「しょーおーちゃん♡」
ガッと肩を組まれて、香水のいい匂いがした。
「相葉くん!?」
「昨日はあの後、腰大丈夫だった?危うく逝きそうだったもんね」
クラスメイトの視線が集まっている。
いつも1人でいる俺に学校のアイドル相葉くんが親しそうに話しかけているのだから、それはかなり異様な光景だろう。
しかしザワザワした中に「腰?」「イきそう?」「あの2人、何かあったの?」というキーワードが聞こえてきて、からかわれたのだと気づいた。
「ちょっ、変な言い方しないでよ!」
「ふふ、だって本当じゃん?」
「本当…だけど…」
って公式に認めてどうすんだよ!
「しょーちゃんって休み時間なにやってんの?」
「読書だけど」
「昨日も読んでたよね。本好きなんだね」
本は好きだ。
開いた瞬間に面倒くさい現実世界から抜け出して、その世界に飛び込むことができる。
時間を忘れて俺じゃない主人公の人生を生きることができる。
だけど一軍の陽キャに言われると暗に友達がいないと言われているような気がして俺は話題を変えた。
「そうだ、母さんが相葉くんに何かお礼したいって言ってるんだけど」
「えー?いいってばそんなの」
「そういうわけにはいかないよ。何か好きな食べ物とか欲しいものとかある?」
「特になーい。しょーちゃんは俺の親友なんだから、そんなこと気にしなくていいのー」
「ちょ、やめてよ」
相葉くんは肩を組んだまま俺の頭をなでなでする。
振り払いたかったけど、命を助けてもらった身なのでなんとなく強く出られない。
てゆーか、この人何しに来たんだろう?
昨日初めて喋ったばかりなのに、めちゃくちゃ馴れ馴れしい。
まさか本当に俺の事を友達だと思ってるのだろうか。
相葉くんなら話し相手に不自由しないはず。
だってクラスのみんなが羨ましそうにこっちを見ているくらいだ。
わざわざ俺に話しかけに来るなんて、他に何か目的があるのかな。
「ねぇねぇ、聞いてよしょーちゃん。俺ね、この前のテスト5教科中3教科が赤点だったんだー」
「そうなの?」
あぁ、そうか。
勉強教えて欲しいってことか。
俺の取り柄なんて勉強くらいだし。
それなら納得いく。
「じゃあ勉強教えてあげるよ」
「えぇー、いいよ」
いいんかい!!
「ねぇしょーちゃーん」
「なに」
「しょーちゃん、しょーちゃん」
「だからなに」
「呼んだだけ」
「……」
本当にこの人、何しに来たんだろう。
「親友なんだから、名前呼んでもいいでしょ」
「てゆーか重たいんだけど…」
相葉くんは後ろからおんぶみたいな体勢でだらーんと俺に体重を預けている。
「相葉くんって距離感バグってない?」
「えー?そう?」
俺の指摘を気にする風もないし、かといって離れる気もさらさら無さそうだ。
男同士でこんなくっつくのって普通なの?
むしろ俺が潔癖すぎるのかな。
こういうタイプが周りにいたことないからよく分からないけど、別に不快なわけではないし、まぁいっか。
「しょーちゃんっていつもお弁当なの?学食で見かけたことないかも」
「教室でお弁当だよ」
「ひとりで?」
「そうだけど」
「今日も?」
「毎日」
「ふーん」
なんだよ。
いつも友達に囲まれて学食行ってる一軍とは違うんだよ。
この人やっぱり俺が地味なことバカにしに来たのかな。
「じゃあ今日は購買でパン買って来るよ」
「はっ?」
驚いて振り向くと、めちゃくちゃ近くに顔があってビビる。
「お昼いっしょしようね♡」
相葉くんは可愛くぶりっ子調で言った後、ほっぺにちゅっとした。
「……!?」
びっくりしすぎて声が出なかった。
これがカルチャーショックっていうのかもしれない。