「神様を辞めることにしました」

「はぁっ!?!?」



今月は素敵な喫茶店で紅茶を飲みながらの神様定例会議。

他所でコーヒーを飲むことはしょおさんに禁じられているので、紅茶が美味しいと評判の喫茶店にしてもらった。


そこで兄達3人に報告すると揃って素っ頓狂な声を上げた。



「え、なになに?どういうこと?」

「まさか本気で言ってないよね?」

「だってこの前能力戻ったって言ってたばっかじゃん」



このリアクション。
覚悟はしていたけど。



「たくさん心配かけてごめんね。それに、勝手に決めてごめん」

「いやいや待って、決めたってなに?」

「冷静になってよく考えてよ」

「だめだよ、絶対反対!」

「絶対反対されると思ったから⋯もう手続きしてきた」

「はぁっ!?!?」

「昨日天界に行って正式に受理されたんだ。事後報告になっちゃってごめん」

「え、え、マジで言ってんの⋯?」

「嘘だろ⋯」

「信じられない⋯」

「ごめん」



3人はショックを隠しきれない様子で黙り込んで、私はただ謝るしかない。



「なんでそんな急に⋯」

「そうだよ。何があったの?せめて一言相談くらいしてくれれば」

「あっ、あのコーヒーオタクのせいか!あいつに反対されたのか?」

「そうなの?ジュン!」

「神様辞めろって言われたんだな?昭和の頑固オヤジみたいな奴だ、許せない!」

「違う違う!!しょおさんは何も関係な⋯くはないけど。何も言ってないよ、自分で決めたの」

「やっぱ関係なくないじゃん」

「くそっ、あいつのせいか。もっと早く息の根を止めておけば」

「こらこら!」



神様にあるまじきことを口走る創造神サトシを慌てて制する。
やっぱり今日はさくら珈琲じゃなくて良かった。



「聞いてよ。私は今でも人間たちみんなが幸せになれればいいと思っているよ。それは変わらない。
だけどね、それでもしょおさんが一番なの。誰か1人を選ぶとしたら、絶対しょおさんなの。しょおさんだけには幸せになって欲しいって思ってしまう。それって神様失格だと思うんだ」

「そんなことはないと思うけど」

「考えすぎだよ」

「それにね、しょおさんの隣にいるのは私じゃないと嫌なんだ。他の人がしょおさんと一緒になるのは嫌なの。それがその人の幸せだったとしても、譲りたくないって思ってしまう⋯」



あの時の決断を思うだけで苦しくなる。


さくらさんは身を引いてくれたけど、そうでなかったら私はきっと後悔して苦しんで

もしかしたら誰かを恨んでしまったかもしれない。



「他の人よりも自分を優先してしまうなんて、そんなの⋯神様じゃないでしょ?」



堪えたけど、最後は涙声になってしまった。

言葉にすると言霊は直接自分に跳ね返ってくる。


他人よりも自分を優先させてしまう私が神様でいるなんて許されない。

例え他の人達がいいと言ってくれても、自分で納得できないんだ。



「もう嫌なんだよ⋯しょおさんの幸せも自分の幸せも、願う度に苦しくなる⋯。神様失格なんだよ」

「ジュン⋯  」

「とにかく、全部自分で決めたことだから。しょおさんのことは悪く言わないで。お願い」



3人は押し黙った。



「勝手なことをしてごめんなさい」



サトシもマサキもカズも、私のことを心配して怒ってくれているのは痛いほど分かる。

分かるけど、私が私でいられるためには、この決断しか無かったのだと思う。



「ちゃんとよく考えたんだよね」

「うん」

「後悔しない?」

「うん」

「もしも、彼のジュンへの気持ちが変わってしまったらどうするの?」

「それは⋯」



それは何度も考えた。

考えたけど、答えは出なくて



「まだ分からないけど⋯しょおさんを信じてる」

「ジュンが傷つくのは見たくないよ」

「ありがとう。でもそれは神様でも神様じゃなくても同じだから」

「そうかもしれないけど」

「私、しょおさんだけに“特別”を返したいんだ。いつももらってばっかりだからちゃんと返したい。それでも上手くいかなかったら、後悔はしないよ」



その証拠に、今とても清々しい。

兄たちを悲しませて心配させてしまうことだけは心苦しいけど。


これからは自分に素直でいられる。

しょおさんに世界で一番大好きで、世界の誰よりも大切って胸を張って言えるんだ。



少し冷めて飲み頃になった紅茶を口に運ぶ。
柔らかい香りが鼻を抜ける。

コーヒーもいいけど紅茶も美味しいな。
セットのロールケーキとの相性もいい。


今度しょおさんと二人で来たい。

たまには紅茶でも飲みましょうって言ったらどんな反応をするだろう。

なんてやっぱりしょおさんのことを考えてしまう。



「美味しいね」



美味しいものを口にするとひとりでに笑みがこぼれる。



「ったく、人の気も知らず呑気だな」

「相変わらずマイペースだね、ジュンは」

「やっと特殊能力が戻って安心したのに、まだ面倒見なきゃいけないのかよ」

「それな!」

「うーっ、ごめんってば」



優しいお兄ちゃんたち。


心配かけてごめんね。
こんな弟でごめんね。


大好きだよ。

ありがとう。