「まさき、これカズに渡しておいてくれる?」

「ん?なに?」



小さな箱をまさきに手渡す。

カズが欲しがっていたゲームソフトをプレゼント用にラッピングしてもらったものだ。



「今日、カズがお店に来てさ」

「しょーちゃんのお店に?」

「渡してくれれば分かるから」

「ふーん。明日渡すね」



受け取ると少し憮然とした表情でそれを見ている。



「なに?」

「なんでもないけど」

「けど、なに?」



聞くとじいっと俺の顔を覗き込んで



「浮気?」

「ぶっ!」

「動揺した」

「してない!してない!なんでそうなるんだよ」

「違うの?」

「違うに決まってるじゃん!ほんっとヤキモチ焼きなとこ変わってないなー」

「ふん」

「可愛い。まーさき」

「そうやってボディタッチで誤魔化そうとしてる」

「誤魔化そうとしてないっつーの!」



抱き寄せるとぷいっと顔を背けるからくすぐってやった。

そんな些細なやり取りがいちいち幸せだ。



「拗ねるなって。そう言うと思って、まさきにはこれ!」

「俺にもあるの?」

「当たり前じゃん。でもまさき怒っちゃったから受け取ってくれないかもしれないな」

「もう怒ってないよ!」

「ゲンキンだなー」

「やったぁ。なになに?開けていい?」

「いいよ」



バッグから取り出した小さな箱を手渡すと嬉しそうに包み紙を開ける。



「わぁ」

「ベンダント。着けてくれると嬉しいな」

「着けるよ!ありがとう!緑の石ついてる。カッコイイね」

「ジルコンっていう石だよ。12月の誕生石でもあるし、緑はまさきのイメージカラーだから」

「俺のイメージって緑なの?」



小さなグリーンの宝石がついたペンダント。

メンズのアクセサリーで石のついたものはなかなかないんだけど、以前百貨店で見かけていつかまさきにって思っていた物だ。



「実は俺のもあるんだ」

「あ、お揃いだ。赤もいいね」

「恋人の記念っていうか、しるしっていうか、そういうのが欲しくてさ。まさきの誕生日に何もできなかったから付き合った記念に買っちゃった」

「恋人のしるし⋯」

「つけてあげる。かして」

「うん」



大切な君がいなくならないように
鍵をかけるみたいに細い首にペンダントを飾る。

振り返った君が照れたように微笑む。



「うん、似合うね」

「ありがとう。しょーちゃんにもつけてあげる」



それはまるでお互いに鍵をかけ合う儀式。


君は俺のもの。
俺は君のもの。

だからもうどこにもいかないで。


なんて、そんな願掛けをしてしまうほど切実に君を求めていて、失うことが怖くてたまらない。



「しょーちゃんとおそろっちだね」



愛しい君に
俺の物だってしるしをつけたみたいで



「すごく似合ってる」

「ありがと。しょーちゃんも似合うね」



はにかんで見上げた君にキスをして



「愛してるよ、まさき」

「んっ⋯」



抱き寄せて

舌を入れて


君を味わうように
背中のラインに掌を添わせて撫でて



「しょ⋯待っ⋯」



シャツの裾の入口を探して

次のステップに進みたいのに



「ちょっ、待ってってば!」

「⋯⋯」



今日もまたおあずけの予感がする。



「⋯⋯なんで止めるの」

「ねぇ、あれ観たい」

「あれ?」

「えーっと、ほら、なんか占拠するやつ!今やってるじゃん!しょーちゃんちHulu入ってるんでしょ?」

「入ってるけど」

「観たい観たい観たい!ね?お願い」

「いいけど⋯」



と、いうことで。


可愛い恋人のお願いなら聞かないわけにはいかないので二人並んでドラマを鑑賞中。

こんな高速展開ノンストップドタバタアクションドラマじゃ恋人同士のムードもへったくれもない。


昨日に引き続き、今日もキス止まりの様相が濃厚。

二夜を共にしたというのにこれ以上の進展が望めないまま絶賛寝不足行進中である。



って、いやいや。

キスだけでも充分だろ俺のバカ!!
つい数日前まで会うことも許されなかったんだから。

恋人同士になれたんだから、急に身体の関係なんて望んだら贅沢すぎるっつーの!!


かといいつつ、生まれ変わりとはいえかつて何度も愛し合った恋人が触れられる距離にいて共に夜を過ごすというのに、指一本触れられないのもまた拷問である。



「うわっ、怖っ!!ねぇしょーちゃん、今のすごくない!?見た?」

「見た見た。ヤバいね」



不死身の主人公が嘘だろ?とか言いながらドローンから逃げる画面を食い入るように楽しんでいる恋人を横目に、
嬉しいようなもどかしいようなじれったいような不思議な感情を持て余して、俺は小さくため息をついた。