ってデートだったんだ。
知らなかった。
「チームプレイなんだから練習にはちゃんと参加しないと」
「じゃあさ、練習終わったらデートしてくれる?」
だから、デートってなんなの?
「うーん。それ何するの?」
「例えば、学校帰りにファーストフードとかファミレス行ったり」
「今日は塾あるから無理」
「早っ!!冷たっ!!」
相葉くんは大袈裟に悲しむフリ。
いつもフルスロットル。
朝から元気だなぁ。
「2日間も放課後にしょーちゃんと会えないなんて…生きていけない…」
「朝も休み時間も昼休みも会いに来てるじゃん」
「放課後の2人っきりの時間が俺にとって毎日の癒しなんだよ!それなのに…!ひどいよ…」
しくしく嘘泣きしながら、指の間からチラッとこちらを見ている。
「くすん、くすん」
「…………」
なにかを訴えているらしい。
やれやれ。
「今日は無理だけど、明日なら塾ないよ」
「えっ!?てことは、デートできる?」
「うん」
「やったっ!!」
ぱあっと飛び跳ねて喜んでいる。
「その、デートってごはん食べるだけだけ?他に何かするの?」
「しょーちゃんは何かしたい?食べたいものとか、したい事とか、リクエストある?」
「うーん、放課後じゃ時間もないしなぁ。それに何があるのかよく分かんない。友達と出かけたことないし」
「そっかぁ」
ほんと、俺ってつまんない人生送ってるんだな。
相葉くんはこんなに俺といて面白いのだろうか。
イマイチ疑問だ。
「じゃあさ、明日の放課後デートは俺がエスコートするよ!」
「えっ!?……大丈夫かなぁ」
「しょーちゃん?心の声が漏れてるけど?」
「ごめん、つい不安になっちゃって。でもあんまり遅くならないようにね。あと安全にね。それから補導されるような人の道に反したことは…」
「ノープロブレム!俺に任せといて!てゆーか俺の事ヤンキーだと思ってる?」
「うっ…」
思わず目をそらす。
今はだいぶ免疫がついたけど、そのなんとかベージュの髪色は普通の学生の色ではないような…。
変な時間に不良の出入りする繁華街をウロウロして絡まれたり補導されたり警察沙汰になったりするのだけは絶対に避けたい。
「相葉くんのことは信用してるけど、身の危険を感じたらすぐに帰るからね」
「大丈夫!しょーちゃんを絶対楽しませてみせるよっ☆」
「……」
舌を出してウインクする。
その軽い言動が俺の不安を掻き立てる。
だけど、ほんの少しだけ楽しみでもある。
放課後に友達と、それも相葉くんと出かけるなんてワクワクしないわけがない。
相葉くんは見た目はチャラチャラしてるけど優しくて気遣いできる人。
それはここ数日でもよく分かった。
信じて……みようかな。
「楽しみにしててね、しょーちゃん!」
「うん」
「今日は放課後デートできなくてごめんね?」
「それは大丈夫」
「おいっ!!」
「ふふ」
相葉くんといると楽しい。
モノクロだった毎日に鮮やかな色と匂いを運んでくる。
温かな春の木漏れ日。
桜が咲いた喜びに似ている。
「初めてのデート、楽しみにしてるね」
それだけ告げると
「うぅっ、可愛いっ!!」
「わっ!びっくりしたー」
突然抱きついて「この子はキャバリア、この子はキャバリア…」と小さな声で呟いていた。