「よっ。しょーちゃん!」

「わっ」



仕事から帰ってコンビニ弁当を食べながらぼーっと動画を見ていたら、急にカズが現れた。



「びっくりしたぁ」

「そんな驚くなよ。悪魔の登場には慣れてるだろ」



カズはやれやれと呆れ顔でテーブルを挟んで向かい合わせに座る。



「慣れてるけど、マサキはこんな現れ方しなかったよ」



マサキの場合は突然現れるというより、俺が帰宅すると既にうちで寛いでいた。
テレビ見てたり、勝手に風呂に入ってたこともあったな。

その情景を思い出してつい頬が緩む。



「けっこう元気そうじゃん」

「まぁね。まさきが俺の元から離れるの、なんか免疫できてきたよ」



力なく笑いながら弁当のだし巻き玉子を口に放り込む。



「ふーん」



カズは自分から話題をふったくせに興味なさそうに頬杖をついた。



「なに、どうしたの?カズが来るなんて珍しいじゃん」

「別に俺だって用がなきゃ来ねーよ」

「用?心配して来てくれたとか?」

「心配っていうか」



じっ。

と薄茶色の瞳で俺の顔を見る。



「…なに?」

「まさきと連絡とってねーの?」

「あー。あれから一切とってないよ。俺がウロチョロしてたら邪魔になるから」



言いながらへこむ。

そりゃ、まだ未練タラタラだけどさ。
かと言って今のまさきの日常を邪魔したいわけじゃない。


まさきを愛しているからこそ、俺は身を引いたんだ。



「つーか聞いてよ!この前まさきとばったり会ったんだけどさ、よりによってデート中だったの!もう最悪だよ。なんでうちの会社の前で…」

「それっていつ頃?」

「え?確か、先々週の土曜だったかな」

「だからか」

「なにが?」

「まさき、別れたんだよ」

「……へっ?」



カズは超重要事項をさらっと口にした。



マサキ、ワカレタンダヨ。


って言ったよね、今。

突然すぎて脳の処理速度が追いつかない。



えっ?

えっ?


えっ???



別れた…??



「え、それって…」

「だからどうなったかと思って」

「え、うそ、別れたの?まさきが?なんで?いつ頃?」

「いや、俺も全然知らなくてさ。今日学校で相手の友達が話してるの聞いたんだけど、どうやらまさきから言ったっぽいんだよな」



マジで?


って喜ぶなって、俺!!



でも。

だめだと思いつつも期待せずにはいられない。


「その…理由とかは…?」

「わかんね。まさきに聞いても何も教えてくれないんだよ。でもそのうち落ち着いたらしょーちゃんとこに連絡くるんじゃね?」

「そっか…」



やばい。

顔が綻ぶ。


って、喜ぶべきことじゃないのに。



「一応俺はしょーちゃんの味方だから、味方っぽいことしとこうと思って」

「うん。ありがとう」

「そういうことだから、あとはうまくやれよ。じゃあな」

「あ、ちょっと!」

「ん?」

「あの…、まさきに俺から連絡してもいいと思う?」

「さあね。用があったら向こうから連絡くるんじゃねーの?」

「そ、そっか…そうだよね…」

「まだ別れたばっかだし、あんまりガツガツいくと引かれるぞ」

「うっ」



的確すぎるアドバイスにぐうの音も出ない。

カズって結構モテるタイプなのかも。



「ねぇ、カズ。また来てくれる?」

「はぁ?人間と友達になった覚えはねーっつーの」

「いいじゃん。話し相手になってよ」

「ったく。そのうち気が向いたらな」



ふふ。

カズって素っ気ない態度とるけど、根はけっこう優しいんだよな。



「待ってるね」

「てゆーか!お前は俺よりもまさきと話せよな。この前とはまた状況変わったんだから」



ほらね。

なんやかんや優しいんだ。



「うん!そしたらまたサトシも呼んでみんなでパーティーしようね」

「フン」



カズはぷいっとして、それからふわっと消えた。

最後照れてた?
俺の知ってる悪魔はみんな優しくて可愛い。



泡の抜けたビールをひと口飲み込む。

カズの言っていたことを思い出す。


まさきが別れた?
まさきから言ったって?

詳細は分からないけど、まだ俺には連絡がない。



スマホを手に取って動画の画面を切る。

LINE、メール、電話…インスタもXも、新着を何度更新してみても特に変わりは無い。




それから3日経っても、まさきからの連絡は無かった。








完全にラブレターにしか見えないんですけど。
不滅のにのあい。

まーくんお誕生日おめでとう♡
𝑯𝒂𝒑𝒑𝒚 𝒃𝒊𝒓𝒕𝒉𝒅𝒂𝒚