「あらためて、乾杯」

「乾杯」



間接照明の明かりが反射して表面の細工がダイヤモンドみたいにキラキラ煌めいた。



「おいしい!このグラスだと同じワインでも美味しく感じる!」

「ほんとだね」



さすが。
高いグラスって口当たりが全然ちがう。



「ふふ、先生とのペアグラスだからもっと美味しい」

「……」



潤は幸せそうに微笑んだ。


そんなわけで。

仲睦まじくお過ごしくださいと祈りを込めてプレゼントしたワイングラスで乾杯し直す21時現在。


今日の俺は全てが裏目に出ている。
諦めさせるどころか、なんかいい雰囲気になっちゃってるし。



まずい。
この流れはまずいぞ。

今のうちに断ち切らなければ。

もう回りくどい言い方はやめてストレートに言った方がいいかもしれない。



「あのさ、潤はなんで俺が好きなの?」

「ん?なんでって?」

「お前くらい美形だったら別に俺じゃなくたって他にいくらでもいるだろ」

「うーん、よく分からない。好きなものは好きだからなぁ」

「他にいないの?好きになれそうな人」

「そんなのいないよ。俺一途だもん」

「最近告られたとかもないの?」

「あー、それならあるよ。この前バイト先の人に」

「まじで?どんな人?」

「先生ほどじゃないけどまぁイケメンかな。喫茶店のオーナー。確か42才」



は!?
俺より年上じゃねーか。



「俺が着替えてるといつも更衣室に入ってくるから変だなと思ってたら好きだって言わ…」

「ダメ、絶対ダメ!!なんだそいつ!!そのバイトすぐ辞めなさい!!」

「うん。だから先月末で辞めた」

「あ…そう…」



なんだよ。
うっかりムキになってしまった。



「他は?」

「あ、そういえば行ってる美容院の美容師さんに連絡先渡された」

「歳は?」

「5つ上だったかな」

「それも男?」

「ううん、可愛い感じの女性」

「おっ、いいじゃん」

「結婚してるけど」

「ダメ!それもダメ!!」

「ちゃんと断ったよ。俺は先生が好きだから」

「まともな人いないの?同世代とか」

「同世代は好きになれないもん」

「そんなの付き合ってみなきゃ分かんないだろ」

「付き合ってみたけど好きになれなかったんだって」



そういえば、先週そんなこと言ってたな。


ピロン



潤のスマホが点滅した。



「LINE?」

「あ、ジムのトレーナーさんだ」

「トレーナーと個人的にやり取りしてるの?」

「うん。今度個人的にマッサージしてあげるよって言うから」

「はあ!?」

「水曜日の夜にジムに来るならその後家にどうかって…」

「ダメ!!それも絶対ダメ!!」

「えー、なんで?」

「なんでじゃねーよ!絶対下心あるだろそいつ!」

「でもすごく上手だよ。いつもすごくほぐれるし」

「いいから、そんな危険なジムは即解約しなさい」

「そんなの無理だよ。お世話になってるし、断りづらいもん」

「それはお世話じゃなくて下心があって近づいてんの!水曜日なら俺も一緒に行ってあげるから解約手続きしてこよう。分かった?」

「えーっ、勝手に決めないでよ。ジム行きたいんだけどー」

「じゃあ俺の行ってるとこにしなさい。そこなら安心だし、できるだけ時間も合わせて一緒に」

「……」

「なんだよその顔は」

「保護者みたい」

「保護者で結構。大事な生徒を危険に晒したくないの!ったく。なんで行く先々で言い寄られてるんだよ。しかもどいつこもいつも本能のままに生きやがって」

「そんなこと俺に言われても」

「とりあえず、そうと決まったらそのLINEはブロックしておきなさい」

「先生って意外と心配性の過保護なんだね」

「お前が危なっかしいんだよ!」

「でも水曜日にまた会えるの嬉しいな」



潤は嬉しそうに俺に腕を組んできた。


しまった。

諦めさせるどころか、なぜか水曜日の予定を取り付け同じジムに一緒に通うことになってしまった。


なんで今日はこんなおかしな方向に進んでいくんだ!?



「ふふ、デート楽しみだね、先生」

「デートじゃねえっ!」