「ねぇねぇ先生。まだ悩んでるの?」



腕に絡みつきながら潤が言った。

俺は返答に困って目を逸らす。
そもそも、ベッドで裸でくっついている状況で悩んでると言っても説得力の欠片もない。



「俺たち自由恋愛だよ。20歳はもうコドモじゃないんだから気にすることないって。教え子と結婚してる人だって世の中たくさんいるじゃん」

「そりゃ、そうなんだけど」

「これはオトナ同士の関係」

「……」



潤に視線を向けるとニコッと微笑む。



「オトナねぇ…」

「あっ!ガキっぽいと思ってる!?」

「ぽいというか、ガキ?」

「ひどっ!!若いって言え」



潤は顔をしかめて俺の肩を甘噛みした。



「ふふ、ごめんって」

「また会ってくれるなら許すけど?」

「だからそれは」

「だって先生、俺とはもう会うのやめようって思ってそう」

「……」



図星をさされて口を噤む。



「先生、また会ってくれるよね?」

「それは…」



これ以上はまずい。
気がする。


1度きりなら酔った勢いとか気の迷いとかいう理屈もギリ通るが、続けていたら、
ほら、なんていうか

こういう身体の関係…
ナントカフレンドみたいになってしまったら。


かつての教え子とフレンドなんて、さすがにまずいだろ。

かといって、会ってしまったら潤の魔力には太刀打ちできそうにない。



「次はこういうこと、なしでいいから」

「え…?」

「今回はお誕生日プレゼントだから特別だったの。次回からはただの元先生と元教え子として、普通に会おうよ」



まぁ…

それだったら…



「指切りげんまんしたでしょ?」



潤が俺の小指に自分の小指を絡ませる。

居酒屋で見た時は気づかなかったけど、その肌はしっとりと透き通るように白い。



「ゆーびきーりげーんまん。ね?」



繋いだ指をそのまま引き寄せて、ちゅっとキスした。



「ほら。太陽先生はいい子の味方なんだから。可愛い教え子に嘘ついちゃだめだよ」



ったく。

都合のいい時ばっか先生扱いだ。



「いいでしょ?また会ってくれなきゃヤダヤダヤダヤダ~」

「わーったよ!」

「ほんと?」

「駄々こねるなよ。オトナなんだろ?」

「じゃあ来週会える?」

「急だな!」

「社交辞令って場合もあるから、ちゃんと予約しとかなきゃ」

「信用ねえなぁ。まぁ、来週は特に予定無かったと思うから会えると思うよ」

「やったぁ!先生だーいすき!」



仰向けに寝転がってる俺によじ登り、お腹を合わせるようにうつ伏せになった。



「重っ…」

「気にしない気にしない」

「こういうこと、しないんじゃなかったの」

「うん。次回はね」



そう言いながら、俺に覆いかぶさって耳にキスをする。



「せーんせ?」



耳の奥まで溶かす甘ったるい声。



「昨日、すっごく気持ちよかった」



こいつ。

なんで俺のツボ知ってんだ?


耳元にさわさわ触れる唇の感触と、吐息混じりの声にゾクゾクする。

まだ余韻の残る身体はすぐに熱っぽく疼く。


白くて程よく引き締まった背中に指を這わすと、小さく声を漏らして身を捩った。



「ん……」



美しいボディライン。
反応のいい身体は時々ぴくんと跳ねる。

耳へのキスはさっきよりも吐息が熱っぽくなった。



「はぁ……っ…せんせ…」



俺は全身のラインを味わうようになぞりながら、目の前にある細い首筋にキスを返す。



「んっ…」



こうなったら止められるわけない。

全身の血液が下半身に集まってきたみたいに熱い。


手が
唇が

君を求めて勝手に動く。



これが最後だと自分に言い聞かせながら
来週ちゃんと我慢できるかな、

なんて考えたりしている。



可愛く喘ぐ君を感じながら

沼に堕ちていく自分に気づいていた。