あれから1週間が経った。
なのに潤から連絡はない。


あの日、今日会おうと約束はしたものの場所も時間も具体的なことは何も決めていないままだった。

かといって俺から連絡するのもなんか楽しみにしているみたいでちょっと…。


約束は約束なので一応予定は空けてあるけど。


忘れてるのかな。
それとも気が変わった?

初恋の俺としばらくぶりに再会して盛り上がったけど、冷静になったらやっぱり冷めた…とか?


うわ。
ありそう。

俺15も年上だし。
試しにやってみたらイマイチだったからもういいや、的な?


まぁ、

それならそれで…

別にいいけど…。



と心の中で謎に強がってみたもののモヤモヤする。


つい何度もスマホを確認してしまう。
そんなこんなで何の音沙汰もないままもう夕方になってしまった。


って、別に潤からの連絡待ってるわけじゃねーからな!くそっ。



ピロン



うわっ、きたっ!
って見たら企業LINEだった。

んだよ、紛らわしいんだよ!



ピロン


また来た!
しつこ…


バナーには「潤からメッセージが届きました」と表示された。



『お疲れ様です。
今日7時にうちで待ってます』



ようやく連絡は来たけど、うちで、という文字に引っかかる。

今回は「そういうことはしない」という約束になっているし、潤の家で2人きりになるのは避けたい。



『会うのは店にしない?
駅前の居酒屋なら予約とれそうだよ』



個室のない少し賑やかな雰囲気の大衆居酒屋の予約がまだ空いていることを確認してLINEを返す。


これでよし。
教育者として同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。

今後の仕事に支障が出る。
なんとなく気分的なものだけど。


見た目でチャラ男だと言われることもあるが、自分は理性は強い方だと自負している。

潤と2人きりにさえならなければ誘惑に負けることなどないのだ。

ふふふ。
完璧な作戦。











しかし。


7:03。
潤のアパート前。現着。


あれから何度かLINEしたけど返信どころか既読にもならなくて結局ここまで来てしまった。

仕方なくピンポンを押す。



「はーい。あ、先生いらっしゃい!」



潤が普通に顔を出した。



「なんだよ。元気そうじゃん」

「うん、元気だよ?」

「なんでずっと未読なの」

「え、LINEしてくれたの?ごめん、気づかなかった」



んなわけあるか。

潤からのメッセージが届いてわりとすぐ返信したし、電話もしたんだから。



「急に連絡途絶えたら何かあったのかって心配するだろ」

「え?」

「…なに」

「心配…してくれたんだ」

「そりゃ、普通するでしょ」



潤が照れたようにはにかんだ。


しまった。
余計なことを言ってしまったかも。



今日の最大のミッションは主に2つ。

①そういう関係にならない
②可能なら俺のことを諦めてもらう

元保育士と元児童。
できれば潤とは今後も変わらず付き合いを続けていきたいと思っている。

そのためには恋愛感情はない方がありがたい。
下手に期待を持たせるような言動は慎まなければ。



「心配かけてごめんなさい。パーティーの準備してたから気づかなかったんだ」

「パーティー?」

「いいから上がって」



一瞬ためらう。

家には上がらず店で飲もうと言うつもりだったけど、何か準備してくれたのならそういうわけにもいかない。

仕方なく靴を脱いで部屋に上がる。



「うわ、これすごいね。潤が準備してくれたの?」



テーブルにはピザにサラダ、デリバリーしたらしいオシャレなプレートが並んでいる。



「うん。並べただけだけどね。先生、アレルギーも好き嫌いもないって言ってたから適当に頼んじゃったよ」

「てゆーか、家飲みだったら言ってくれれば俺だって何か用意したのに」

「ごめん、家飲みって言ったら来てくれないかと思って」

「まあ…確かに」

「座ってよ。パーティー始めよう」

「あ、うん」

「白ワイン冷えてるよ。好きって言ってたでしょ」

「好きだけど、俺そんなこと言ったっけ」

「ふふ、この前言ってたよー」



自分でも言ったことを忘れてるのに、潤は俺の好きな物を覚えててくれてるんだな。

些細なことが妙に嬉しい。



「てゆーかこれ何パーティー?何に乾杯するの?」

「特に決めてないけど」

「決めてないの?」

「うん。何でもいいよ。俺にとって先生に会える日は特別だもん」



いちいち可愛いことを言うんだよなぁ。



「じゃあ何でもない日に乾杯だね」

「あ、なんかそれ聞いた事ある」 

「アリスのティーパーティー。誕生日じゃないなんでもない日が1年に364日あるから、それに乾杯しようって」

「なんか奥が深いね。哲学的」

「はは、確かに」

「じゃあ、何でもない日に」

「乾杯」

「乾杯」




結局。

潤の家に上がり込んで2人でホームパーティーすることになってしまった。


まあ今回は仕方ないか。
これだけ色々準備してくれたのに他の店なんて行けないし。



今回は「そういう事はしない」ということでお互いに合意している。

適切な距離を保って理性をしっかり保っておけばなんとかなるだろう。




しかし。


この夜が再び誘惑との戦いになるなんて

この時の俺には知る由もなかった。